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93 一夜明けて


 ――ドゥルルルルン。


「……そんな事があったんですかー!へえー。いやー人間の愛憎って凄いですねカイトさん!」


 あー、なんかコイツの気楽さがスゲー羨ましいわー。


 ――ギルドからの帰り道、カブは好奇心の塊といった表情をタブレットに貼り付けて、続けて聞いてきた。



「え?そ、それからどうなったんですか!?」


 俺は再び話し始めた。




 ――側にターニャをはべらせたイヴは、ふらっと壁に向かって歩いて行き、そのまま壁を背にもたれて虚空を見つめた後、俯いて何も言葉を発しなくなった。

 ターニャはそんなイヴの足元にずっとくっついている。

 事情は絶対分かってないと思うが、イブが悲しんでいる事はなんとなく感じ取っているようだ。やるなターニャ。


 俺とセシルとイングリッドは別の部屋に移動し、これからどうするのが良いか意見を出した。


「セシル、イヴあんな状態だけどお前、本当に家に連れて帰れるのか!?」

 と俺が聞くと、セシルは悩ましげな顔をして答えた。


「……ごめん、カイト。ちょっと無理……かな」

 そしてイングリッドも遠慮がちに手を挙げた。

「私もやめた方が良いと思いす。多分、今は私達がそばにいるだけで彼女にとって凄いストレスになると思います……」


 フーーッ……。


 俺は大きくため息をついて、最後の気力を振り絞って宣言した。


「よっしゃ、イヴはしばらく俺が預かろう!時間が経てばアイツも心変わりするかも知れん。セシル、すまねぇな、色々と巻き込んじまって……」


 セシルはニッコリと笑った。


「気にしないで、私はあなたを信じてるから」


「……分かった」


 神だなあ……。



 ――それから俺はイヴに「俺の家へ行くぞ」と声を掛けた。

 イヴの事だから喜ぶんじゃないかと思ったが、意外にも少し頷くだけで一言も喋らなかった。……大丈夫か?


 再び眠りに落ちたターニャとセットで荷車まで運び、今まさにカブを運転して家に帰る所だった。

 辺りはもう真っ暗だ。



 俺の体力はもはや限界に来ていた。

 だだでさえ1000キロの距離を200キロ前後の荷物を乗せてカブで往復して帰ってきたのだ。

 その上イヴという爆弾のような娘も抱えていて、今後どうすれば良いか見当もつかない。


「こういう時はやる事ぁ決まってる」


 俺が独り言のようにそう話すと、カブが反応した。


「どうするんですか?」


「寝る!」


 俺は即答した。



「またイヴさんに寝込みを襲われるかも知れませんよ?」

「もうどうでもいいわ。とにかく俺は寝たい」

「そうですかー。ゆっくり休んで下さい」


 タブレットに「ZZZ」の文字が映されている。相変わらず芸が細かいな。




 ――ガラガラッ。キキーッ。


 夜道を進んで我が家へ到着した。


 俺はカブを降りて荷車のイヴとターニャの様子を見に行った。

 イヴは起きていたが、ターニャは寝たままだ。

 家に着いたと悟ったイヴは荷車を降りて、ターニャをおんぶしてくれた。表情は暗くてよく分からない。


 あ、そうそう。これを断っておかないとな……。


「イヴ、俺は実はこの世界の人間じゃねーんだ。この家も俺が元々住んでた世界のものだから、こっちの家とはかなり違いがある」


「……はい」


 イヴのか細い声が耳に入った。


 いつもはカブの荷車を外して玄関にカブを入れておくのだが今日はそんな余裕はない。


 俺はターニャを背負ったイヴを中に案内し、一通り洗面所やトイレ、台所などを紹介した。


 イヴは開いた口が塞がらないように驚いていた。そりゃそうだろうな。

 しかし言葉は一切発していなかったのが気にかかる。まああんな事があったんだ、しょーがねえか。


 そして寝室として使っている和室に入り、布団を3つ敷き、まずターニャを寝かせる。


 思い返せばターニャも道中の最後の方から一切喋ってない。やはり相当疲れていたんだろう。


 そしてイヴにも布団を敷いてやり、「今日は一旦寝ろ」と伝えた。


「……」


 返事はなかった。


 そして最後敷いた布団に俺も横になった。


「おやすみ」


 とだけ言って俺は目を瞑った。


 ……すぐに聞こえてきたのはイヴの泣き声だった。


「ぐすっ……すっ……」


 俺は半分眠りかかっていたが、片手を伸ばして頭を撫でてやると静かになった。そうだ、眠れ眠れ。



 ……。


 …………。




 夢など一切見ないで、朝日が昇っているのを感じて俺は目が覚めた。


「おじ、おはよー!」


 寝ている俺の顔を覗き込むようにターニャが挨拶してきた。


 俺はその睡眠で、体がかなり回復しているのを感じた。

 よしっ!起きるぞ!!


「ターニャ、イヴはどうした?」


「ターニャがご飯おしえてるー」


 ん?何て??



 ――ガチャン!!


 音がしたのを聞いたターニャが台所へダッシュする。もちろん俺も続く。



 台所では、割れた皿を慌てて集めているイヴの姿があった。


「あ、カイトさん。ごめんなさい!お皿落としちゃって……」


 俺はイヴがターニャと朝飯を作ろうとしていたのを察して、ちょっと安心して笑った。


「お、おお。いや、それは良いけどお前大丈夫か!?」


「……はい」


 イヴは昨日のギルドでの姿が嘘のように大人しくなっていた。


「お前、あんまり飯作ったことない?」

「……はい。宿では受付だけで、食事は運ぶ事しかしてませんでした」


「ふーん……」


 俺はしばらくイヴをどうすれば良いか考えていたら、ある事を思い出した。


 あれ?そういや今日、キルケーの定期便じゃねーか……!


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