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☆第三話・RP参上ッ!!!

☆第3話「RP参上ッ!!!」



☆RP


天乃川高校一年一組。暖かな陽射しが一番差す場所だが、夏は暑く冬は寒いという懸念点もある場所。イベントや企画行事が好きな生徒たちが多い印象が強く、いい意味でも悪い意味でも騒がしく賑やかな教室と言えよう。

そんなこの教室には、密やかに囁かれているとある噂があった。

「一年一組に入るやつって、問題児か成績悪いやつかクセモノらしいよ」

噂なんて、いくらでもどこからでも生まれるものだ。内容や規模、真偽なんて関係なく生まれ、広まっていくもの。この噂も、きっと誰かが見つけて広めた小さなきっかけが一人歩きして、誰もに広まるものになってしまっただけだ。

そう、誰もが思っていたのだが……。

「社会、13点!」

真紅の髪と、同じくらい赤い瞳をした背の高い男子生徒が声高らかに言った。

「国語、28点」

強い青色の跳ねた髪をした青い瞳の男子生徒が溜め息と共に呟いた。

「え、英語……、29点……」

銀色の髪と瞳をした小柄な男子生徒がしゅんとして言った。手には栞を挟んだ文庫本を持っていて、沈んだ表情でがっくりと項垂れている。

「理科、20点」

黒い髪の男子生徒が呟いた。この四人の中では、一番ダメージがなさそうな表情をしている。

「また補修じゃねぇかッ!」

「英語は日本人だし……、大目に見て欲しいよぉ……」

黒板に貼られた赤点補修対象者の名簿。次回の再テストの日程と対象になっている教科、補習が行われる教室などが記されていた。

その名簿に載っている四人の名前……。

天王寺翠、湊久作、井上ぽぷら、そして、望月。

「またこのメンバーか。まぁ仕方が無い。なんてったって俺たちは、時をかける精鋭たち〝RP(レッドポイント)〟なんだからなァ!」

翠は落ち込むどころか自信たっぷり意気揚々な口調で言った。一体どこからそんな元気が出てくるのか。赤点をとった人間の表情ではない。もっと深刻になれよとさえ思う。

「てかなんだよRPって?」

久作が翠に訊ねた。もちろん、碌な答えなど来るとは思っていない。

「今思いついた、結束の証さッ!」

「おいおい嫌だよそんな底辺な結束ぅ……」

「リーダーはもちろん俺、参謀の久作君、情報屋の望月君、そして特攻隊長のぽぷら君だッ!」

「はぁ……?」

安心しろ久作。これを書いてる私も同じ気持ちになっている。

「ねぇ、特攻隊長って何の……?」

「ふっふっふッ……。聞いて驚くんじゃぁないぞッ!」

ぽぷらが翠に訊ねた。すると翠は凛々しい顔をしてこう言った。

「な い しょ だ ! ! !」

三人は言葉が出なかった。翠の顔はなんとも誇らしげで堂々たるものだったが、なんだよ特攻隊長ってよ。兵隊か不良なのか?まぁ、話を続けよう。

「それにしても、まさかこの前のテストに続いてこれとはな。俺ら、仲いいな」

望月が呟いた。

「いや仲良しで赤点とか救いようがねぇじゃねぇか!」

久作がすかさずツッコむ。望月の発言は冗談なのか本気なのか、捉えづらく、分かりにくい。

「先生も、まだまだだなぁ……!この天乃川高校の横浜流星こと、天王寺翠を赤点にしてしまうなんてッ。今度『天王寺翠のトリセツmp3』セットでも、送りつけようかなッ」

「なんで音声なんだよ!?しかもセット品かよ!」

「今なら送料込みで二万九八〇〇円だッ!」

「いらねぇ〜……」

「ちなみに教室はどこなんだ?翠」

望月が尋ねた。

「今日は〜〜ッ!空き教室Cだなッ!」

「あぁ……、あそこか」

