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第3話☆「声劇同好会」

実は好きで「同好会」を名乗っている部活も一部あるぞッ!

玲司(れいじ)梨音(りおと)から受け取ったチラシを片手に階段を上っていた。

踊り場を越えて三階に辿り着くと、廊下の窓から午後四時の斜陽が煌々と燃え、さらにその奥からは野球部がヒットを打った乾いた音や歓声が聞こえている。校舎内に耳を傾ければ、吹奏楽部の演奏が木霊していた。


「空き教室C…………空き教室C……」


吹奏楽部の演奏を通り過ぎていくと、大きく[声劇同好会 未完声(みかんせい)]とマジック描きされた張り紙が貼られた教室を見つけた。


「……ここじゃないよなまさか」


玲司はその怪しさ全開のドアに大丈夫かと思って初めてドアまで近寄れずにいた。

しかし、その直後だった。


「あ め ん ぼ あ か い な あ い う え お ! ! ! ☆」


張り紙が貼られたドアの奥から、ドアが小刻みに震えるほどの大きな声がした。それは外にいた玲司も、思わず反射的に耳を塞いでしまうくらいだった。


「…………ここだな」

玲司は、思わぬ形で確信した。


恐る恐るドアを開けようと手を伸ばした、

その時だった。


「あれ?玲司じゃん!」

「なるほど。本当に来てくれたんだな」

「嬉しいじゃ~ん!さすが俺の相棒~!!!」

「り、梨音に御多花(みたか)!?」

「丁度俺らも出席するところだったンだよ!」

「ちょうどいいタイミングだな」


玲司の後ろから歩いて来たのは、梨音と御多花だった。梨音は玲司が来てくれたことが嬉しかったようで、無邪気に手を大きく振っている。


「どうした?入らないのか?」

「あぁいやぁ……その…………」

「何だよ玲司ぃ!早く行こうぜ~!」


梨音はテンションが上がっているようで、玲司の話をさせることなく、彼の背中を物理的に押して教室まで連れて行った。それを見ていた御多花は「やれやれ」と目を閉じつつ、部室へとついて行った。


「あ め ん ぼ あ か い な …………!!!」


梨音と共に部室の中に入ると、そこには二人の女子生徒の姿があった。ひとりはホチキス留めされた冊子(さっし)を片手に抑揚のある声でセリフを読み、もうひとりは黒板に箇条書きで文字を書いていた。


汐恩(しおん)舞衣子(まいこ)、来たぞ」

「あ!御多花ちゃん!お疲れ~☆」

「梨音君に御多花ちゃん。授業お疲れ様。あれ?その子は……?」

「これから説明すっけどよ、入部希望者でーす!」

「は!?」


テキトーなことを言った梨音に、玲司は思わず本心からの声が出た。そしてそれを完全に受け取ってしまった汐恩と舞衣子は、顔を見合わせて喜んでいた。


「初めまして!私は部長の、雛形(ひながた)舞衣子(まいこ)

舞衣子はそう自己紹介をした。赤みがかった肉桂色(にっけいいろ)のポニーテールが柔らかく揺れていて、慈愛と温かさを持った瞳を合わせて玲司に微笑んだ。

玲司はその可憐な目線に、少し胸がきゅっと刺激されたのを感じた。


「私は永瀬汐恩(ながせしおん)!舞衣子ちゃんと同じ1年3組なの!よろしく!☆」

汐恩も続けて自己紹介した。ミント色のツインテールは彼女の活発なイメージと仲がいいようにふわふわと揺れて、目の奥にはキラキラと星のような輝きがあった。髪を結んでいるゴムには、青色と黄色の星型の飾りがついており、象徴的だった。


「今はね、私が発声練習してて、舞衣子ちゃんがこの前決めた配役の確認と噛んだセリフの再集録してたの☆」

「そうか。私たちも発声を済ませてから台本に入る。昨日と同じ個所からでいいな?」

「そうだね。じゃあ十五分後くらいに始めよっか!」

「そんじゃお願いしやーす」


メンバーたちの会話に「?」を浮かべたまま突っ立っていた玲司は、部室の様子をキョロキョロと見渡していた。部室には、本棚に並んだ数冊の文庫本や筆記用具、誰が持ち込んだのか分からないボードゲームの空き箱、そしてスマホスタンドが教卓に置かれていた。


「……あ、ねぇねぇ君!まだ名前聞いてなかったね。まだ部活始まんないし、この時間にお話ししよーよ!☆」

「あ、いいねいいね。これも何かの縁だろうからね!」

「あぁ…………あ、ああっと……」


棒立ちになっていた玲司の元に、汐恩と舞衣子が歩み寄って来た。

玲司は促されるままに空いている適当な位置の席に座ると、舞衣子と汐恩も向かい合う形で席に座った。


「名前は~?☆」

常盤(ときわ)……玲司です」

「玲司君ね。ここを知ったのは梨音君………だよね」

「そうっすね。声をかけられたというか、誘われたというか、招待されたというか、連行されたというか…………」

「あっはははは!☆何それ~!おっもしろ~い!☆」

「やっぱり梨音君だったんだね。来てくれてありがと!嬉しいよ!うちは見ての通り、男性部員少ないからさぁ。玲司君は貴重なタンパク源なんだ!」

「た、タンパク源…………」


舞衣子の言ったタンパク源という表現に半分近くを持っていかれていた玲司だったが、彼ら彼女らに悪意などはなく、入るか否かはともあれ部室に来てくれたことを純粋に喜んでいることは確かめられた。


