⑭
翌日ヴィンセントは父に手紙を書き伝書鳩を飛ばした。
三日後、父が訪れた。
久しぶりに会った息子のヴィンセントの変わり様に驚きを隠せなかった。今までと違って目に力があった。
「良い事があったのだろう?」
「お分かりになりますか?」
「私の息子だからな。」
(父は何でもお見通しだな。)
「一つは薬の試作薬を見ていただきたいのと、もう一つはエレノア殿の事です。」
研究室で試作薬を見た後、応接室に移動した。
「単刀直入に申し上げます。私はエレノア殿に婚姻を申し込みたいと思っております。」
「何故?」
「エレノア殿は裏表の無い性格の良いご令嬢です。彼女に私の秘密を打ち明けましたが、全く嫌悪感を抱いておらず私の話を信じてくれました。」
「婚姻を結ぶほどでも無いだろう。」
「彼女は私にとって運命の人です。」
「…では彼女にとってお前はどうなのだろうな。」
ヴィンセントはハッとした。彼女の気持ちをちゃんと確かめていない。もしかしたら結婚願望が無いのかもしれない。筋肉に興味があるだけで自分の事など好きでは無いのかもしれない…。しかし…彼女とずっと一緒にいたい。彼女以外考えられない。ぎゅっと閉じていた目を開いた。
「父上。ご指摘ありがとうございます。」
「うむ。では戻るとしよう。」
ーーー程なくして、母后陛下が崩御されたという知らせがヴィンセントのもとへ届いた。
崩御された三十日後に国葬が執り行われ、さらにそこから六十日間は王族と直に仕えていた者たちが喪に服す。
(エレノア殿は大丈夫だろうか。母后陛下をとても尊敬していた。)
ヴィンセントは心配になったが、エレノアに対して自分に出来る事は何も無い。ただひたすら薬を作成し研究開発するだけだ。淡々と作業する日々が続いた。
ヴィンセントは父もエレノアも喪に服しているため、必要な物は自分で手配するようになった。街に出て買い物をする。あまり他人と関わりたく無いが、以前より他人の心の声を気にしなくなった。
(これもエレノア殿のおかげだろう。一人でも自分の事を信じてくれている人がいると思うだけで、こんなにも他人の事が気にならなくなるのか。)
(エレノア殿に会いたい。)