「さぁ三人とも!今日も張り切って、補習に行こうじゃないかッ!ハーッハッハッハ!!!」

目を輝かせ、高笑いを放つ天王寺翠。その笑い声は高らかにどこまでも響いたのだった。


☆未完声とRP


放課後。玲司たち未完声のメンバーは空き教室Cに続く階段を歩いていた。公式の部活になってから初めての活動ということで、みんな気分が高まっていた。

「今日は鼎先輩来るの〜?☆」

「今日は連絡がないから来ないと思うぞ」

「また来なくなるの〜?☆」

「あの人は分からん。連絡がなければ自動的に欠席だな」

「そうなんだな……」

階段を歩いていく玲司、梨音、御多花、汐恩、舞衣子。生徒会長でもある御多花の働きによって公式に部室を手に入れたことにより、みんなの歩く歩幅には自信があるように見えた。

「さ〜て、今日の活動はどーすんだ舞衣子」

梨音が腕を頭の後ろに組みながら舞衣子に尋ねた。

「今日は改めて、声劇部・未完声の活動について話し合おうと思うよ〜」

舞衣子が予定を梨音たちに伝えた。

「いいねいいね〜!☆」

それぞれどんなことについて話し合おうかに胸を膨らませ、期待とやる気に満ちていく。玲司は言葉を発さずとも、未完声のメンバーたちの見せるキラキラとした若さと輝きに、どこか楽しさに似たものを感じ始めていた。

(……賑やかなところだなぁ)

しばらく歩いて、部室になった空き教室Cへと辿り着いた。すでにドアには張り紙「声劇部部室」の文字が貼られており、いよいよ本格化したことがこの目で分かるようになっていた。

「さてさて!準備はいい?玲司君!☆」

部室に入る直前、汐恩がふとそう言った。

「え……?俺?」

「そうそう!☆玲司君にとっては、記念すべき第一回目の部活でしょ!☆意気込みはどうかな〜って思ってねっ☆」

汐恩はニコッとウインクし、玲司に意気込みを聞いた。玲司は予期せぬ質問に戸惑いつつも、すぐに目線を汐恩に合わせて迷いなく答えた。

「もちろん。入ったからには、楽しむつもりでいるよ。よろしくな」

玲司は我ながら、ありきたりな返しだと思っていた。しかし、汐恩たちの反応は、明るかった。

「うんうん!☆いいねいいね!」

「よろしくね!玲司君!」

「いい意気込みじゃねぇか〜」

「こちらからも、これからよろしくな」

みんなからの反応にホッとした玲司は、控えめにはにかんだ。

「さぁみんな!今日も張り切って、声劇部頑張りましょ〜!!!」

舞衣子の元気満開な合図と同時に、部室の扉は開かれた。

その時だった……。

「あッ……」

「あれ……?」

舞衣子たち未完声の目に入ったのは、部室の机を囲んで教科書やノートを広げるRP四人組の姿だった。お互い、固まっている。

「こんにちは!☆」

そんな空気にも関わらず、汐恩はいつも通りの大きな声で挨拶をした。ある意味、鋼のメンタルというか鋼の意志といったところだろう。

「えっと……、どうしました?」

ぽぷらが教科書を閉じて舞衣子たちに言った。

「わ、私たちは声劇部なんですけれど……」

「せいげきぶ?なんだそりゃ。知ってるか?望月」

「知らん」

「声劇部・未完声です。最近公式に部活動になりまして……」

首を傾げるRPの四人に、玲司が答えた。それを聞いてもなお、四人のハテナは消えない。

「ぽぷらは知ってるか?」

「し、知らないなぁ……」

「翠、お前はどうだ?」

久作は翠にも尋ねた。

「ハーーーッハッハッハァ!!!」

すると何が何だか、翠は突然高らかに笑い始めたのだ。いや急にどうした急に。その声は汐恩とタメ張れるほどの大きさであり、思わずその場の全員が耳を塞いだ。隣にいた久作が特にダメージが大きく、不憫でならない。