「あの………いくつか聞いてもいいですかね?」

「お!事前質問は大歓迎だよ!」

「どーんとこーい!バッチコーイ!☆」


汐恩と舞衣子は、玲司からの質問に耳を傾けた。


「ここって、今は何人で活動してるんですか?」

「メンバーはねぇ、今は舞衣子ちゃんと、御多花ちゃんと、梨音君、そして私だから…………合計4人だね!☆」

「汐恩ちゃん!(かなえ)先輩忘れてるよ……!」

「あ!そうだった!」

「鼎先輩……?上の学年もいるんですね」

「うん。広報兼声当て担当の2年生、藤原鼎(ふじはらかなえ)先輩だよ☆」


汐恩はそう説明した。

曰く、2年2組所属の先輩部員であり、金髪碧眼(きんぱつへきがん)の美青年。

御多花と同じタイミングで突然入部してきたといい、その人物像を一言で表すとすれば「ザ・自由人」というところ。だが、部活にも来たり来なかったりしているために、まだ色々と分かっていないところが多い人物でもあるという。


「まぁ、いい人なのは確かだよね」

「うんうん☆変な人ではあるけどね~」

「変な人…………なんだ……」


鼎先輩の話を皮切りに、玲司は舞衣子と汐恩から声劇同好会の様々な話を聞いた。その話を聞いているうちに、玲司の中にあった得体の知れないという気持ちは次第に薄れていき、少しずつ面白い場所なのでは?という気持ちに変わっていた。


「終わったぞ。そっちは用意はいいか?」

「あ、いいよ~御多花ちゃん!」

「じゃあ今から、簡単に私たちがどんな風に練習しているのかを見せるから、少しだけ、お時間くださいなっ!☆」

「まぁ、時間なら大丈夫なのでお気になさらず」

「そんじゃあ、玲司もそう言ってるし、始めっか」

「じゃあ昨日言った反省を活かして、昨日の箇所からスタートするね」

「よろしくお願いしま~~す☆」


梨音たち四人は、教壇に横一列に並ぶと、汐恩の「パチン!」という手を叩く合図に合わせて演技を始めた。

玲司は四人の演技を軽く目を閉じて、耳で聴いていた。これは、誰に教わることもなく、玲司が自然とそのように意識下の中でそう行っていたことだった。

演技に集中してる四人は、先程のわちゃわちゃした時とはまるで別人だった。声だけとはいえ、しっかりとそれぞれの演じるキャラクターを演じており、特に梨音は、一緒にいる時間が四人の中で長いだけに、ギャップのようなものを感じていた。


………………。


そして、数分ほどの演技が終わった。玲司は小さいながら、自然と拍手を送っていた。


「ありがと~!☆ありがとぉ~!☆」


玲司は驚きや関心により、何から言うべきか詰まっていた。


「どうだった玲司!これが俺たち声劇同好会ってもンよ!」

「みんな、凄く演技が上手かった。何と言うか、演劇の役者を観ている気分だったな……」

「えへへ~。まぁ声劇だって、れっきとした演劇だもんね」


舞衣子や梨音は玲司のコメントに笑みを浮かべ、今回の演技の評価を各々し始めた。

そんな中、御多花だけは少し、浮かない顔をしていた。


(役者……か…………)


その様子を見ていた玲司は、やはり御多花のことが引っかかってしまうも、彼女が呼ばれた瞬間にいつもの顔に戻ることから、自身が介入できる話ではないのだろうと思い、それ以上踏み込めずにいた。


◇◆


「なぁ玲司、こんな感じでさ、俺たちと声劇やろうよ!お前が入れば、さらにこの部活は盛り上がるンだよ!」

「部員少ないし、何より存続のためにも!お願い~!☆」


梨音や汐恩は、玲司に必死に頼み込んだ。

しかし、玲司はずっと考えていた。ここに仮に入ったとして、自分には何が出来るのか、と……。


「うーん……。ごめん。一旦保留にさせてくれないか?今すぐには、答えがだせそうになくて……」


玲司が出した答えは、これだった。


「マジかぁ……」

「で、でも……明日には入ってもらわないと……☆」

「……それってさ、期限ってあるのか?」

「どうなンだ?御多花」

「…………()()()()()()()、放課後までだな」

「じゃあ放課後までに、答えを出すよ。それまで、考えさせて」

「…………分かった!いい返事を待ってるよ」


期待通りにならずに(うつむ)いている玲司や部員を見て、舞衣子は少しでも元気にしようと明るい返事で玲司の意見を飲んだ。


「ごめんな。今日はありがとう。いいもの見せて貰ったよ」

「玲司ぃ~………入ってくれよぉ……。年会費無料なんだぜ~?」

「元々ないだろそんな物」


そんな会話をしていた時、校舎内にチャイムが鳴り響いた。部活動の終了を知らせるチャイムだ。


「じゃあ私たちも、今回はここで終わりにしよっか」

「そうだね☆」

「次回は今日と同じでいいな?」

「そうだね。あと、鼎先輩に来て欲しいかなぁ……」

「御多花ちゃん、連れて来られる?☆」

「うーむ…………頑張ってみるか」


部員たちは次回の予定について話し合いながら、移動させた机などをもとの位置に戻した。玲司も自分の周りの椅子などを片付けつつ、鞄を背負って帰り支度をした。


「それじゃあ、俺はこの辺で。じゃあね」

「おう!また明日な~!」

「また明日」

「じゃあね~!☆」


部員に小さく会釈を送ると、玲司はそっと、教室を後にした。

第4話へ続く。

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