第7話 幽霊って意外性〇
●筆者より
今回から幽霊と人間がどっちも出てくる場面では、幽霊のセリフを()で囲います。
例えば、
人間「承知した。」
幽霊(承知した。)
なので、()内のセリフは”幽霊が実際に発言している”けど、”生きている人間には聞こえていない”状態です。
それでは久しぶりのアポリ編を楽しんでいってください。
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ワルツを探して数十里。
僕は大きな町、ルービにたどり着いた。
山を下り始めた瞬間に木の隙間から壮大な町の景色が顔を覗かせた。
ちらちら見える町の輝きに、鳥肌がたっていた。
同じタイミングで、冷たい山風が吹いたのでそのせいかもしれないけど。
まぁそんな感じで初めて町の大きさを体感した僕は、門番さんの横をするりと潜り抜け、町に侵入し、大通りを直進していた。
「ここまでの道のりで一切救助隊らしき団体と遭遇してない……ワルツは何してんだろう」
僕としては別に救助隊を呼んでいなくても構わない。
だって僕はもうすでに死んでしまったわけだし、必死に探したって無駄であることを僕は知っているからだ。
僕はワルツには僕のことなど気にせず、冒険者になっていて欲しかった。
自分ができなかった夢を親友に託す形にはなるが、ワルツの人生の枷になるよりかはマシだ。
「ワルツは僕が死んだことを知ってるってことなのかな?」
とりあえずワルツを見つけて何をしているのか確かめないと、幽霊なのに夜も寝れない、朝も寝れない日が続いてしまうことになる。
大通りの脇にはたくさんの屋台が立ち並んでいて、活気ある声が聞こえてくる。
たくさんの人々が往来する大通りのド真ん中を歩いているけど、誰も僕の方を見てこない。
「やっぱりみんな、僕のこと見えてないんだなぁ」
そう言いながら足を進めていると、前から子供が走ってきてぶつかりそうになる。
「これ……幽霊だからすり抜けるのかな?」
子供とぶつかる瞬間、僕の胴体の神経にはしっかりと「子供が当たった!」という信号が感じられた。
そして、子供と重なった部分は煙のように消え、子供が通り抜けると雲ができるように消えた部分がまた組み合わさって復活した。
「ちゃんと触れた感覚はあるんだな。そりゃそうか、地面踏んだ感覚もあるもんな」
少しずつ霊体に慣れた感覚を噛みしめていると、後ろから声が聞こえてきた。
「うぇぇん!お母さん!なんかゾワッてした!きもちわるい」
声の主は先ほど僕を通り抜けていった子供で、お母さんの足につかまって泣いていた。
ぞわってしたのは、幽霊の僕とぶつかったから?
おそらく、幽霊である僕が干渉すると、第六感だとか霊感だとかで僕の存在を感じることもあるんだ。
「霊体っていうのも、結構難しいものなんだな」
何も悪くない子供を泣かせてしまったことでちょっと罪悪感が生まれたものの、どうしようもなく、あてもなく大通りを進んでいく。
しばらく歩くと冒険者ギルドと書かれた大きな建物を見つける。
「ここが冒険者ギルドかー。すごい大きいなぁ!ワルツもここで冒険者をうまくやってるかな?」
幽霊とはいえ、扉をすり抜けられるわけではないので出入りする冒険者を待ち、扉が開いたタイミングで横をうまく通り抜けて中に入る。
中は酒屋も併設している模様で入って右手側の壁には大量の酒樽が積み上げられ、たくさんのテーブルを囲んでバラエティに富んだ格好をした冒険者たちが飲み食いしている。
「すごい、これが冒険者!本で読んだとおりだ!」
剣と盾を持った戦士、杖を持った魔法使いもいるし、フードをかぶっている怪しげな男性はシーフのはずだ。
左側を見てみると、大量の依頼書が張り付けられた掲示板の前も冒険者たちで溢れかえっている。
受けたい依頼書をすぐに受付に持っていけるように、掲示板のすぐ横に受付があり、受付嬢もハキハキとした声で活発に働いているようだった。
「えーと、ワルツはいるかなっと……」
周りを見渡してみるが、それらしき背格好の人物はいなかった。
「ま、親友を亡くしてすぐにこんなゴツい人たちと一緒に吞んでたらそれはそれでワルツのイメージダウンがすごいことになっちゃうからね」
受付嬢の方々の裏側で事務をしている人が見える。
あそこに侵入して、冒険者名簿を盗み見ることができればワルツが冒険者としてこの町にいるかどうか確かめられる!