「ビックリした……。翠!急に叫ぶな……!」

「君たちッ、ラッキーだぜッ」

「は?」

「この天乃川高校の横浜流星こと天王寺翠と出会えたこの日は……、君たちにとって、記念日だよッ……!」

パチンと指を鳴らしてキラリと瞳を輝かせて言った翠。天乃川高校の横浜流星という誰が言ったのかも分からない二つ名を名乗るも、彼以外の反応は冷ややかだった……。気まずい空気がひやりと漂っている。

(気持ち悪い……)

玲司はどう扱えばいいのか分からず困惑を隠せずにいた。

(鼎に近いものを感じる……)

御多花は翠の人柄を鼎と重ね合わせていた。

「それで君たちッ……!君たちは一体、誰なのかねッ?」

「さっき言っただろ声劇部だよ!」

久作がすかさずツッコむ。

「なるほどなッ。聞いたことないなァ!」

「まぁ、新興の部活動だからな」

梨音の説明に、翠は深く頷いた。しかしその顔、本当に分かっているのだろうか……?どこか胡散臭く感じてしまう。

「よしッ!分かった!では俺たちも、自己紹介といこうかッ!」

突然翠がこんなことを言い出した。

「ねぇ、勉強の続きは……?」

ぽぷらが尋ねた。

「どうせ集中力も底をついていた!一時的に休憩としようッ!」

「集中力……。五分しかもたなかったな……」

呆れた顔をする望月と久作を他所に、翠はニッカリと明るい顔を変えずに口を開いた。

「でははじめにッ。俺の名前は天王寺(てんのうじ)(すい)。一年一組だッ!」

「同じく一組の、井上ぽぷら。よろしく」

続けてぽぷらも名乗った。

「はぁ……。一組の(みなと)久作(きゅうさく)だ」

「望月。よろしく」

久作も望月も続けて自己紹介した。

「四人揃って〜〜〜ッ……、RP(レッドポイント)だッ!!!」

翠が指を鳴らして決め台詞を響かせる。

しかし、待っていたのはしらぁ……、と凍りついた空気。未完声メンバーどころかRPのメンバーからも凍った空気を漂わせていた。

「拍手はァ!?」

翠は目をカッと見開いて叫んだ。

「拍手かぁ!?」

梨音がすかさずツッコんだ。

「ノリ悪いなぁ君たちィ。モテないぞ〜?」

いやノリも何もないだろう。お前と相手とのテンションの高低差が激しすぎだろ。

「だ、だって……、レッドポイントって……」

「直訳すると〜、「赤点」だよね?☆」

「あぁ!その通りだッ!カッコいいだろぅ?」

自信に満ち溢れた顔をする翠だが、それに対する玲司や御多花たちの反応は「ダサいよ」と表情で伝えていた。言葉にするのも、野暮だと思ったのだろう。

「フッ……。すぐに理解する必要はないッ。だが、俺たちと出会ったことが、君たちの物語に大きな結末をもたらすということを、心に刻んで欲しいッ……!」

「あっ、ハイ」

翠の変に誇張したようなナルシズム溢れる喋り方には、普通のことを言っているとしてもどこか胡散臭さが滲んでしまう。そして本人は、それについて全くと言っていいほど、気づいていない……。(しかしこの発言が、後に意外な角度から回収されることになることを、玲司たちはまだ知らなかった……。)

