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説明しよう!淀みとは…!
みたいな説明を集めた人達の前でする日。それだけなら楽しくないけど、レンとも会える日なんです。むしろ私にとってはそちらが本命。
この世界を楽しむ為に、洋服や装飾は手持ちの物ではなく与えてくれる服を着ようと思ってはいたけれど、正直そんな事言ってられない。
レンに可愛いと思われるように、そして見初めて頂けるよう、最大限着飾って行きたいと思います!
露出は好まれないみたいなので、空間収納から首から足元まで隠すようなドレスを選んだ。メリハリがあるように見せる為の装飾やベルトもばっちり。髪型はレースのリボンを編み込んで左側だけ羊ヘアーにした、もちろん色味はオレンジだ。
私のセットや服装などをじっと見ているのはクーパーとノーラン。
今日はこの2人が仕えている。
この子も色白で少し勝ち気そうな瞳にボブの濃緑に金目、華奢なのになんだか“くっコロ騎士”みたいな雰囲気を持っている。
全部クーパーにお願いしよう。と行動した私を即座に理解したクーパーは、私の出す魔法陣や紅茶の淹れ方、今のように服装までも吸収しようと必死にお勉強してる。これくらいなら問題ないかな?と私の中でルールも決めながら教えていく。
急速な発展にも良し悪しがある。そして、それらは本来この国の者達で作り上げていかなければならないと考えているので、なるべく気を付けながら教えている。
歴史や常識を学ぼうと思っていたけど、この国は恋愛が盛んなのか小説が面白くて、読み進める手が止まらない。
お陰で美醜については正しく理解したと思う。可愛らしい印象を持つ人間が好ましく感じ、それ以外にも可愛らしさを演出する為にわざと家具を大きく作ったり、しなだれた仕草など、国民が思い描く美というのは固定されている。
要するに、ぶりっ子であればなんでもいい。みたいな印象が強い。
私とは程遠い人格だからレンがどう思うか不安になりました。
幸い姿形だけはこの国の価値観に合っているようだけど、それって見飽きたら終わりじゃない?あれ?こんな中身だったの?その顔で?なんて思われないか不安で仕方ない。
馬鹿みたいな幻想を私に持ってくれていない事を祈る…祈る他ないのだ。
レンは可愛い、ガチガチに固まっちゃうところも、あれ?今なに話してた?ああ…気のせいでしたか。みたいになる表情も可愛いし、驚いてる顔も可愛い………
つまりレンもこの国が思う美に倣って…いや?あれは天然だ。間違いなく天然だろう。
ということは、だ。
レンの魅力に気付く人間も、いや!もう気付いている人間も居るはず………
王も気付いてた、あんなに可愛い弟が…あ、レンは王弟なんだって。あんなに可愛い弟を持つ王はけしからんな。
「お時間です」
姿見で何度も確認してから浮いて移動する。
歩くのは諦めた。歩きに慣れる努力より今は可愛いと思ってもらえるように精進する時…!
でも歩いてる方が綺麗に見えるから、レンの前でだけは歩こうと思っています。
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【レドモンド・ウォーカー】
浄化方法の説明、必要な魔力や人材、そして貴族たちへの顔見せという意味合いも込めている会議室に居る。
ヒナノ……んんっ…!ヒナノ様の美しさは既に出回っている。ついでに…
「陛下が無理に願ったのではないか?」
「それはそうだろう、聖主を好んでいるなんてどこの酔狂だ」
わ、私に、その、好意を、……んんっ…!つまり、その、そういう噂も広まっている。
殆どは浄化についてではなく、ヒナ…ノ…様…の、んっ…、美について語られている集まりに私も来ている。
普段は億劫で仕方ない会議など憂鬱で仕方ない。
貴族たちからはほとんど侮蔑のような目で見られ、醜いと称される者たちからは“あれよりはマシだ”という目で見られ、すぐ逸らされる。
罵詈雑言などしょっちょうで、近付く者は大抵が私を罵倒する者だった。
兄が玉座に着いたばかりの頃に放った言葉は“美醜ではなく、能力でのし上がれ”と、美醜について問われるのが嫌いな兄のお陰で少しはまともな環境に置かれている。
「陛下がお着きになりました」
今のような視線や、これから訪れるヒナノ様について考えていた時間が長かったようで、いつの間にか兄が到着する時間になっていたみたいで慌てて頭を下げた。
「皆、楽にせよ」
席に着き、兄の言葉を待つ。
そう、そうだ。
幻聴のようなヒナノ様のお言葉を思い返すより、今は浄化について心を砕かねばならない。
「近年、増加の傾向にある淀みに悩まされ、民達を脅かし作物にまで影響を及ぼす事態に私は…奇跡にさえ縋りつきたい思いで聖女召喚を行った」
彼女は聖女様であり、私の…
「皆も知っての通り、召喚は成功した!現在は神殿内に滞在され国の為、浄化を行って貰う事にも了承を得た」
わ、わ、私のなどと…!なんと驕った考えか!
