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タイトルのない手紙

作者: 叫び

 父さん、母さん。

 僕は今、あなたたちへ届けない手紙を書いています。


 世間では感謝の手紙なるものが有難がられているみたいですが、僕にはとてもそんな綺麗なもの書けそうにありません。


 僕の心が風船のように破裂した時、あなたたちは仕事のせいだと思って、自分たちのせいだとは少しも考えていませんでしたね。

 僕はいつものように逃げて、あなたたちの前では他のことのせいにしていたことも理由でしょう。


 元々他責思考があることを否定できませんし、嘘をつく癖だってあります。


 でも、それでも僕はあなたたちのせいだと確信しています。


 父さん、覚えていますか。

 自分のやりたい仕事ばかりして、家庭を顧みずに他所のためにだけ行動して、外からは賞賛を浴び、すべては神様のおかげですよ、なんてのたまっていたあなたは覚えていますか。


 僕はあなたとの少なすぎる思い出を覚えています。

 母さんに家庭のすべてを押し付けて仕事だけしていたという事だけ。そのくせ家は貧しくて、お小遣いなんて雀の涙ほどもない。

 周りが羨ましくなって盗みを働いた時だけ僕に相対したのを覚えています。

 自分が趣味に行きたいけど子供の面倒をたまには見ないといけないからと、嫌々僕をつれていったこと、そしてほとんど放置して自分だけ楽しんでいたことを覚えています。

 僕の都合なんてお構いなしに自分の都合に付き合わせて、無理やり宗教行事へ頻繁に参加させたことを覚えています。

 僕がやりたいことを言ってもプロになるのは難しいからとすべてダメだと言ったことを覚えています。


 母さん、覚えていますか。

 僕が悪いことをしたらいくら泣き叫びながら謝っても家から閉め出して放置していたことを。

 僕が障碍者である兄にいじめられて泣いていることが日常になったら、兄をあまり叱らなくなったことを。

 何かをやりたいと言ったらお金がないと拒否したことを。

 そのくせやった方がいいと思ったことはすぐにやらせて、すぐにお金が無くなったとやめさせたことを。

 嫌だと意思表示しても、甘えるなと主張を絶対に聞いてくれなかったことを。

 妹の進学費で食費がないからと僕にお金を入れさせたことを。

 すべて父さんが正しいと考えを放棄していたことを。


 あなたたちはいつだって自分たちに都合のいい意見しか聞いてくれなかった。

 気づけば相手にとって都合のいい嘘をつくようになって、しまいには僕にとって都合のいい嘘を平気で使えるようになっていたよ。


 父さん、母さん。

 僕はあなたたちが無計画に増やしたであろう兄弟を恨んではいません。

 兄弟らしく怒りもするし、イラつきまもしますが、恨んではいないんです。


 でもあなたたちについては心のどこかで深く恨んでいる自覚があるんです。

 周りを助け続け、周りからいくら人格者だとたたえられていても、僕は恨んでいるんです。


 覚えていますか。

 受験で不安な僕に呪詛のようにお金がないと僕に呟き続けていたことを。

 僕が高校の初登校の日、中学時代の友達との記憶が何も思い出せないと言ったことを。

 あなたたちは軽く聞き流して気にもしていませんでしたが。


 覚えていますか。

 高校の費用もバイトして払って、大学もバイトして払えば行けると思ってた僕に対して、進学は許さない、働いて家にお金を入れろと言ったことを。


 覚えていますか。

 下の子たちが学校を卒業してお金の心配がなくなった後、他人のために僕のお金を使い込んでいたことを。


 覚えていますか。

 突然僕の中の何かが破裂して、動けなくなって、医者から診断が下され。

 働くことどころか生きることすら苦痛である僕にあなたたちが言った言葉を。


「なにかやりたいことはないのか?」


 あなたたちは心配そうな顔でそう言ってくれましたね。


 今更過ぎるそれが優しさだと、本気で思っているんですか?


「ほかの人も辛いんだから、頑張れ」

「私も昔はそうだったけど、頑張るしかないんだよ」


 こんな言葉で本当に僕が慰められると思っているんですか?


 あなたたちが誇っていたメンタルケアも、神様の言葉も、僕のこころには何も届いていないのに。

 大人になって、こんなにも泣き叫ばなければ気づけなかったんですか?


 僕は頑張ってきたよ。

 いつまでたっても昔の自分たちの方が辛かった話しかない、そんなあなたたちからして見れば足りないかもしれないけど頑張ってきたんだ。


 お金がないと言われたから働いた。

 やりたいことはすべて否定されたけど、あなたたちの望み通りに働き続けた。


 空っぽな自分に気づいた時、なにか一つでも取り柄が欲しいとあがいて、己の無能さに気づいて、どうしようもなくなった僕にかける言葉がそれでよかったんですか?