「そういえば未完声、ここ、使うんだろ?」

望月がボソッと口を開き、未完声たちに言った。

「あ、そうです〜☆でも、そっちが先客ですよね?」

「私たちは他の部屋を使うので、お気になさらず!」

「ハッハァ〜!気遣いのできるタイプの()だね?そういう娘、好きだよッ♡」

翠は舞衣子の対応に何を感じたのか、妙な身振り手振りをしながら舞衣子に近寄った。

「え……?翠くん?何を言って……」

ぽぷらが何を言っているんだと首を傾げる。まぁ当然の反応だろう。何してんねん。

「君ッ、お名前は?」

雛形(ひながた)舞衣子(まいこ)です」

「だと思ったッ!」

「「だと思ったッ!」じゃねぇよ!」

久作がツッコんだ。彼のツッコミには玲司とは違った切れ味がある。

「俺はね、君みたいに品性のある娘に、胸がときめくんだよッ」

「そうですか〜」

舞衣子は眉ひとつ動かしていない。

「君となら、あの虹の橋さえも、渡れる気がするんだよッ……!」

翠は舞衣子の左手を取り、教室の天井に向けて指差し、叫んだ。

「虹の橋を渡るって、死ぬって意味じゃ……」

文系のぽぷら、気が付いてしまう。

「どうだい?俺と最高の青春(ブルーエイプリル)を、過ごしてみませんかッ?」

「丁重に、お断りしまーす!!!」

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁん!!!???」

まぁ、そうなるでしょうな。翠はひどく狼狽して、頭を抱えたまま膝から崩れ落ちた。それを冷ややかな目で見る、一同。

「馬鹿な……ッ!天王寺家に代々伝わる色仕掛けが通用しないなんて……ッ!ハッ!さては君、上忍(じょうにん)だな!うちはサクラだな……ッ!?」

「何故に『NARUTO』が……?」

翠はギャグなのか本気なのかわからないが、口説き(?)が見事に弾かれたことに納得がいっていないようだった。なんで上手くいくと思ったんですかね……。

そろそろ誰もが疲れ初めていた時、翠がのそのそと身体を起こした。

「許さねぇぞ……。よくも俺様をここまでコケにしてくれたな」

「誰もしてなくないか……?」

「殺してやる……ッ」

あ、これはまずい。翠がプルプルと産まれたての子鹿みたいな震え方をしながらこう言う時は……。

「殺してやるぞ望月ィ!!!」

「はいぃ!?」

※別に何も起こらなかった。

「と、とんだとばっちりだね……☆」

「待て翠。俺にも言い分ってやつがある」

「フン……ッ。いいだろう。冥土の土産に言わせてやろう……ッ!」

「ぽぷらならいい。ただし俺はダメだ!!!」

「なんでぇ!?」

おい待てよ。望月、さてはお前も似たものだったのか……?嘘だと言ってくれ。

「どちらにしろダメだろ……」

御多花が呟いた。

「ぽぷら、俺は十五歳だ。それに対してお前は十六歳。俺の方が一歳若い。すなわち俺の方が生きる権利がある。Q.E.D。証明終了」

「無茶苦茶だよぉ!!」

本当に無茶苦茶だよ。もはややり取りは彼らだけに集中し、未完声たちは完全に蚊帳の外になっているようだった。

「おい望月、日本国憲法三本柱の二つ目って知ってるかよ……?」

久作が望月に溜め息混じりに質問した。

「任せろッ!」

だがそれに入り込んできたのは、でしゃばり翠君だった。

「だからお前じゃねぇって!」

「持たず、作らず、持ち込ませず、だろッ?」

翠は自信満々に答えた。しかし空気が再度死んだ。沈黙が教室を包み込み、かなーり気まずい状態になってしまう。

翠は腕を組みながら口を開いた。

「……久作君、俺のスタンドって「ザ・ワールド」だったかなッ?」

「お前しばらく喋るな」

久作からの厳しいツッコミが飛ぶ。ここまで終始ツッコミに徹していたのだからな。そりゃ疲れもするか。

「なぁRPよぉ、この茶番、あとどれくらい続くんだよ?」

茶番に飽き始めた梨音がついに言い出した。

「俺ももう疲れてきたかも……」

「部活もあと三十分しかないしなぁ」

「どう落とし前つけんだこらぁ〜☆」

それを皮切りに次々にメンバーたちも言い始めた。それを聞き、翠は頷きながら口を開いた。

