⑬
それからヴィンセントは今までの出来事を話した。
突然人の心の声がわかる様になった事。
それにより疲弊していった事。
学校生活が大変だった事。
一人で生活する事を決心した事。
一人になってからの生活の事。
この事は父とエレノアしか知らない事。
エレノアは話を聞いてヴィンセントは自暴自棄にならず悪用もせずとても心の強い人だと思った。自分に置き換え考えてみたが、とても同じ様には出来ないだろう。エレノアが感心すると同時にこんなに大事な事をたった数回会っただけの者に話して良いのだろうか…と心配しているとヴィンセントが言った。
「エレノア殿と出会えて良かったです。」
「えっ?」
「裏表無く嫌味もない。そして面白い。」
「…よく変わってるとは言われますが…面白いかどうかは……あ!先日伯爵にも面白いって言われました!理由はわかりませんが…。」
(そういえばお二人は似ているかも。伯爵も筋肉質なのだろうか…。首が太めだった様な気がする…。)
エレノアがそんな事を考えているとヴィンセントの瑠璃色の瞳が一段仄暗くなった。「エレノア殿、今は父の事は考えないでください。」
「えっ?あっ、はい。」一瞬にしてヴィンセントの雰囲気が変わり、エレノアは何故だかよくわからないが自分が狩猟の獲物になった様な気がした。
「私の筋肉だけを考えてください。他の筋肉は忘れて?何なら今から脱ぎましょうか。」ヴィンセントは服に手をかけた。
(改めて言われると恥ずかしい!!)
「いや!結構です!」
「以前は見ていたではありませんか。遠慮しなくてもいいのですよ。」
(バレてる!)
「昼食を作ってきます!!」エレノアは脱兎の如く台所へ逃げ出した。
「やっぱり子リスみたいで可愛いな。」ヴィンセントは呟いた。
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昼食を取りながらエレノアは「やはり今日は忙しいのでは無いですか?」と聞いた。
「白衣だったからですか?」
「はい。」
「先程も申し上げましたが昨日のうちに用事は済ませてあります。ただ、研究中の薬を確認していただけです。」
「研究中の薬?」
「母后陛下の薬です。日持ちしそうな薬草を見つけたので今何種類か試作しているのです。」
(日持ちする様になればここに頻繁に通う事が無くなってしまうのか…。でも何かあった際はやはり日持ちした方が良いのだろう。)
「業務で来ていただく事は減るかもしれませんが…休日は来ていただけますね?それとも私がエレノア殿のところに伺っても良いのですか?」
(来ていただくなんてヴィンセント様の負担になってしまう。それに寮だし…ヴィンセント様を他の人に見られたく無い!)
ヴィンセントが不敵な笑みを浮かべている。
考えている事が筒抜けなので、エレノアは取り繕っても仕方ないと思い素直に言った。「…私がこちらに参ります。」