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黄昏と黎明のアストリア  作者: 空想好き
第1章:Bランクの日常と歪な契約
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幕間 それぞれの思惑

2話連続投稿です。

王都アステリア、冒険者ギルド本部。


石造りの大広間はいつもと変わらぬ喧噪に満ちていた。依頼票の前に群がる若者たちの声、鎧を引きずる音、酒場から漂う麦酒の匂い、それは王都の日常の象徴だった。


だが、その奥にある会議室だけは別世界のように静寂の色に染まっていた。


長卓に並ぶのは、ギルド上層部の幹部たち。副ギルドマスター、レナ・シルヴァナスが席の中央に立ち、報告の束を手にしている。


冷徹な淡紫の瞳が一枚の報告書を読み上げるたびに、室内の空気がさらに張り詰めていった。


「よってBランクパーティ静寂の歯車は任務を終え、全員帰還。ワイバーンの巣の位置を特定し、現地の魔物の捕食連鎖を確認。被害報告はなし」


その言葉に幹部の一人が思わず息を呑んだ。


「大型のワイバーンと遭遇したのか……」

「しかも巣を発見したと……」


驚愕と懐疑が交錯する。だが記録板に刻まれた符号は事実を示していた。

レナは書類を机に置き、静かに告げる。


「危険な渓谷調査は成功。静寂の歯車……彼らの調査力は、もはやAランクで間違いないでしょう」


沈黙が広がった。冷たい事実に、誰も軽々しく口を挟めなかった。




一方、王城の一室。

政務を司る執務室では、宰相が机上に広げられた地図を睨んでいた。

机の上には、ヴァロワ伯爵の使者が持ち帰った密報が置かれている。


「ワイバーンの巣を発見……無傷で生還だと?」


皺の刻まれた額に不可解な色が浮かぶ。


「ヴァロワの暗部が動いていたはずだ。崖から落ちたという話も聞いた。なぜ負傷者の話すら出ていない」


使者は深く頭を垂れる。


「ハーピーの卵による撹乱は成功しました。しかし……レン・ヴェリタスの指揮で群れは無力化され、撤退を許した模様です」


宰相の唇から低い声が漏れる。


「……指揮も優れているのか。だが、卵による錯乱とは。過激な手を打ったな。目ざとい連中に警戒されるぞ」


彼にとって、辺境出身の冒険者が未知の成果を挙げたという事実は極めて都合が悪い。

調査が失敗し、王子派の旗手であるユリウスの信用を下げる、それが宰相の狙いだった。


「ヴァロワ伯爵に伝えろ。やるなら次はより確実性を取れ、と」




その頃、王都の別の場所では。

王子派の屋敷にて、ユリウス王子と聖女アリアが密かに報告を受けていた。


「ワイバーンの巣の位置が判明した……それは確かだな?」


ユリウスの瞳は冷静だが、その奥に鋭い光が宿っていた。


「はい。静寂の歯車の記録板には確かに符号が残されています。谷底の捕食連鎖と、北東の窪みにある巣の存在。証言も一致しています」


報告したのは、ギルドの受付を兼ねる王子派の密偵だった。


アリアは胸に手を当て、安堵の息を吐く。


「……よかった」


ユリウスは微かに笑みを浮かべた。


「彼らは強い。……いや、強すぎると判断されたかもしれない。次の手はより狡猾に出てくる可能性がある。私たちでも手を打とう」


報告に耳を傾けながら、アリアの胸には別の思いも芽生えていた。

彼が魂を削りながら仲間を救う姿。その代償を、誰が支えられるのか。




王都の裏路地にある古びた倉庫。

夜更けにそこへ現れたのはレンとゾルディの二人だけだった。


「緊急呼び出しとはね」


ゾルディは壁にもたれ、指先で短い煙管を弄んでいた。


「本来なら追加費用が発生するんだが……あんたの顔を見る限り、洒落じゃ済まない話らしい」


「ワイバーン調査……渓谷の崖の上に影を見た。魔物か、人か。確かめたい」


レンは余計な前置きをせず、要点だけを告げた。


ゾルディは片眉を上げ、しばらく沈黙した。

やがて肩をすくめ、わざと軽い口調で返す。


「単純な問いに見えて、答えた途端に俺の命が尽きる類いだな」


「受けられるか」


「はっきり言おう。その依頼は受けない」


ゾルディは煙を吐き出し、目を細めた。


「もう一度言おう、受ける価値がない」


「……」


「普通ならここで相談料をいただく。緊急呼び出しならなおさらだ」


ゾルディは口元を歪めて笑った。


「だが今回は取らない。金を受け取れば相談の可否に伴わず痕跡が残る。それは避けたい」


レンは沈黙を保ったまま視線を逸らさない。


「中立、ってやつさ」


ゾルディは両手を広げた。


「借りは作らない。だから受けないし、金も取らない。……ただ、それだけだ」


返答はない。だがレンの脳裏では、すでに答えが形を取りつつあった。


(ゾルディがここまで明確に提示している。つまり、影について知っていると断言している。人間の影であり、名前を出せない存在がそこにいた、ということか)


ゾルディはその無言を観察し、口元に小さな笑みを浮かべた。


「おや、やっぱり推測はできるらしいな。俺が何も言わなくても」


レンは外套を翻し、踵を返す。


「……十分だ」


倉庫の扉が閉じ、足音が遠ざかる。


取り残されたゾルディは煙管を弄びながら、低く笑った。


「依頼は受けない。金も受け取らない。私は中立さ」


(レンと暗部の対立。本当なら結構な金になるんだがな…)


ゾルディにとって、レンの呼び出しは想定内の出来事であった。

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