そう思った時には身体がすでに動き始めていた。
さっと受付カウンターに近づく。
「さて、ここからどうやって入ろうか」
カウンターを乗り越えて侵入する方法と、奥の職員用の腰ほどの高さのスイングドアから入る方法の二種類ある。
カウンターには受付嬢が3つの窓口に対して一人ずつの計3人が並んでいるため、そこをどう突破するかがカギになってくる。
逆にスイングドアは、そこを出入りする人がいないと一人で扉を開けられるのかというところに心配がある。
僕がどこまで現世に干渉できるのかがまったく分からないからどちらの選択肢も取りがたい。
「うむむ……あ!というか、僕別にバレてももう死んでるからどうでもいいんだ!」
いつも自分が”死んでる”ということを忘れてしまう。
だって気持ちは透明人間なんだもん。死んだ感じが全くないし。
そうと決まれば僕の行動は早い。
スイングドアに近づくと、おもむろにドアに手をかけ、ぐっと押してみた。
(やっぱり、幽霊でも押せるんだ……)
―――ギィィ
なるべく静かに開けたつもりだったが、木がきしむ音が少し聞こえてしまった。
(やばい……)
中の様子を覗くと、扉の音に気付いた休憩中の受付嬢が振り向いていた。
「あれ?何か音がしなかったかしら?気のせいかしら」
あ、アブナイ……
たとえ死んでいるとはいえど、気分的には透明人間みたいなものだから、バレても問題ないとわかっていてもドキドキしてしまう。
緊張のせいか分からないけど、一瞬吐き気がしたがすぐに収まった。
ただ、今バレなかったことで少しずつ”幽霊だから大丈夫か”といった自信が湧き上がっていた。
部屋を見渡すと、『冒険者登録名簿』と手書きされた分厚い冊子が手前に置いてあるのが見える。
当番の受付嬢でも必要になったときにすぐ手に取れる位置に置いておきたかったからだろうか。
「ほいっ」
デスクの上にあるその冊子に手を伸ばし、ページをぱらぱらとめくり始める。
見た感じ登録順に並んでいて、新しい冒険者は後ろのページであることが分かった。
後ろのページからペラペラめくっていくものの、一番後ろの冒険者ですら『帝国暦765年氷の月の3日』であり、僕たちが旅立った『帝国暦766年火の月の50日』よりも前であった。
ジャンボ帝国では、一年が360日あり、帝国暦によって60日ずつ火→風→雷→水→土→氷の月と分けられている。
気候も地域にもよるが、春夏秋冬があり、ジャンボ帝国領の大部分は夏と冬の期間が長い火(冬)→風(春)→雷(夏)→水(夏)→土(秋)→氷(冬)の月のような割合の気候に当たる。
と、春の就職シーズンに入る前だったのか、最近新しく登録して冒険者になった人がおらず、遡ってワルツがいないか一応探してみていると、なんか視線を感じる。
はっ、と顔を上げて辺りを見回してみると、受付嬢たちが全員目を点にして、口をぽかんと開けてこちらを見ていた。
(アッ、マッズイ……)
と口から漏れてしまう。
静かにゆっくりと冊子をデスクに置いた瞬間、
「きゃあああああああああああ!!!!!」
受付嬢の一人が声をあげると、次々と彼女たちの叫び声が建物に響き渡る。
(スゥゥ、ソウデスヨネー)
僕、幽霊だったのに冊子開いてじっくり読んでしまっていた。
生きている人にはポルターガイストのように見えてしまっていたのだと思う。
抜き足差し足で抜け出そうと思っていたけど、さすがにこんなに叫ばれては早く逃げ出した方がいいだろう。
スイングドアの前に恐る恐る向かいながら、得体のしれない不快感が僕を襲っていた。
(なんか、苦しい。早くここから逃げないと……)
僕は急いでスイングドアを押して弾くように開くと、困惑した十数人の冒険者たちが武器を構えてひとりでに開くスイングドアを見ていた。
(アッ、オワッタ)
玄関扉の方に向かって走り始めると、
「と、扉が勝手に開いたぞ!誰の仕業だー!!」
「おい、魔法使い。お前じゃねぇんか?」
冒険者たちは混乱し、驚いて固まる人や疑心暗鬼になって魔法使いを疑う人、てきとうに剣を振るって叩き切ろうとする人など三者三様に暴れ始めた。
なんとか攻撃を避けながら冒険者の間をすり抜けていき、命からがら?玄関扉にたどり着くことに成功した。
冒険者の人が驚いてギルドから出ようと玄関扉を開いた隙を見て、僕はギルドを後にした。
(あぶなかったー!)
