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レンとご飯は中止になった。
「すまぬな」
「お構いなく」
「失礼致します!」
王が呼んでいると言われたから、きっと地図の事だろうと思ってレンも一緒に、そして騎士で1番偉い人を呼んで欲しいとお願いしたら騎士団長も来たので、2人きりのご飯は中止になり、私は拗ねている。
レンと初デートだったかもしれないのに…
「食べないのか?」
私に問いかける王は楽しいのか、はしゃいでいる雰囲気を感じる。
食事も他国からの品らしく美味しそうな食材だ。
「聖女?」
私の対面には王、そして真ん中に居る私の間をものすごーっっく空けて団長とレンが横に並んで食べている。まだ誰も手を付けていないけど…
「………嫌か?」
分かってるじゃん!嫌なんだと理解してるなら邪魔しないで!邪魔してもいいけど、せめてこんなに遠い場所にレンを置かないで!
「デートだった………」
「げほっ!」
「デート?誰と?」
咳き込んじゃった?大丈夫?それならしょうがないよね?私が背中を撫でてあげますよ!
椅子から降りてスタスタとレンの座っている場所まで行って、背中をよしよしすると案の定固まったレンだけど、クーパーは優秀な側仕えだから私の椅子をすぐさまレンの横にぴったりとつけたのを見て満足しながら椅子に座った。
もちろん座らせてもらったけど…大きいからね、王は浮いて座ってたけどね、王まで不自由ならこんな椅子の高さにしなきゃいいのに。
「聖主とデート………だった…のか?」
「聖女と聖主が婚姻を結ぶとパワーバランスが崩れたりする?」
「い…………や…………???むしろ良いのではないか?」
家族公認になったという事はもう伴侶でいいかな?
「何故聖主とデートするのか聞いても良いか?」
「好き」
「げほっ!」
意識を取り戻し……あ、まだなの?咳き込むだけだったのかな?レンは器用なんだね、そんなところも好きだよ!
「好き?聖主が?」
「好き」
「………何故か聞いても良いか?」
何故?
運命だから惹かれる心はある、それに格好いいし、反応がいちいち可愛い。
色んな好きは接する度に生まれてくるけれど、今はまだよく知らないから…
「とりあえず顔と体」
「なんっ!?なっ、なっ、なっ、」
聞こえた!?もしかして私の言葉届いた!?
ああ、駄目かも…
またスン…って顔になっちゃった…
私が言う事でもないけど、現実だからね?むしろ私しか言えないから言うけど、現実だよ?幻聴かな?みたいに首を傾げなくてもいいんだからね?
「……ふはっ!くっくっ!そうか!顔が好きか!」
「好き」
面白そうに笑う王に嫌がる姿勢は見て取れないから、王からも幻聴じゃないと伝えて押せ押せしておいてくれないかな?
「お言葉ですが聖女様!」
「ヒナノ」
「………」
もしかしてちゃんと聞き取れた?
「…………ヒナ……ノ……様、お、お言葉ですが!醜いモノをからかうのはあまりにも悪趣味が過ぎます!」
「醜いと思うモノは私の視界にない」
「そっ!?っっ〜!で、ですが品性が疑われてしまいます!」
「問題が?」
「ヒナノ様の悪評が立てば心を痛めるのはご自身なのですよ」
心根も優しい。好き。
国の品位とか神殿の品位とか言い出してもきっとおかしくない程にこの国の美醜は狂ってるはず。それなのに、私の心を心配してくれるなんてっっっ………!好きっっ…!
「私は私が好きな物や人は知られていたい」
「ですが、あまりにも悪趣味です………」
「なら、そのように」
「?どういう意味でしょう」
「“召喚された聖女は美醜が狂っていて聖主に一目惚れをして無理矢理迫っている”と」
「…………………………っっっ」
「クーパー、王」
「はい」
「ふふ、ああ」
「お願いね」
「かしこまりました。」
「もちろんだ!」
「なっっ!?」
団長も居る、護衛も居れば王の護衛も居るこの場で発言すれば広めなくとも勝手に広まってくれるだろう。
「いきなりですまないが、時間がなくてな……地図を光らせた場所の魔物討伐をしたら淀みが早く消えるというのは本当か?」
違う。
淀みを発生させる核が存在する。
普段は清く澄んだ核は世界を美味しく美しくしてくれる、けれど魔物を放置し森を荒らされてしまうと核が淀みを発生させてしまう。
そして淀みを作為的に発生させるやり方がある。それをしている者が居るけれど、そっちは問題ない。
あの子はあの子の正義でこの国を淀ませているのだから、放っておいていい。あの子の優しさで、まだこれだけの淀みで済んでいる。
私は淀みを浄化する役目を全うする為に召喚されたのではなく、人間達の強化が本来の使命だ。
「光らせた場所のみだけでなく周辺の淀みが薄まり、“早く消える”のではなく他の場所で討伐し続けるよりは効果がある」
核の在り処が分かれば重点的にその場所の魔物を討伐してくれるでしょう。
「なるほど…浄化については臣下が集まった時に説明をしてもらおうと思うが、それまでに出来る事があるか?」
「クーパー」
あとはクーパーに任せてレンにあーんして、出来れば食べさせて欲しいなぁ?
「騎士と神官を強化する為に聖女様が手合わせを行います」
「「「なっ!?」」」
あ!今が好機!
