内緒だよ
小さな町を支配しているリカが行方不明になった。
彼女は何処に──?
『内緒だよ?』
万引きをした瞬間を見てしまった私に、リカは笑顔で言葉の呪いをかけた。
リカとは幼馴染だ。
リカの父は市長、母はPTA会長。
この小さな町で彼女は最強のカードを持っている。
リカも自身の両親の価値を知っているからこそ、イジメも、万引きも、まるで息をするように日常的に行う。
リカは表向きは生徒会長にも任命されるような成績優秀な優等生だ。大人たちはリカを疑わない。
リカも疑われないように上手く悪事を働く。
イジメている同級生にはバラしたらこの町にいられないようにしてやると脅しをかけ、万引きされた店に気付かれても市長の娘だからと見てみないふりをされる。
だから、いつも起きてるか寝てるのか分からないおばあちゃんが経営している駄菓子屋で偶然リカが万引きしているところを見てしまった私にも、リカは和かに「内緒だよ?」と言った。
私には「誰かに言ったらお前をイジメ尽くしてやるからな。」という言葉にしか聞こえなかった。
「私たち“友達”だからさ、今度これの色違いあげるね!」
とリカは自分の手首に着けている可愛いブレスレットを見せてくれた。
どうせそれも万引きしたのだろう。
貰ったらますます逆らえなくなる、と思いつつも私は無理矢理笑顔を作ってリカと別れた。
何も関係ない顔して眠る駄菓子屋のおばあちゃんが羨ましい。
そんなある日、リカがいなくなった。
父である市長は町民にも協力するよう呼び掛け、自身の権限を最大限に使い娘を探し回った。
正直、私も町の人たちも安堵していた。
もうあの娘に怯えなくて済む、と。
私はリカに呪いの言葉をかけられたあの駄菓子屋さんに行って、相変わらず眠るように動かないおばあちゃんに話しかけた。
「リカ何処に行ったか知ってる?」
おばあちゃんは当たり前のように返事をしない。
「何か、リカとパパ活してた社会の先生が捕まったらしいんだけどさ、リカが何処にいるかはまだ分からないんだって。」
私は10円チョコだけ買おうとおばあちゃんの前に10円を出した。
動かないおばあちゃんの手のひらにお金を置けば商品は買った事になる。
いつものように手のひらに置こうとすると、おばあちゃんの手にはリカの手首にあったブレスレットが置いてあった。
驚いて思わずおばあちゃんの顔を見ると、おばあちゃんは人差し指を口に当てて、
「内緒だよ。」
と微笑んだ。
手のひらの上のリカのブレスレットには、微かに血が付いていた。
〈終〉