僕を包み込んでいた、いや内側から無限に湧き上がってくるような不快感はすこしずつスッキリしてくる。
幽霊としての存在が生きている人に認識される、疑われると息もできなくなるくらいの苦しさに襲われてしまうのやも。
扉も開けられたし、本のページもめくれたわけだから、剣や魔法に当たってたらどうなっていたか分からないぞ。
最悪、除霊ってことにもなりかねない……
「こ、今後は慎重にいかないと……」
そう口に出し、そそくさとその場を去った。
は、いいものの、ある程度離れて気が付くともう辺りは暗くなってきてしまっていた。
「結局ワルツの手掛かりは掴めなかったんだよなぁ」
ぼそっと口に出してみるも、別に誰かが聞いてくれるわけでもなく、手助けしてくれるわけでもなかった。
ワルツはいったいどこにいるんだろう。
僕が死んでることに気づいてても、気づいてなくてもこのルービの町に来るはずだと思ったんだけd……
!?
「まさか、ワルツも死んでるのか!?」
全く気が付かなかった第三の可能性。
普通に考えたら僕が死ぬ間際のことを覚えてないんだとしたら、ワルツも一緒に行動して一緒に死んでしまっている可能性もあり得る!
調理なべだって夜間山を出歩く用事があったんだとしたら目印に置いておいてもおかしくないし、もし僕が魔物に殺されたんだとしたら、ワルツが救助隊を呼びに町に向かう道中に魔物に出会って殺されていてもおかしくない。
「なんで気づかなかったんだろ、もしワルツが死んでたらどうしよう。まず、そこから確かめないと」
どうやったら、ワルツの生死を調べられる?
どうすればワルツがどこにいるかが分かる?
頭の中で考えを巡らせていると、村長が昔僕に聞かせてくれた昔話を思い出した。
「ジャンボ帝国で信仰されているアイラ教の聖女様は、神様と会話ができると言われておるのを知っておるか?わしも若いころ仙台の聖女様を一目見たことがあるんじゃが、とても神々しくて美しい女性じゃったわい。」
とかなんとか、言っていた。
今でも元気に畑仕事をやっている長老様だけど、昔は帝都で建築家をやっていたらしく、その時の話を幼い頃の僕はたびたび聞かせてもらっていたんだ。
長老の話が本当なら、聖女様ならあのお風呂が大好きな猫神様と話すことができるってことなのだろうか?
アイラ教の神様は確か女神さまで、帝国内ではところどころに石像が立っていた。
「だ、だいぶ神様は石像と違うけど大丈夫かなぁ」
そう思ったが、ワルツが今どうしているかを知るためにできることがあるなら、どんなことでもやりたかった。
もしあの神様ともう一度話すことができるなら多分ワルツのことも分かるだろう。
「とりあえず、帝都に向かってみなきゃだよね、帝都にしゅっぱーつ!ってどっち?」
とりあえず、いったん休むことにした。
今日は疲れたし、また明日にしよう。
大通りの奥の大きな噴水のそばで横になった。
空には星が浮かび、辺りは町灯りに照らされる中、僕はベンチを一人で占領していた。
「やっぱり町ってすごいなぁ。夜になっても明るいままだ」
と、一人でつぶやき目を閉じる。
(グォアアアォアォ)
変な声が聞こえ、「な、なんだ?」と頭を上げる。
すると僕の周りを異形の幽霊?のようなものが取り囲んでいた。
僕とは違って彼らは足元が透けていて、人間のような風貌のやつもいれば、四足歩行らしき幽霊もいた。
(こ、こんにちは)
他の霊に出会うのは初めてだったが、こうも取り囲まれていてはなんか気まずい。
挨拶をしてみるものの、幽霊たちはコチラを唸りながらじっと眺めてくるばかりで返事を返してくる気配はない。
このまま幽霊に囲まれて寝るのはかなーり寒気がするので、後ずさりしながら噴水のふちを伝って距離を取るように動く。
(グ、ググゥ……)
僕がじりじりと後退するのに合わせて、幽霊たちも距離が離されないようにじわじわ接近してくる。
(さすがに怖いよぉぉぉ!!!)
