②
ヴィンセントは今年二十五歳になる。医者系の伯爵家の次男であるが、今は別荘に一人で引きこもり薬師として働いている。
ちょうど十年前、貴族学校に入学した十五歳の時、ある日突然人の心の声(半径一メートル以内に限る)が聞こえるようになった。
その日からなるべく人と関わらず、距離を置くように気を使ってはいたが、学校に通っている以上近付かないという事は不可能だった。
ふと聞こえてくる人の心の声に人間不信に陥った。声に出して言っている事と心の声が全く違うのだ。
医師である父に相談はしてみたものの、解決方法などあるはずもなく、誰にも話してはならないと念を押された。悪い考えを持った者に目を付けられるわけにはいかないからだ。父は学校を辞めても良いと言ってくれたが、それこそ途中で辞めたら何を言われるかわからない。卒業出来るのに必要な出席日数まで我慢して通う事にした。
在学中、将来はどうしようかと考えていた。一人で生きていかねばならない。一人でできる仕事は思い浮かばず、自給自足で生活するしか無いと思った。自給自足か…。誰もいない所で自給自足…。
その時閃いた。森で薬草を採取し薬を作って売れば良いのではないか。幼い頃から別荘に行くたび森に入っていたので慣れている。もちろん人などいない。薬草の知識も多少はある。
父に話したら「とても良い考えだ。薬は私が買い取ろう。西の森の近くにある別荘で薬を作成するといい。合わせて新薬を研究開発するのはどうか。」と提案してくれた。コツコツ研究するのは苦ではない。私に出来そうだと思った。
それからは学校の図書館で薬学に関する本を読み漁り、休みのたびに西の森で薬草を採取し、少しずつだが別荘を改装したり、狩猟の練習や自分が食べる分の畑も作った。三年後何とか学校を卒業する事が出来、卒業すると同時に別荘で生活するようになった。
月に二度、父が訪れ食料品や日用品を届けてくれる。その時出来上がった薬を見てもらうという具合で日々が過ぎて行った。
一人の生活が一年を過ぎた頃、試しに街に出てみた。人に近付き過ぎず買い物をするのは困難を極めた。店の者はいかに不当な料金を請求しようとしているのかがありありとわかり神経がすり減った。そういう店だけではないのであろうことはわかっているのだが…。
別荘での生活も慣れて来たので父に通ってもらうのも申し訳なく、自分で何とかすると伝えたが、父は「生存確認だ。」と言い変わらず来てくれている。忙しいだろうにありがたい。
薬草の採取、研究、狩猟、畑、生活のために体を動かしていたら、研究者らしくない筋骨隆々の体が出来上がってしまった。訪れる度に大きくなっていく息子に父は笑い、毎回服を持って来てくれた。
さらに五年が経ち、様々な薬を開発し研究に没頭していると手紙が届いた。王家専属医師である父から早急に作成して欲しいという薬の依頼だった。早速取り掛かった。ベースはできているので試作薬はすぐに出来、説明をしながら見てもらった。
「この薬で症状が落ち着くかもしれん。これは王家のとある方に服用していただくものだ。おそらくしばらくは飲み続けていただく事になるだろう。そのようになった場合、引き続き作ってもらえるだろうか。」父は言った。
生活出来ているのは父のおかげだ。何でも良いから役に立ちたいと思っている。
「もちろんです。」間髪入れずに答えた。