「そうかッ……。ならいいだろう!この部屋も譲ろうッ!俺たちは撤収するとしようッ!」

「え?補修はどうすんだよ?」

「明日の風は明日に吹く。なんくるないさってやつさッ!」

「お前沖縄出身なのか……?」

「いやッ。静岡生まれの静岡育ちさッ!それではサラダバー!声劇同好会!いつか共に戦おうじゃないかッ!」

何と戦うつもりなのだろう……。まぁとにかく、これでRPとのひと時は終わったかのように思えた。

しかし、翠が教室のドアを開けた時だった。

「どこへいくつもりだ?天王寺」

「ぬわぁぁぁぁん!?」

「なっ……!貴女は……!」

教室の前にいたのは、御多花には見覚えのある人物だった……。


綾小路(あやのこうじ)里夢(りむ)


「どこに行くつもりだ?天王寺翠」

教室の外に出ていこうとした翠の前に現れたのは、腰まで伸びた紫色のモップのように長く、左目の隠れた髪をした女子生徒。不気味とも言える妖艶なオーラを身にまとい、腕を組んで翠の前に立っていた。

彼女の名前は……。

「生徒会副会長・綾小路里夢……」

「え?生徒会の副会長!?☆」

「ってことは……、御多花と同じ生徒会か!」

「いかにも。声劇同好会の諸君。御多花が世話になっている」

里夢が未完声のメンバーに丁寧に挨拶をした。それに合わせて、メンバーもそれぞれペコリと会釈をした。

「おいおいマジか……」

「生徒会副会長だって……!どうする……?望月君!?」

「なんで俺に……?」

予期せぬ副会長の登場に慌てふためくRPの三人。三人。つまり天王寺翠(アイツ)はというと……。

「……フハハハハハハッ!!ファン二号の登場とは予想外だったなぁ~ッ!」

いや何を言っているんだお前は。この状況になってもなお変わらない態度。もはやさすがというべきか。これがRPリーダー・天王寺翠の本質だ。もはや他の仲間たちは、何も言うことは無くなっていた。

「はぁ……?」

それを見ていた里夢は、頭にハテナを浮かべていた。まぁ、当然である。

「心配することはないぞッ!この学校の女の子は、みんな同じなのさッ!」

「ホントにキモいなぁ天王寺(おまえ)は……」

「ちょうど時間が出来たんだッ。どうだい?この俺とSweet(スウィートゥ)な放課後でも……」

「……何を言っているのか分からないが、取り敢えず会議室に来い。今日の補習部屋はそこだ。今も幹部がお前らを必死に探しているんだぞ?」

「はへ……?か、会議室……?」

「後ろの三人もそうだ。湊久作、井上ぽぷら、望月健太郎……」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!!!」

里夢が三人の名前を呼び、望月の名前を呼んだ直後、翠がまるでTOOBOEの楽曲『錠剤』のイントロとタメ張れる勢いの叫び声を上げた。そして電光石火の勢いで里夢の元に接近すると、そのまま彼女の口を手で抑え、部屋の隅の方へ移動した。

「この命知らずッッッ!!!」

むぐむぐぐぅ(何なんだ)……!?」

「すまないね!一旦ここから離れますッ!」

むぐむぐむうう(天王寺ぃ)!」

里夢は翠によって部屋の隅へと行った。

「い、いきなり何をする!」

「すみません……ッ!でもこれにはワケがあるんですよ……ッ!」

翠は里夢の口から手を離すと、息を整えてワケを話し始めた。

「我がRPには、鉄の掟が五か条ありまして……、そのうちの第四条に「望月の下の名前を口にしてはならない」というものがあるんです……ッ」

「ヴォルデモートみたいな感じか?」

「まぁ……、それですッ……」

「それがどうしたんだ?」

「かつてこの学校の裏の顔として君臨して、先代の生徒会の手で学校を追われた最凶最悪の不良生徒の名前……、ご存じですか……ッ?」

「……望月建太郎だな」

「そう!アイツは自分の名前を呼び捨てで呼ばれることをひどく嫌ったんだ……ッ!実際、呼び捨てで呼んだヤツは友達でも半殺しにしてるらしい……ッ!それもあって、同じ読みをする望月君は被害に遭うことを防ぐべく、自分の下の名前を封印したというんだ……ッ」

