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夜エレノアはベッドの上で今日の出来事を思い出していた。
(今日は本当に楽しかったな。騎士団に入ってこんなに充実した休日を過ごしたのは初めてだ。)
(相変わらずヴィンセント様の筋肉も素晴らしかった。あの筋肉を維持するには何が必要なのだろうか…今度調べてみよう。)
(次の訪問日は仕事だから少ししか会えないか。)
(少し寂しいかも…。)そう思っているうちに眠りについた。
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翌日の勤務後、エレノアはヴィンセントの父である医師に呼ばれた。
「昨日はヴィンセントが世話になったようで。」
エレノアは目を丸くし「ご存じだったのですか?!」と言った。
「私からも礼を伝えて欲しいと手紙が届いたのだ。」
「そんな大層な事はしておりません。ただ料理をして一緒に食事をしただけです。」
「それが余程嬉しかったのだろう。」
「…そうだとしたら良かったです。…あの…一つ聞いても良いですか?」
「何かな?」
「ヴィンセント様は何故お一人で過ごされているのでしょうか?とても人が苦手とは思えないのです。」
「本人に聞いてみては?」
「聞いて良い事なのかどうか判断出来かねまして…。」
「率直に聞いてみるが良い。」
「…そうしてみます。あ、あとヴィンセント様は伯爵殿がお渡ししたあの様な服がお好みなのですか?」
「ああ。あれは君好みじゃないかと思ってね。」医師は口角を上げながら言った。
「!」
「筋肉が好きなのだろう?」
「何故それを!!」
「顔に書いてある。」
「まさか!」エレノアは両手で顔を覆った。
「ふっ。すまない。冗談だ。」医師は堪えきれず声に出し笑ってしまった。「君はなかなか面白いな。」
(面白い?堅物で厳しいと言われている医師に面白がられるとは…。何と答えたら良いものか…。)
エレノアが考えていると、医師は咳払いをし「エレノア嬢、今後ともヴィンセントを宜しく頼む。」と言って退室した。
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二日後。エレノアは業務でヴィンセントのもとへ訪れた。
(今日は白衣だ)
少しガッカリしたエレノアは応接室に案内され待機していた。すぐにヴィンセントがやってきて薬を手渡されこちらから持参した荷物を渡す。
「ヴィンセント様お聞きしたい事があるのですが…。」エレノアは躊躇し言い淀んでいると、ヴィンセントは言った。
「私がここに一人でいる事ですか?」
「!」
「エレノア殿の顔に書いてあります。」
「!!」
エレノアのあまりの驚きように居た堪れなくなり「申し訳ない…冗談です…。」と言った。
「本当に顔に書いてあるのかと思いました…。伯爵にも全く同じ事を言われましたので…。」
今度はヴィンセントが驚いた。「父が?!!」
「はい。ここで食事をした翌日です。」
「そうだったのですね。」ヴィンセントは少し考えを巡らせた後「エレノア殿の質問ですが…業務外でこちらにお越しいただいた時にお話ししたいと思います。次はいつ来られますか?」
「次の休日は三日後です。」
「ではその時に。」
「あの…お話ししたくなければ結構ですのでご無理なさらないで下さい。」
「いえ。私からお話ししたいと思っていたところです。」
「かしこまりました。」(何だか大事になってしまったような…。ヴィンセント様がご無理していなければいいのだが…。)エレノアは自分から聞いたものの少々気が引けてしまった。
そしてすぐに城へ戻った。