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歓迎と感謝の意味を込めた食事はなしになる方向で纏まりそうだ。
クーパーがいい案を出してくれたお陰で、レンの憂いが晴れそうな現状に、少し早いけどご褒美をあげたらとっても喜んでたよ。
ビシャカが。
「記憶を消す方法を教えて下さい」
「…」
使い方はビシャカが知ってるから教えて貰ってー、なんて言いながら軽い気持ちでご褒美を渡した次の日からこんな事を言われるようになりました。
「“聖女様”」
「!?」
そんな寂しくなる名称で呼ばないで!?
そしてそんな猫なで声を発さないで!?
ぶりっ子しながら鏡を見て視線を合わせないで!?お母さん悲しいよ!
「没収した!」
「ありがとうございます」
ビシャカの手元にある筒状の瓶を即座に回収した。
パリンッッ!!!
「「…」」
粉々に割れました。
いえ、割られたよ。
クーパーが寝不足で悩んでいたから、少しの睡眠でも回復出来る煙?お香…かな?をご褒美としてあげた。
元々、ビシャカの世界で購入した物だったから使用方法は聞いてくれれば分かると思って投げたんだけど、どうやらあのお香。
催眠術にも用いられるらしく、しかも、人間相手には“ちょうどいい効き目”だったみたいで一時期大流行したんだとか。
いや、うん。大流行した時に買いはしたんだけど、そういう物だとは知らずになんとなしに買っただけなんだけども。
人間が狂わず、深い眠りに入るだけのお香は淫魔が夢の中に入り込み、おふざけで遊ぶにはちょうど良く、催眠術として使用した場合、通常よりも奔放になる人間を食べられるんだとか…
「ごめんなさい」
「お気持ちはとても嬉しかったので、謝罪は結構ですよ」
「これなら」
「必要ありません」
「…」
安眠グッズ!!!
なんて名前が付きそうな色々を取り出してみたけど、受け取ってはもらえませんでした。
あのお香で散々な目にあったクーパーはきっと、これから安眠グッズには手を出さないだろう………
「ご褒美考えておいて」
「ありがとうございます」
ちなみに記憶を消したいのはビシャカの方ではなく、クーパー自身の記憶らしい。
朝の支度を終えた私たちは今日もレンの執務室に行き、先に仕事をしている。
『レドー…むにゃ…』
煩い精霊は瓶の中で今日もすやすやと眠っている。
追い出す時はレンが直接伝える事となったから、弾き飛ばせない。
ちなみにクーパーは見えている。
そして煩い精霊にさえ見えてないフリを続けてるのは面倒だからだろうな。
『ヒナノー…ばかぁ…』
他の世界で精霊と関わってたりするのかな?
「ヒナノ、戻った」
「おかえりなさい!」
椅子から立ち上がって浮きながらレンの元に行くと今ではしっかりと腕を回して抱きしめ返してくれる。
「明日から元に戻るよ」
いつもいつも思うけど、毎日毎日、会議会議って本当に謎だ。
そんなに話す事ある?なんて問い質してみたいよ。
というより、神殿の聖主という立ち位置のレンを王城に引っ張り続けなきゃいけない理由もよく分かんない。
聖女の伴侶だからとか、訳の分からない理由を付けて会議に呼ぶ貴族がなにをしたいのか本当に謎。
「これからは神殿に注力出来そうだよ」
「?」
「くすくす、困らせたね。立場を理解させてきたからもう大丈夫」
王弟という立場で仕事をするのは分かるけれど、本神殿の聖主として、王命でもあったその地位は私が伴侶になったところで変わりはしない。むしろ確固たる地位が築けるだろう事は常識知らずの私でも分かる。
そんな言わなくても分かる事を幾月かけて理解させなきゃいけない意味が分からない。
分からなさすぎる。
「今日の夜に連れて行って欲しい」
「ほんと!?」
この国から離れたらなんでもしていいんだよね!?どれだけ好きか伝えても、どれだけかっこいいか伝えてもいいんだよね!?
「クーパー、予定は」
そうだった、クーパーも連れて行くんだった。
「は、はい!祈りを捧げてきます!」
「?」
「クーパー、紅茶」
「………失礼致しました」
紅茶を放り投げる勢いで祈りの間に行きそうだったよ。
止めたよね。レンに紅茶まだ出してないからね?仕事してから行こうね?
くすくすと笑いながら私を抱き抱えて椅子に座るレンは楽しそうに私と慌ててるクーパーを見るから私も嬉しくなって笑う。
そんな時。
ガシャンッッ!!!と、茶器が壊れる音が耳に入り、頭を抑えてるクーパーが目に入った。
「どうした!?」
「んー…大丈夫だよ」
そう声をかける私を優しく椅子に落として、慌てながらクーパーに近寄った。
「大丈夫か?」
「っっ、ビシャカ様!もう少しお静かに!」
「なに?」
憶測だろうけど、考えている事は合っているだろうなと思いながらぷかぷか浮いてレンの背後から首に手を回してぶらぶらしながらクーパーではなくレンに落ち着くよう声をかけた。
「友達が話しかけてるだけ」
「はなし?」
「ビシャカ様!!!」
頭を抱えているクーパーは諦めたのか、ネックレスを服の下から取り出し引きちぎるように外した。
「はぁっー……申し訳ございませんでした」
「いい、大丈夫か?」
「はい、問題ございません」
ネックレスにある飾りは連絡出来る物。
そしてそれは耳に直接入ってくる。
練習すれば声なき声を拾うように話せるけれど、クーパーはまだ習得していないので直接口に出さないと話が出来ない。
だから、仕事中は声を無視する事もある。
今のように。
「ビシャカが喚いたんでしょ」
「はい、返してと仰っておりました」
耳に直接入ってくる音は、時にこういう“不具合”を起こす。
「説明して頂けますね?」
「はい!」
『!』
獣性漂うレンはいつだって素敵です。
ちょっと早口で説明するね?
「私があげた贈り物を友達が奪ったから返してもらったの」
「……よく分かりませんが続けて」
「気付いたビシャカがわー!わー!ってクーパーに喚いて、うるさいよーってなったからネックレス外した」
「………何一つ分かりませんでした」
「うん」
詳しく説明してあげたいのは山々なんですけどね。
「ひどーい!!!」
「!?」
「「…」」
ほら、ビシャカが来ちゃってるから。
びえびえと泣きながらクーパーにしがみついて、酷いよぉぉ…!って言ってるからね。
この世界に来た瞬間、クーパーが場所を教えてたのか迷わず神殿に来たからね?多分だけど精力を辿って来たみたいだよ?とりあえずの説明はしたよ?
「友達のビシャカ」
「「…」」
「かえしてよおおおおお!!!」
一応、人間のフリをしてるとは通達してあるからこんな風に突撃されないとは思うけど、この世界の出入りは監視してあるから来たのはすぐに分かったよ。
「どおしたらかえしてくれるのおおおお!!!」
「「…」」
そもそもね?
「ビシャカ」
「ぴっ!」
あれってさ。
「愛し子にあげた贈り物が何故」
「ひうっ!?」
クーパーへの贈り物なんだよね。
「お前の手元にあったのか説明しなさい」
「うううう、奪いました!」
「私の子から?奪ったというの?お前が?」
「ごごごごご、ごめんなさーい!!!」
とりあえずビシャカの頭を踏む所から始めてみようかな?