「だがしかし、召喚についての書物に関しては曖昧な部分が多く、私達が知り得る知識がない…そこで聖女に説明してもらい理解するよう、皆に集まってもらった」
あ、あれは、何かの間違いです!わ、わ、私を、す、す、……っっ〜!そ、そんな事は起こり得ない!美しい方と触れ合いがなかったからと、そのような事を妄想してしまうなど…!
「聖女の地位は私同等、またはそれ以上だと認識しろ」
それ以上…そうだ、彼女はとても強い方でもある。私など取るに足らない者だろう。
このように夢想している暇があるなら、もっと国の為にと考えなければならないというのに…!
可憐で可愛らしいあの方が魅せて下さった戦い方や、魔力操作の仕方。
凛とした立ち姿に、美しい所作。口数は少ないけれど、あの方は目で伝えて下さるのだ…
私を…
「聖女様がお着きになりました」
はっ…!?わ、私はまたなにを考えて…!?
挨拶を贈る為、皆が立ち上がり礼をする私達の耳に入るのは…
カツン…カツン…カツン…カツン…
ゆったりとした動きだろう靴を鳴らす音に、柔らかな花の匂いが…
「顔を上げて」
一斉に顔を上げ、そして皆固まった…お会いするのが初めてではない兄も私も、慣れぬ美しさに固まり呆然とし、思わず美しさを堪能してしまう。
それになんです?あの髪型は…
左耳を露わにし、他国でも見た事がない。
複雑に編み込まれ芸術品のような美しい髪型には、オレンジのリボンがアクセントになっており、先日お会いした際には気付けなかったが髪の毛に赤が混じっていた。ほんの少しの赤。赤とオレンジと黒で美しい色彩が出来上がっているのを見て、また見惚れてしまう私と………視線が合っている………?
「レン…おはよ、会えて嬉しい」
そんな声が聞こえ、煩い心臓の音がますます大きくなっていく…
周りの者たちもまさか、レンがレドモンドという意味だと分からずきょろきょろと見渡すのも無理はないだろう。わ、私だって嘘のような…
くっ…!何故、兄はにやにやと笑っているのですか!
「わ、私こそ、お会い出来、光栄…です」
「レンも?」
そ、そのように、笑われてはいけません…し、心臓が壊れてしまいます…
「聖女、今一度言わせて欲しい…協力に感謝する。」
ま、また、私は幻覚を見ていた…
兄の言葉で我に返った私は、貴族達の視線に何故だか安堵した。
このように見られるのが普通であって、あ、あ、あのような………い、いけません!何を考えて…!
「淀みについて教えを請いたい」
そうでした、浄化の方法を説明して下さるのだと、いつからか伏していた顔を上げヒナノ様を見つめ……見ていると、右手を前にと出した瞬間、貴族達の懐から魔石がコロコロと落ち、意識があるようにヒナノ様の手の中に入っていった。
「魔物を召喚する魔石は淀みを悪化させる」
まさか、そんな事を言われると思っていなかった我々は驚愕し、ざわざわと騒ぎ出す場を収めたいが、驚くのも当然だ。
これは魔石などという代物ではなく、魔力増長石という、余った魔力をいざという時の為に使用する石であり、貴族なら身につけている者も多い。
「知らなかったとはいえ、こんなにも近くに淀みを悪化させる物があったとは………」
「魔力を込めなければ大丈夫」
兄の言葉に賛同するようにポツリと…
「近隣国にも通達しなければ……」
そう呟いてしまう。
ウォーカー国では、ほとんどが一部貴族の使用で済んでいるが、民らが日常的に使う国もある…
皆、私の言葉に思案しこれからの事を考え始めてしまったが、議題に挙げるべき話題ではなかった。
「皆、静まれ。聖女、騒がしくしてすまない、石については理解した」
今は浄化について説明に来て下さっているのだ、他の事は私達で後日話し合うべきだというように兄が声を上げたのをヒナノ様が確認すると、クーパーが動き出し、机の上に地図を広げ始めた。
ヒナノ様が手を翳すと、地図上に一本の光の線が伸びていく。
そして、光の線を中心に円を描く光が地図に広がる。
「こちらは見本となっております。聖女様が立つ場所が光の線、そして円になっている場所が浄化範囲です」
クーパーの言葉に間違いがないと首をこくこくと縦に振るのは、出来れば止めて頂きたい…
は、話が入ってきません…
い、いえ!話を聞かなければ…!
