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外では相変わらずちゅーが出来ないけど、いいのだ。
伴侶になった次の日から仕事を手伝ってるから執務室でも2人きり。
朝のお祈り。というか、神への感謝を伝える時間は離れるけど、それ以外はほとんど一緒に居られる。
私も祈ればいいんだけど……なんだか、子どもに謝ってる気がして躊躇してしまうから一緒には行かない。
あの子も私に祈られたら複雑だろうし。
神官服を整え終えたら椅子を取り出して座らせて後ろから髪の毛をイジる。
仕事なんて恨めしい………とっても恨めしいけど、伴侶になったんだから傍に居られるし、身支度も整えてもいいのだ。
「今日の夜は旅行ですよ」
「寝る場所変わるだけ」
「……満足に観光させてあげられなくてす」
「違うよ!レンといれたらそれでいいの」
「はい」
観光なんていいのだ。
その気になれば行きたいところにいつでも行けばいい。
「レンは?」
「ん?」
「行きたいところないの?」
「ヒナノの故郷には……行ってみたいと思っています」
「旅行じゃない夜こっそり行こ」
「そんな簡単に…?」
「うん」
髪の毛を整え終わったら部屋中綺麗にして窓を開ければばっちりだ!
レンには全て話してない。
ゆっくり理解してもらえればいいと思っているし、仕事で大変なのだから他の事に気を取られても欲しくない。
笑いながら私を抱き上げて寝室の扉を開けた先にはクーパーが居る。
私の支度を整えるのは譲れないみたいだ。
「おはようございます」
「「おはよう」」
すぐに祈りの場へと向かうレンと離れて、私は支度を整えてもらいつつクーパーの日常を聞くのが日課になっている。
「寝不足です…」
「休み取れば?」
「この座を譲りたくありません」
色んな世界に行ったり学んだりしてるクーパーは毎日夜遊びをしてるから寝不足だ。
現状、この国の者と気楽に話が出来る相手はクーパーだけ。
レンが私の事を知った後、気兼ねなく話せたらいいと思ってる。
いいのだ、ゆっくりで。
傍に居られる今が充分に、幸せだから。
「ビシャカ様といる時はいいのですが……マリウス様の傍にいて学んでいると、どうしても眠くなりますね」
「ビシャカとヤれば眠くならないもんね」
「はぁ…時間が足りませんね」
ビシャカは淫魔。
精液を肉体に注がれる事で強くなったりする種族だけど……まぁ、基本的に性行為が大好きで、相手に活力を与える精力というモノを注ぐといつまででも出来るし、睡魔も襲ってこないからクーパーはビシャカと居る夜なら元気。
ちなみに私も精力をレンに与えてるから寝なくても大丈夫!
疑問に思ったレンにはちゃんとそういう事が出来るとは説明しておいた。
マリウスは悪魔。
人間を痛めつけたい・殺したいという欲を持って生まれてくる種族だから、拷問を学んでいるんだろう。
悪魔に精力なんてモノは備わっていないから、クーパーはマリウスと会った夜は眠そうだ。
私がご褒美で紹介した2人とは仲良くしてるみたい。
「たまに置き去りにされますよ」
「はい、これで帰れる」
「ありがとうございます……とても助かります」
クーパーの家に帰れる転移石を渡したら凄く安心した表情をしたので、余程振り回されてるんだろうなぁ…と思う。
「レンと一緒に帰る夜ある、一緒に来る?」
「よ、よろしいのですか?わ、私などが…」
「うん、子どもだって伝えてくれてると思う」
「……複雑です」
「…」
私がどんな存在なのかまでは知らないだろうけど、なんとなく2人から聞いてると思うからこういう反応なんだろう。
それにしても……
子どもという立場はクーパーにとって嫌なのかな?
「嫌?」
「なんと言いますか……私としては成人しておりますので…」
「うん?」
「複雑ですがそれで結構です」
「うん」
複雑な心境は当分続きそうだ。
「祈りを増やしておきます」
この世界を管理してる神とは会わないと思うよ?
魂を磨く毎日が楽しそうな珍しい神だし。
祈りの声を聞くのも好きな珍しい子。
朝ご飯を食べてレンの執務室に行けばクーパーは退室する。
「サボって寝ておけば?」
「お言葉に甘えます」
「うん」
そして執務室の机にある金平糖の瓶の中で寝てる煩い水の精霊を取り出すのも日常だ。
『なにするー!あー!ヒナノー!まただー!ばかー!』
ひょいっと外に放り出す。
2人きりにして欲しいよ、ほんとに。
先に仕事して待ってるといつも嬉しそうに扉を開けるレンを見れるこの時間がいつもわくわくする。
あ。
扉の外に居る!
ん?
………
んなっ!?
「レン!」
「ヒナノ?どういう事でしょう?」
「…」
扉を開けたら問いただされました。
私の浄化は、“そこにいれば勝手に浄化されていく”というモノ。
そしてもう一つ、浄化と同じで止めたくても止められない事がある。
抱いた相手の魔力量が増えるのだ、望む望まない関係なしに。
もちろんそれも説明した。最初は制御が難しかったけど、ようやく習得したレンの魔力量は上がれば自然と出来る事も増えていく。
「精霊様が見えるのは喜ばしい事ですが、何やらヒナノが追い出していると聞きました」
「…」
『ばーか!ばーか!』
「…」
この馬鹿精霊!話せる喜びより先に愚痴を言うってどういう事よ!?
扉越しに聞こえてきたよ!お前が愚痴ってる会話がな!
「中に入りましょう、精霊様もご一緒に」
『ふんっ!ばーか!』
「…」
しょうがないから馬鹿精霊を入らせて執務室の椅子ではなくソファに座った私は大きく息を吸って不満を吐き出す。
「だって!ここでする時あるもん!そんな場面見せたいの!?私はやだ!レンの可愛い顔を見れるのは私だけだもん!」
「そっ!?……た、確かに……それは……」
「ふんっ!馬鹿精霊!そういう事よ!早くどっか行って!」
『あー!レド!レド!ひどいー!』
「ち、違います!ですが、ヒナノの、その、み、見られたくない事もありますので…」
「ふんっ!ばーか!」
『ヒナノがばかー!』
「お前が馬鹿だ!」
『ヒナノだー!』
「少し落ち着きましょうか」
『ひっ…!』
「はひ…」
レンの獣性漂う雰囲気に逃げやがったな!
ふん!
「どちらに…」
「2人きりがいい」
「私もそう思ってるよ」
解決かなぁ?なんて抱き着いた私にレンが感謝を言い出した。
「ありがとう、精霊様が見れるようになったのはヒナノのお陰だ」
「違う、レンが制御ちゃんとしたから」
「くすくす、それでも…ありがとう」
「うん」
「寝室も立ち入り禁止に?」
「うん」
「……少し考えておきましょう」
「え?」
「ヒナノが仕事を手伝ってくれているお陰で暇な時間が出来ているからね、庭でお茶をする時間を設けたいと思っていたところだ」
「うん」
「精霊様はどこが好きだろうか…」
「レンが考えてあげて」
「……そうだな」
「ちゅー」
「くすくす」
2人きりになるのを禁止されなくて良かった。
今のうちに精霊の立ち入りをまた拒絶する魔法陣を張っておこう。