「あーん」
「っっ」
ああ…驚いた顔と開いた口をしていたからあーんしようと思ってたのに…
閉じちゃった…
あーん。って、言ったのが良くなかったか。
それでも言いたかったから………次の好機を待つか。
「通達は終えております、そして聖女様は聖主様とのデートをお望みです」
「ま、まて!」
クーパーはどうして優秀になったんだろう?そこまで私の気持ちを汲めるなんて…
「聖女!手合わせなど必要か!?」
レンの口が開くのを待ってたけど、王から声をかけられたから前を向く。
どうして必要じゃないと思うんだろう?団長は鍛えているけど…
正直、他の国では道端の子供くらいの強さだ。
団長は腰に剣を携えている。
ちょうどいいかな?
分かりやすく魔法陣を展開して、椅子の上に乗せた足先から飛ぶように移動する。
「「「!」」」
団長の剣を抜いて大袈裟に体を回転させながら、団長の髪を掴んで首に剣を当てる。
「っっ……はっ、」
もちろん手加減はしてる、これくらいなら扱えるようになるから学んで?という意味を込めた手加減だ。
「動け」
「っっ」
団長に背後から命令する、どうやったら回避出来る?と。
「「…」」
今の団長には動く事も出来ないだろうな。一歩動けば切っ先が喉に当たる、頭も肩も動けないように拘束してるから…
「う、動けません…」
そういう判断になるだろう。
団長ならね?
掴んでいた頭から手を退けて、団長の椅子を蹴って肉体強化をしながらクーパーに剣を向ける。
避けられない事は分かってる。私もクーパーも。
「ぐっ!」
でもクーパーなら首に剣先が当たろうと構わず体を動かして、魔法陣を展開するだろう。
パリンッ
魔法陣を分かりやすく重ね掛けして私に当たるはずの魔法陣を壁に放り投げた。
「クーパー来て」
「はぁっ、はい」
魔法陣を…この国に居る間は目に見える形で展開しておこう。説明されるより、見て学んだ方がいい。
私が面倒じゃなくなるから。
魔法陣をクーパーの首に展開して傷を治してからレンの横に座ってご飯を食べた。
「ありがとうございます。聖女様は…憶測ではありますが、弱い私達に教えてくれるのだと思います。その為の手合わせを望んでおります」
「「「…」」」
これからはクーパーにお任せしよう。
「あーん」
「ぱくっ………っっっ、んっ!」
好機は逃さない。
呆然としているレンにあーんが出来ました。
「………頼む」
うんうんと頷きながらご飯を食べ進める私に倣って食べ出した3人。
「あーん」
「っっ、そ、そ、………」
「…」
これ以上はやめておこう。レンが固まりすぎてご飯が食べられなくなっちゃう。
神官達は魔法の遣い手だと言ってたな、魔力操作を学んでおいてもらいたい。
うーん…あ、糸でいいか。
刺繍糸を出してくれる蜘蛛は私が重宝しているモノ、普段は洋服作りなんかで使うんだけど、糸には魔力が籠もっている。そして、その糸に自分の魔力を流す事が出来、魔法で色を付ける事も可能なこの糸に正しく細くはみ出ずに流せれば魔力操作も学べるだろう。
「クーパー」
「はい」
レンの瞳と同じオレンジ色に手元の糸から端までゆっくりと色付けるように魔力を流して見せてからクーパーに渡す。100人分くらいで足りるかな?
「お任せ下さい」
レンには私が直接教えるからね?
なんだか飲み込むような素早さでご飯を食べてるレンの手を握って…
「っっ」
魔力をまた弄ってみると、同じように魔力を体内に巡らせていく。
「ずっと」
「は、はい、あ、あの、」
眠っている時もだよ?身に付けておこうね?
「て、て、て、手を、その、わか、分かりました、からっ、」
「あとで繋いでくれる?」
「………」
魔力の流れも止まっちゃった。ご飯食べられるようにって止めてたのに…
ごめんなさい。
「あー…悪いがレドには話がある」
「レド?」
「レドモンドの愛称だ」
王とは従兄弟か兄弟なのかな?仲良しなんだろう。
「ぶぅ」
「!………ははっ!レドと呼ばぬ方が良いか?」
「いい、レンは私だけ」
「ふはっ!そうか、そうだなっ」
少しだけ拗ねながら結局デートはなくなっちゃったなぁ…なんて思ってた。
「私もヒナノと呼んでいいか?」
王から聞かれるけど、許可制でもないし敬うような者でもないから今のうちに伝えておこう。
「いい、誰でも呼んで構わない。敬語、敬称不要」
「最初に出会った頃も言っていたな、敬われるのが嫌いか?」
嫌いというより面倒だ。
遠回しな言い方も、気軽に話しかけてこないのも面倒。ぽんぽんと気安く伝えてくれた方が面倒じゃなくていい。
「通達しておこう」
「ありがとう」
「う、うむ、んんっ…!手配をしておく、しばらくはのんびりしておいてくれ」
王がそう言って席を立つと団長とレンも立ち上がって深々と挨拶しながら…
去って行った。
レンも持ってかれちゃった…
「本を用意しております」
歩くのに慣れていないから、浮いて部屋まで戻った私がレンと会えたのはそれから3日後…
こんなに会わない日が普通なら私…干からびてしまいそうです。