翠が震えながら語った、望月建太郎という生徒。かつて天乃川高校の最恐(最強、最凶)の不良生徒として君臨していた人物で、自分に相反する人物は容赦なく力でねじ伏せてきたという。当然その行いが放っておかれることはなく、先代の生徒会長の力によって学校を退学になったが、今でも時々顔を出しているという噂から、彼の植え付けた恐怖は天乃川高校の恐怖の象徴として染み付いている。

そんな凶悪な人物と同じ読みの名前を受けてしまったのが、望月君こと、望月健太郎というわけだ。(RPの望月は「健」で、不良の方は「建」と一字違い)

「なるほどな。分かった。以後気を付けるとしよう」

里夢は翠からの話に頷くと、そっと腰を上げた。

「まぁ、仮に呼んでしまっても、私には大した問題ではない」

「……え?」

キョトンとしている翠に、里夢は先程と違った空気をまとって振り返った。その顔は先程の妖艶なものとは変わって、じんわりと闘気のようなものがあった。

「その気になれば不良生徒なぞ、二度とこの町にいられないようにしてやれる」

里夢の目には、他の脅威を寄せ付けまいとする固い闘志があった。その目を見た翠は、完全にビビり散らかしていた。産まれたての子鹿みたいに。

「さぁ、行くぞ四人とも」

「はいっす」

「は、はい……」

「はいー」

「お、お邪魔しました~……ッ」

こうしてRPは里夢に連行され、彼らとの奇妙な時間は終わりを告げた。まるで嵐が過ぎ去ったような静けさは、未完声のメンバーには大きかった。

「なんか……、また変なやつらに巻き込まれちまったな」

「だな。まぁ、今回は賑やかなやつらだったじゃん?」

玲司と梨音が目を合わせて言った。

「まぁこれで、部活始められるじゃん!☆」

「でもあと十分しかねぇぜ?どーするよ?」

「鼎もいないし、また次回に回すのはどうだ?それに何だか今日は疲れた……」

「鼎先輩って来るの~?☆」

「来 さ せ る」

「な、なるほど……☆」

御多花の発言により、みんなは今日の所は解散という流れについた。そして鼎は、次はいつ来るのだろうか……。

「そうだね。じゃあみんな、今日は解散にして、また明日本格的にやろう!」

「だな。鼎には絶対に来させる。メンバー全員の方がいいしな」

「そうだな。じゃあ今日んところはここまでだな!みんな、お疲れ~」

今日は梨音の合図で解散となった。今日もなかなか賑やかな一日となった。でもこんな日も、なかなか面白いものだと思った。と、みんなは思っていた。


☆たった一人の大切((かなえ)side)


キーコ、キーコ、キーコ…………。

金髪と片耳のピアスを風に乗せながら、大の大人になろうとしている高校二年生がブランコを漕いでいる。恥ずかしいか?そんなの気にしたら何も発見できない。僕はいつだって、恥じらいを捨てて、楽しさを追っているのさ。

「ただ泣いて~笑~って~過~ごす~日~々に~♪」

お気に入りの『愛唄』を口ずさみながら、空高くまで飛んでやろうという勢いで漕いでいく。このブワッとぶつかる風が心地いい。抱えている悩み事だって、この時間のうちでは些細な問題だ。