僕は泣き言を叫びながら、反転してダッシュし、走り始めた。
(ゲゲゲゲゲゲーー!)
後ろから幽霊たちの鳴き声が聞こえてくるけど、怖すぎて振り返れないよ!
と、無我夢中に大通りを走り続けていると、
―――ドンッ
暗くてよく見えなかったのか、何かと強くぶつかった感触がする。
「痛っ!マズイ、このままじゃ追いつかれる!」
ぶつかって倒れてしまった僕は何とか立ち上がり後ろをちらっと振り返る。
するともうそこには幽霊たちの姿はなかった。
「た、助かった~!」
安堵の言葉が野太い声で口から漏れる。
「え”?」
さすがに僕も違和感を感じざるを得なかった。
これは、今発した声は僕の声ではない。確実に。
大通りの脇の街灯に近づいていくと、少しずつ自分の姿が照らされていく。
「な、え、なんだよ!これーーー!!!」
自分の歩いている姿を見ると、革靴を履き、びしっとした町の商人のような恰好をしているがっしりとした体が見える。
近くの水たまりに反射した自分の顔にはちょび髭が蓄えられていて、40歳は越しているような見た目だった。
まさか、信じがたいが、、
「僕、さっきぶつかったときにこのおじさんに憑依したってことなのか!?」
幽霊って憑依とかできるんだ。
たしかに漠然と成長する過程で、様々な不可解な現象はオバケは現実世界に生きる人々に対して影響しているといった考えが浸透していた。
まさか本当に幽霊の仕業なこともあったのか……
じゃあ、昔村で急に大泣きしながら暴れまわった二軒隣のおばあちゃんも幽霊が憑依したせいっていうのもあるのかもしれない。
憑依できたってことは生きている人と話す手段ができたってことだよな、これで聖女様と交信することができる!
そう考えを巡らせていると、周りの人から白い目で見られていることに気が付く。
「そっか、今の僕って急に叫びだした人だも……」
(……んね)
あ、あれ?
独り言を言っていたと思ったら、急に僕の魂とおじさんの身体が磁石が反発するように分離し、僕は霊体に戻っていた。
「あ、あれ?わしは何を……」
さっきまで憑依していた体の持ち主であったおじさんは意識を取り戻たようだ。
意識を取り戻すや否や周りの人からの視線が気になったようで、背中を丸くしながら早足でどこかに消えていってしまった。
(さっきまでは確かに憑依できてたよね……憑依できるのは一時的なものなのかな)
ふと、僕はあることが気になった。
(他の人にも憑依したりできないのかな?とりあえずぶつかってみるしかないよね)
と、ところかまわず通行人に体当たりし始めた。
―――ドン
バッグを持った女性や冬なのに薄着の男性など様々な人にぶつかってみる。
すると、ぶつかられた側も急に転んだり、ゾワッと寒気がしたのか声を上げたりと何らかの反応を見せたもののまた憑依することはできなかった。
(さっき憑依できたのは偶然なのかもしれない。たぶんその人との相性とかもあるのかもしれない。できる人と時間が限られてるなら憑依についてはもっと考えていかなきゃならないな)
という考えに至った。
また、明らかに昼ぶつかったときよりも、夜ぶつかったときの方が一般人からの反応があった。
先ほどの幽霊たちも昼間は姿を隠していたことを踏まえると、幽霊は夜がメインの活動時間なのかもしれない。
おそらく、夜の方が力を発揮できるし、現実世界にも干渉しやすいっていうのはあると思う。
(やっぱり、町で人に触れられてよかった。まだ分からないことだらけだけど、いろいろ幽霊のことについても学べたぞ。ただ町の夜はちょっと幽霊多いみたいだし、元気な夜のうちに町を出ちゃおう)
そう思った僕はすぐにでも帝都があるという北西側を目指して、来た道を折り返し、ルービの町の西門からこの町を後にするのだった。