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「ヴィンセント様!」
エレノアは動けないでいた。ヴィンセントに後ろからぎゅうぎゅうに抱きしめられおり腕に自信のあるエレノアだが逃げ出せなかった。
「エレノア殿。話をしてくれませんか?」
「…話す事は何もありません。」
「では私の話を聞いてくれませんか?」
「早く城に戻らなくてはなりませんので。」
「エレノア殿…そんなに早く戻らなくとも良いはずです。」ヴィンセントの声が一段低くなった。
「…この腕を解いて下さい。」
「エレノア殿が話を聞いてくれると言うまで絶対に離しません。」
「…」
「…わかりました。」
意外と強情なヴィンセントにエレノアは折れた。
ーーー
「こちらでお待ち下さい。お茶を入れてきます。」応接室に案内されソファに腰掛けた。
さっきの光景を思い出しただけで、今にも涙が出てきそうなエレノアは何か別の事を考えようとしたが何も浮かばなかった。
「お待たせしました。ハーブティーです。」
下を向いているエレノアにヴィンセントはふわりとカモミールの香りがするティーカップを差し出す。
「どうぞ。」
「…いただきます…」
エレノアはこくりと一口飲んだ。ザワザワしていた心が落ち着くようなそんな香りだ。
「エレノア殿、どうか顔をあげていただけませんか?どこか具合が悪いのでは?」
心から心配していのがわかる。しかしヴィンセントの顔を見たら自分でもどうなってしまうのかわからず下を向いたままでいた。
「エレノア殿?」
「…」
「エレノア殿、失礼しますね。」
ヴィンセントは立ち上がりエレノアの隣に移動し、下を向いているエレノアを覗き込んだ。
驚いたエレノアはバッと顔を上げた。
「驚かせてすみません。少々顔色が悪いようですが…どこか痛いところとか無いですか?」
「…大丈夫です。」
「本当ですか?無理をしていませんか?」
(…優しくしないで…)
「エレノア殿?」
ふと心の声に出してしまったエレノアは、もう心に蓋をする事が出来ないでいた。
(もう私に構わないで…)
「どうして?」
(想う人がいるのでしょう…)
「何故…それを……」