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ソフィーリヌには風の精霊から加護を受けているのが分かる。
というよりも、ソフィーリヌが治めているであろう国に風の加護があるのは知っている、そして風の精霊の伴侶が水の伴侶だとも聞いて知ってはいた。
だからこその“滅びに繋がる”という言葉なのだろう。
風のは怒っている?というより悲しんでいるのかな?
ちなみにレンについているのは水の精霊、あの子は言う事を聞かずにふらふらとしていた所で出会ったレンを気に入った。とかそういう事だろうな。馬鹿っぽいし。
「何を訳の分からない事を…!」
王がソフィーリヌに怒ってるのは…止めさせた方がいいな。
「やめなさい」
「ヒナノ!巻き込んですまないとは思うが今は…」
「それ以上愚かな口をきくなら私が王を殺すけど?」
「「「っ」」」
「それでもいいなら続けなさい」
歴史は残っている。
それは多分…
「聖女は他世界から来たと伺ったが?」
ソフィーリヌが警戒しながら私に問いかける。
「間違いではない」
「目的は」
「浄化」
「それにしては随分と知りすぎているな」
「私は嘆きを無視していない」
バンッ!と机を叩いて勢いよく立ち上がるのは辺境伯。
どう言い伝えされているのか分からないけれど、辺境には代々言い伝えられている事でもあるんだろう。
「無視し続けているだろうが!」
「それは国であって私ではない」
「っっ」
「何故真実を話さないの」
「俺の国でもあるからだ!」
真実を知ってしまったら滅びるとでも思ってるのかな?
という事は、あまり事情を知らないな。言い伝えというのは真実ではなくおとぎ話になるから、どうしてもねじ曲がってしまうんだろう。
「お前の真実を王に話しなさい」
「っっ、くそがっ!」
ソフィーリヌは傍観か。
辺境伯よりは知っているな…というよりは、友達の嘆きを聞いてるのか?
「昔…俺の領土は他の国のモンだった…それを…それを…当時の国王が精霊様を拐かし無理矢理ウォーカー国のモンにした…大量に人を殺させてな」
「「「なっ!?」」」
ちょっと違うけどまぁ、いいか?
「俺達は謝ってきた!代々何処に居るかも分からねぇ精霊様に謝って許しを請いてんだよ!」
「それは…」
国の在り方などで反発する事が多かったスタンリー家はあぶれ者として認識されている。
「ソフィーリヌ私は浄化を続ける」
「今の話を聞いていたのか?」
「辺境伯は黙りなさい」
突然現れたと言っていたから風のにでも連れて来てもらったんだろう。
「浄化をしなければ世界が死ぬ」
「それはウォーカー国のせいだろう」
「ソフィーリヌ、ウォーカー国の淀みが広がればやがてそちらにも風が吹く」
中立というよりは…
「ふふ」
「なんだ?」
「いえ、随分と苦労してるのね?」
「まるで子どもの癇癪だよ」
泣きつかれでもしたんだろう、風のは優しいんだな。
ここに現れてお前達を殺す!なんて言えば済むはずなのに、人間を介して止めさせるように言ってくれとでも頼まれたんだろう。
優しすぎる。
伴侶の敵だと認識している国にまで情けをかけているんだ、話し合えるなら話し合いで解決して欲しいと…
「私は弱い人間を叩き上げる為に居る」
「浄化をしに来たのでは?」
「そもそも弱いからこんな事になってるのよ、誰のせいかと問われればウォーカー国が馬鹿で愚かなせいよ」
「ふはっ!伴侶の国だろう?」
「馬鹿に馬鹿と言ってなにが悪いのよ」
「ははっ!それもそうか!」
神に頼まれているのは人間の底上げ。精霊など居なくとも淀みを発生させず己達だけで生きていけるのに、ここまで弱くなった人間を叩き上げる事が本来の目的。
ついでに浄化もしておこうか、みたいな?居るだけで浄化されちゃうし。
そして精霊の嘆きがなくなればいいと思ってはいるけどどうすればいいか分からないって感じだった。
「聖女は」
「まだ!?」
ヤバい!
咄嗟にレンの前に立って隠すようにしているけど…レン大きいな!?今だけ少し小さくなれない!?
「「「「精霊様……」」」」
風のがなんでここに来るかな!?止めて欲しいな!?ソフィーリヌにお願いしたんじゃないの!?
あ、待って!レン!跪かないで!ちょっと見えちゃう!隠してるのが見えちゃうから!
「風の…ここは俺に任せろと言ったはずだろ?」
「遅い!」
「今話してる」
「長居しなくてもこんな人間共………は?」
バレた!
レンに水の精霊がついてるってバレたよ!なんで私が馬鹿の事を一生懸命隠さなきゃいけないのよ!?
「退け」
「無理」
「はあ?僕の言う事聞きなよ!」
「無理!」
「退けってば!」
「ちょっと話してみたら?凄い馬鹿な子だから分かってすらないよ?」
「どこにいるの!?」
「さあ?」
「お前鬱陶しい!」
私もあいつが鬱陶しい!あの馬鹿精霊!こういう時に居ないんだから!ちょっと力なくしておいて?なんて言えないじゃん!
「そいつが無理矢理従えてるんだろ!」
「私の伴侶をもう1度貶してみろ、拷問する」
「はあ!?はあああ!?人間ごときがなに言ってんの!?そいつ貸せ!」
レンをそいつ呼ばわりしても貶した事になるからね?私、有言実行するタイプだからね?