 僕の何を見てきたんですか・・・・・・。


 あなたたちなりの愛があったことは知っています。

 僕の心にあなたたちへの愛は確かにあるから。


 でも同時に僕は理解してしまったから憎いんだ。

 あなたたちにとって僕は、自身や他人よりも関心が持てる相手ではなかったということが。


 あなたたちみたいになりたくなかった。

 なのに、振り返って見ると嫌でも思い知らされるんです。


 嫌なほど似ていると。


 僕も、兄弟も、あなたたちに似ていると。


 すぐ他人のせいにするくせ、どこまでも自分が正しいと声高に叫んでいる。


 醜くくて、腐ってるのに、良くも悪くも決してそこを認められない。


 あなたたちと違って、外面を繕えないほどに壊れた僕は、誰から見ても立派な社会不適合者だ。


 あなたたちはこんな僕を息子にもって憐れんでもらえるだろう。

 僕のために方々へ融通を聞かせるよう頼み込んで何かやっている気になっているだろう。


 貯金のなくなった僕を社会復帰させるためといい、無理やり知り合いの職場に放りこんでハイ終わり。


 クソくらえ。


 あなたたちがためになるという『自分の考え』を『医者よりも正しい』と押し付けてくるのにはうんざりなんだよ。苦しんでいる僕を医者とおまえらとの板挟みにして楽しいのか?


 いい加減表面だけ優しさをなぞるの止めろよ。


 自分をいい人間だと思うな。


 いいか、おまえらも僕も社会のゴミなんだ。

 人として大事なものが大きく欠けているんだ。


 そのはずだ。


 そうじゃなくちゃおかしいだろ。


 僕の心は少なくともそう叫んでいるのに、世間の評価は全然違うってどういう了見なんだ。


 こんな親でも世間ではいい人間だと呼ばれることを僕は知っている。

 何せ他人を助け続けてきたのだ。他人から見ればいい人だろう。


 それにずっと言われてきた。いい親御さんだと。


 ネットを見てもそうだ。両親みたいな人間が他でも賞賛されている。

 そして僕みたいな人間がゴミ屑だと呼ばれている。


 憎いんだ。本当に。どうしようもなく。


 なのに。


 なのに。


 ・・・・・・なんで歳をとってから穏やかになるんだよ。


 どうして今更丸くなるんだよ。


 これで僕が気持ちをぶつけたら、僕が悪いみたいじゃないか。


 僕があなたたちを口汚く罵って、今までのすべてのゴミ屑行為を世間にバラまいて、僕と一緒に落ちろと思える人間であったならどれだけ良かったか。


 クソだよ。世界なんて。両親なんて。


 だってこんなにも苦しすぎる。こんなにも息苦しいのに『ポジティブ』になんてなれるわけないじゃないか。


 今更遅すぎるんだよ。

 僕はいつまでたっても壊れて直らないのに。何も持っていないのに。

 僕が憎んでいるあなたたちは僕の扱いに困りつつも充実した毎日を過ごしている。


 こんなこと許されていいはずないのに。

 憎くて、苦しくて仕方ないのに。


 それでもあなたたちをどうにかしようなんて思えなくて。

 それでもどこかでやっぱりあなたたちを愛していて。


 だからこそどうしようもなく苦しいのに、呪いのような教育が根付いていて、僕は命に係わる手段をとる事が出来ない。


 これ以上苦しくなるのが怖いから。

 死ぬことは救いではないと教わってきたから。


 昔みたいに何も考えずに働けていたらよかったのに。

 何度挫折したって縁を切ることを諦めなければよかったのに。

 せめて愛せない人間であればよかったのに。


 僕はすでにこうなってしまった。

 今更何かを変えられる気もしない。


 今まで期待通りに物事が運んだ試しなんてないから、この先もきっと期待出来ない。

 親にも神にも死後の世界にも期待なんて出来ないんだ。


 こんなことをあなたたちに言ったら、きっと『違う』と反論すると思う。

 もし違うとしても、それはあなたたちを間違いなく『苦しめる』だろうと思うのだ。


 僕はとても苦しくて、泣きたくて、痛くて、こんな毎日を過ごすのが嫌で嫌で仕方ない。

 でもだからって、憎いからといって、あなたたちにこんな思いをしてほしい訳じゃないんだ。


 だからこの苦悩の先に何があるかなんてまるでわからないけど。


 せめて苦しみのない『終わり』があることを僕は願っています。


 父さん、母さん。


 あなたたちを愛しています。

 あなたたちの幸福を願っています。


 だから心の中で憎み続けることを許してください。


 愚かな息子より

酷い目にあったからって、心は強くなってくれない。

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