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エレノアはじめ母后陛下に直に仕えていた女性騎士達はしばらく憔悴していた。エレノアは母后陛下をとても尊敬していたので、心に穴が空いてしまったようだった。国葬が滞りなく行われ、喪に服している期間は静かに過ごしている。それから日々は過ぎ、喪が明ける前日となった。
寮の部屋で一人考えていた。喪中で不謹慎だとは思いつつも、心の片隅にはずっとヴィンセントがいた。ヴィンセントがどのように生活しているのかとても心配だった。
国葬が終わってから数日後、エレノアはヴィンセントの父である医師にヴィンセントの様子を聞いてみた。ヴィンセントの手紙には不自由無く過ごしており、街に出て必要な物は自分で手配できていると書かれていると言った。
エレノアはヴィンセントが不自由無く過ごしている事にホッとすると同時に一抹の寂しさを覚えたのだった。
ーーーもう自分は必要無いのだな…。
それから仕事復帰した女性騎士達は配置換えとなった。ある者は王妃の護衛。またある者は王太子妃や王子妃に仕えた。エレノアは二つ上の先輩であるリネットと王子妃の護衛に配属された。
王子妃殿下は普段は落ち着きがあり福祉活動に精力的だ。これだと思った事には突っ走るタイプのようで、急に予定が決まる。もちろん休みはあるのだが、いつすぐ動く事になるのかが読めない。ヴィンセントを訪問したいと思っているがしても迷惑なのではないか…と思い悩む日々が続いた。
元気がないエレノアを先輩であるリネットは見逃さなかった。
「もしかして薬師の方と会えてないの?」
「…はい。」
「…手紙のやり取りはしているの?」
「…いえ…。所詮仕事だけの付き合いです。手紙など出せません。私的な訪問もあの方にとっては必要が無かったのかもしれません…。」
「次の休みに行ってきたらどう?」
「そうなるとすぐには動けなくなりますので、遠出は出来ません。」
「私が何とかするから。」
「…先輩や周りに迷惑はかけられません。」
リネットはそれ以上何も言わなかった。
その会話を聞いている者がいる事に二人とも気が付かなかった。
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配置換えから三ヶ月が過ぎた頃、エレノアは王子妃殿下に呼び出された。
「エレノアに頼みがあります。」
「はっ。何なりと。」
「西の薬師の所へ行ってくれないかしら。」
「……!はい!」
「わたくしは忙しい夫に疲れを取る薬をお渡ししたいと常々思っていたの。」
「はっ。」
「腕の良い薬師の噂を聞き、依頼していてやっと出来上がったの。これはエレノアにしか頼めない事だと思って。」王子妃殿下はにっこり微笑んだ。
「かしこまりました!」
「急ぎではないので帰りはゆっくりで結構です。気を付けて帰ってくるように。」
「はっ!」エレノアは深くお辞儀をし部屋を出た。