「う…あああああああ!!!やめ、やめろ!」
宙でくるくると回ってればいいんじゃない?2時間程でいいよ?
「貶すなって言った」
「ツガイを貶されて怒らない奴は居ないと教えただろ?」
「うるさいな!?うわあああああん!」
まだ傅いてるレンをソファに戻して膝の上に乗った。もうバレてるし隠してもしょうがないもんね。
「ヒナノ…お可哀想です」
「レンの事貶した」
「事情があるのでしょう?まずは話を…して下さるか分かりませんが…話を伺いましょう。知らぬ間に私がなにかしていたかもしれませんから」
「…」
「いいですね?」
「はい!」
ぐるぐる拷問を止めたけどちょっと気に食わなかったから壁に吹き飛ばしておいた。
「ヒナノ…」
「止めた」
気持ち悪いみたいで床にだらん…と横たわってるからラグを敷いてさっぱりする飲み物も置いておいた、うん、私優しい。
「真実は伝えておく」
「それでいいか?」
「ぅぅ………」
ソフィーリヌも巻き込まれて大変だ。
ちょっとだけぐずぐずと泣いているから、しょうがないなぁ…と思いながら、レンから降りて風のの横に座る。
「傍に居てあげて」
「っっ、でも、でも、僕じゃっ!」
「大丈夫」
「お前に何がっ!」
分からないよ、君の気持ちも水の気持ちも。
だけどちゃんと見たから理解はしてるよ。
「人間がごめんね」
「僕っ僕っ」
ラグに顔を伏せてどうしようもない憤りを感じてる。
未だに嘆き悲しんでいるあの子を想って。
「言ってあげたらいいよ」
「ぐすっ、なにを…」
「僕だってツライんだよって」
「っ」
「そんな水のを、いつまでも見ていたくないって、僕の事見て欲しいって」
「ひっく!僕っ、僕っ、守れなかったっ!」
「うん、でもこれからは守れるでしょ?」
「っっ〜〜!うわあああああん!」
起き上がったのに私を押し倒すように抱き着いて泣き出すから、今度はラグじゃなくて私の上で横になって泣いている。
「大丈夫大丈夫」
「ひうっ…!」
「時間ならあるよ、ゆっくりでいいんだから」
「ひっく、ん、うんっ!」
髪の毛を撫でていたら風のの肩越しにソフィーリヌと目が合った。柔らかな眼差しは良き隣人として近くで見守る者の瞳。
「神からの伝言だよ」
「ひっく…!うん?」
「“私には分からなかった。手を出すべきか慰めるべきか分からない。分からない事ばかりで見過ごした何かがあれば………謝るべきなのでしょうか?”だって」
「うあぁぁっっ…!」
今でも分かっていない。どうしたらいいのか分からないと言う。
でも分かってる。
だってどうしたらいいのか分からなくて私に声をかけたんだ。
声をかけたという事は、したい事が決まっている証。
助けて欲しいのは世界だけじゃない。
こうやって泣いている子に泣き止んで欲しいと思ってるんだって、私はそう感じたよ。
「ぐすっ!…………」
あ。
我に返ったのか消えちゃった風の…
「参ったな…」
それもそうだろう。ソフィーリヌってどうやって帰るの?
「ヒナノ」
「レン」
横になっている私を抱き上げてくれるレンのほっぺにちゅーしてみた。
「「…」」
おお、怒られない!
「精霊は協力しない」
ソフィーリヌは最後まで友人の助けになろうとしているのか。
「正しい」
「何故だ」
「伝えたはず、私は嘆きを無視していない」
「…そうだったな」
「話は口外しないで」
真実を知れば精霊を利用されてしまうかもしれない。
だから王にも、ここに居るウォーカー国の者達には口を閉ざしてもらう。
「ああ……すまない」
「真実はあとで教える」
「…すまん」
今となっては何が悪いのか、誰が悪いのかなんて精霊にさえ分からない。
「送る?」
「ははっ!頼めるか?」
「レン一緒」
「はい」
「部屋から出ないですぐ戻る」
レンと手を繋いで獣人ごと転移した。
正確な場所が分からないから空の上に。
「「「「「「っっ!」」」」」」
「いきなりだな!」
「飛ぶから言って」
「分かった、お前たち漏らすなよ!」
急降下して街並みが見えるような場所まで降りながら道を教えてもらう。
風の加護がある場所まで転移したからそこまで遠くない。
城が見えてきて降りれそうな場所に足をつく。
「ソフィーリヌ」
「なんだ…」
ぐったりしてる?風ので慣れてると思ってたけど…
チラっとレンを見るとぐったりしてる…ごめんね!?今度からはもう少し優しく飛ぶね!
「これで連絡取れる」
「石か?」
「水のには知らせないで」
「何故だ」
「これでも私怒ってるの、水のにした仕打ちは許せるモノではない」
「…」
「それでもと、淀んでいるならウォーカー国に精霊をなんて事を思って欲しくないわ」
「ツガイの国だろう」
「淀みなど、精霊の力がなくとも人間でどうにか出来る」
連絡石を渡したから何かあれば呼んでくれるだろうと応接間まで戻ってみんなに全ての歴史を話した。
でも失敗しちゃったんだよね…
私達と出てくるはずだったソフィーリヌ達が居なくて護衛達が驚いていたのに気付いて失敗したと思った。
せめて外に出てから送れば良かったよ…