1人単身で召喚されたヒナノ様が頑張っているというのに、なにを見惚れて…!
「つまり、聖女が移動すれば範囲は代わり、浄化場所も変更するのか…?」
「そのようです」
「すでに浄化を始めているという事か!?」
「そのようです」
まさか浄化が進んでいるとは…
ヒナノ様は浄化をどのように行っているのでしょうか…もし、体に負担などあれば即刻止めて頂きたい。
「一箇所につきどれほどの時間が要するか分かるか?」
「異なる」
そこまではクーパーに話していなかったようで、ヒナノ様が答えて下さるお顔に疲労は見えないが…大丈夫なのですか?
「これは…?」
「淀みには核と呼ばれるモノがあり、1度破壊すれば浄化も進みやすくなると仰っております」
ヒナノ様が地図の上に手を翳した後、今度は点々と水色の光が立つ。
「ですからここに聖女様も向かい核の破壊を行います」
思わず声を荒げてしまいそうになる。
ヒナノ様がお強いのは存じているが、見れば魔物が蔓延り我々でさえ手の出しようがない場所ばかりだ。
兄もヒナノ様の強さを…いや、私よりも知っているだろう。
だから止められない。
ヒナノ様の強さが必要なのも、また事実。
そして、その強さと魔力操作を既に教わっている神官と騎士達には伸び代を体感している。もちろん私もその1人だ。
これから手合わせをするというヒナノ様を見ればきっと反対など出来ない。
だが、反対してしまいたくなる。
危険だという事は、貴族達も理解している為ガヤガヤと煩くなっているが…兄はじっと歯を食いしばり耐えているような表情だった。
私と同じ気持ちなのだろう。
「……今、聖女が行っている浄化方法では駄目なのか?遅くともこの範囲の回りに居れば浄化は可能なのではないか?」
「無理、淀みにくくする為に必要な保管方法もその場で伝える」
「聖女ではなくとも浄化が出来るのか?」
「浄化ではなく淀みにくくするやり方」
私は…召喚について、1人の人生を奪ってしまう事について、本当に考えられていただろうか…
こんなに華奢で美しく、守られるべき人が前線に赴くなんて…
「私は、これから1万年…10万年と先、世界が汚れ消滅してしまうのを少しでも長く食い止めたい。お前達の力が必要、協力して欲しい」
「協力を要請しているのはこちらです!ヒナノ様をこれから使い潰してしまうかもしれない相手にそのような願いなどっっ!重荷を1人で背負おうとなさらないで下さい!どうか、どうか…!ヒナノ様が幸福となるよう手伝いを私達にさせて頂きたい!!」
思わず心のままに口にするのを止められなかった。
何故、懇願するような、我々に協力を願うような言い方をなさるのか…!そこまで心を砕き想うような居場所ではないはずだ!
なのに…なぜ…
私はこの方になにが出来る…
「では、遠慮なく」
聖女様は私の目の前まで歩いてくると、右膝を床に着き、左足を立て、真っ直ぐと私を見やるその瞳は…
「レドモンド様をひと目見た時からヒナノの心は奪われ、レドモンド様の心に近付きたいと願い乞う事をやめられません。どうか、レドモンド・ウォーカー様の伴侶に選んで頂けませんか?」
そう言って、頬を染め、キラキラしい瞳で、まるで愛されているかのような錯覚に陥っている私の左手を取り…
手の甲に口づけを落とした。
「レン大好き」