「あ、いたいた」

漕ぐブランコにも勢いがノッて来た時、緑色のストレートロングの髪をした背の高い女子生徒が僕の元にやって来た。僕もその姿を見るなり、ブランコの勢いを落としていく。

「おっ!御多花~!」

「今日はなぜそこに?」

「特に理由は無い。ただこうやって、漕ぎたかっただけだよ」

「相変わらず、自由奔放だな」

御多花はいつもと同じ、やれやれという微笑みを浮かべている。

僕はブランコから降りて、御多花の隣に並んだ。彼女の近くから、古き良き和室のような、優しい匂いがした。

「今日は行けなくてごめんよ~。最初の活動だったっしょ?」

「まぁな。だがそれも、奇妙な連中によってお預けになってしまったが」

「奇妙な連中?」

「あぁ。まぁそれは、あとで詳しく教えてやる」

「っしゃ!ゆっくり聞かせておくれよ」

御多花との会話は楽しい。いや、彼女と一緒にいるのは、凄く楽しい。僕の下らない話にも、困惑するけど、決して嫌な顔せずに付き合ってくれる。勿論、彼女の方が頭がいいから、ツッコまれたり論破されたりするけど、僕もそんな関係に、嫌気が差したことはない。一緒にいようと決意したあの日から、僕の左側には、彼女がいる。

しばらくして、僕がブランコの近くの荷物を取りに行った時、御多花のスマホから着信音が鳴った。御多花はポケットからスマホを取って画面を見た時、眉をひそめ、それは苦虫を嚙み潰したような顔をした。それを見て、僕もすぐに彼女にとって都合の悪いことなんだと察知した。

「……誰から?」

「……兄だ」

「兄、というと……」

「はぁ……。由多華(ゆたか)だ」

「マジか……。アイツ嫌い」

僕も御多花と同じような嫌な顔を作ると、御多花は渋々電話に出た。

「もしもし……」

「────。───!!」

「はぁ……。そうか」

「────(笑)────!?」

「はいはい。分かった。そうする。じゃあ……」

御多花は一秒でも早く切りたいようで、やや空返事気味に頷いて会話を終わらせた。その様子を見ていた僕も、電話相手の由多華を思い出して心が苦かった。

「なんだって?凄く深刻な面持ちだけど」

「下らない話だ。次の襲名式の連絡だった」

「襲名?」

「あぁ。次の緑川家当主が、彼になるんだと」

「そっか……。ヤな話だね……」

「……緑川家長男・緑川由多華。気持ち悪い男だ」

御多花の口から語られた名前。僕は彼の事を少しだけ知っている。話だけしか聞いたことがないが、いいエピソードを聞かないあたり、人柄は良くないのだろう。

「え?その襲名式ってさ、いつあるの?」

「……今週の土曜だ」

「マジかぁ……。てことはその日の遊園地デートってなしぃ……?」

「すまない!お詫びや埋め合わせはしっかりする。だから……、今回は許してくれ」

「……なぁに。心配するなって。大丈夫」

僕はしゅんと落ち込んでいる御多花に、優しく微笑んであげる。その顔を見て、御多花の瞳に光が戻る。

「その代わり……、負けるなよ」

「え……?」

「苦しいなら、僕も一緒に苦しんであげるからさ。色々と、抱え込むなよ」

僕は御多花に、視線でエールを送った。それに対して、彼女も少し照れくさそうに、微笑み返していた。

「そんじゃ、帰ろうぜ~」

「うん。行こう」

僕たちは荷物をまとめると、夕焼けが夜に変わるグラデーションの下を歩き、公園を後にした。

(御多花……。よく笑うようになったな。これも、声劇のやつらのおかげなのかな。あの頃の御多花は、本当に現実を憎んでいる目をしてた……。いつも泣いてて、目が腫れてたっけ。でも御多花……、大丈夫だからな。僕が守るから。お前はもう苦しまなくていいんだ。僕が必ず、幸せにしてみせるから……!)

第三話・完

次回。第四話「台本作り(その1)」





???「やめた方がいい」

ぽぷら「え……?」

???「申し訳ないが、認められない……」

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