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88 イヴ、お前は……


「カイトさん!私です」


 そいつは全身を覆っていたコートをバッサリと脱ぎ、それがイヴ本人である事、そして敵意がない事を示した。


 コートの下は随分軽快な服装で、白い二の腕や脚があらわになっていて色っぽい……。

 いや、そうじゃなくて聞きたい事がいっぱいある。


 俺は一旦カブを降り、イヴと話す事にした。

 チラッとタブレットに目をやると、「?」の文字と共に悩ましげな顔が映されていた。


「あれは、……今朝の宿屋の方ですか!?」

「おう、間違いない」

「イヴ、ご飯くれたー!」

「そうだな」


 とりあえず話だ。



「はぁっ、はあっ。カイトさん……、良かった。先に行かれてなくて……」


 息を切らせながら肩で呼吸をするイヴだった。


「お、おいおいイヴよ。一体どういうつもりだ!?もしかして、俺を待ってたのか?」


 イヴは綺麗な目をさらに輝かせて答える。


「はい!」


「い、いや、お前さん確か当てはあるって言ってなかったか?」


「はい、それ、カイトさんの事です」


 イヴは一切の迷いなく宣言しする。ええー!?聞いてねえぞそんなの??


 よく見ると、イヴの顔は宿で受付をしていた時とは別人のようになっていた。

 以前はまるで生気のない人形のような瞳だったのが、今は好奇心旺盛な若者が持つエネルギッシュなそれへと変わっている。


「いや、言っとくが俺はどっかの富豪とか貴族とかじゃねーし、そんな余裕のある人間じゃねーぞ!?」


「そういう問題じゃないです」


 イヴは首を横に振り、はっきりと否定してきた。


「俺は、てっきり()()()()()()()()()何か別の仕事を始めるもんだと思ってたんだが……」


 俺がそう言うと、イヴの表情が少し曇った。


「前も言ったかも知れませんが……それは無理なんです」


「な、何で?」



 ……それからイヴが話した事は驚くほど深刻な内容だった。


「私があの宿屋で働いていたのは自分の意思ではありません。働かされていたのです」


「……誰に?」


「ゼファールには国全体を支配している地下組織があります。私はソイツらに雇われ……いや、飼われていました。そして『お前は見た目が良いから宿屋の受付の仕事をしろ』と、言われました」


 地下組織!?マフィアか何かか?なんつーおっかない話だ……。


 イヴは少し震えるような仕草をして、自分の腕で自分の身体を抱き抱えるようなポーズを取った。そして少し声を引き攣らせながら話し始めた。


「わ、……私は自由を奪われ、宿での仕事が終わると今度は組織の人間の情欲の吐口にされました」


 俺は黙って話を聞いた。


「そうして何年か経つと、私の心は壊れていきました。自分が何のために生きているのか分からない……心の中は常に虚しさでいっぱいで、死ぬ事を考え始めました」



 ……。


 俺もカブも言葉を発さない。いや、発せなかった。

 ターニャだけが話の内容がわからず首を傾げていた。



 イヴの話は続いた。


「宿から逃げ出して田舎の村に住もうとしましたが、すぐに見つかりひどい事をされました。このゼファールで彼らの目を忍んで生活する事は無理です。どんな田舎の村にも奴らの監視の目があるからです!」


 イヴは一呼吸置いて、俺を見て続けた。


「……そんな折、あなたが泊まりに来ました。あなたは自分のお金を盗ろうとした泥棒の手先であるこの私を、罰するどころか庇い励ましてくれました……本当に嬉しかった」


 この時、俺はイヴに感謝されて正直困惑していた。特にイヴを助けようというつもりはなかった。

 ただ、脅されて気の毒だったから励ましただけだ。


 そしてイヴは俺の元に歩み寄ってきて、俺の胸元に自らの頭を預けてきた。

 そして誘導されるように俺も自然とイヴの肩に手を回した。いや、下心など全くないがそうするのが良いような気がしたからだ。


「はあ、……こうしている時が、今が生きてて一番幸せかも知れない。暖かくて……」


 そう言いうイヴの顔は大分赤みがかっている。

 ドクン、ドクン、ドクン……。

 イヴの細い指が俺の胸板をなぞっていく――。


 うおー。ヤ、ヤバいぞ、この状態はー……年甲斐もなく興奮しちまう!


 いつの間にかイヴの両の手が俺の首にかけられている!……こ、これは、俺が少しうつむけばお互いの顔同士が……唇同士が……あ、ああ!!



 ――パパーーーー!!


 そんな状態の俺とイヴを見かねたのか、カブがホーンを鳴らした。


 イヴも俺も思わずカブを振り向いた。


 よ、よくやった……と言っておくぞ!


 カブはタブレットをこちらに向け、俺に警告して来た。


「良いんですか!?カイトさん。セシルさんに刺されても知りませんよ?」


 そんなカブを不思議そうに見つめてイヴはこう言った。



「セシル――誰ですかぁーその人?」



 うおおっ!!


 その表情に俺はビックリした。


 今まで幸せそうに俺にくっ付いて柔らかい笑顔を浮かべていたというのに、今はさながら獲物を狙う猛禽類のような顔つきになっている!!


 怖えええええ!女こええええ!



 と、とりあえず俺はこれからどうするかに頭を切り替えようとした。


「ま、まあとにかくこれからどうするか考えねーと……おいイヴ?」


「はい」

 イヴは再び幸せそうな笑顔になっていた。


「一応聞いとくけど、ゼファールに戻る気は完全にないのか?」


 イヴは人差し指を顎に当て、上を向いて答える。


「カイトさん。あなたと一緒なら良いですよ?」


 遠回しに拒否しているようなものだ。


「あ、そうか。やっぱ戻る気ねえか……」


 ニッコリと微笑むイヴ。



 ………………。


 俺はしばらく考え込み。やがて結論を出した。


「よし、じゃあお前もスズッキーニまで来い!このままじゃどうにもならん!」


 イヴは、わあっ……という花が咲いたような笑顔を見せて感謝の言葉を述べてくる。


「カイトさん、ありがとうございます」


 そんなイヴをターニャは不思議そうに見つめていた。



「おう、ターニャ。しばらくこのイヴも一緒に連れて行くぞ!」


 ターニャはイヴに向かって行き。無言で足元に抱きついた!


「……か、可愛いいぃぃ!」

 なんかホッコリした表情で、イヴはターニャの頭をなでなでしていた。


 そしてしばらくして、普通なら真っ先に気付く事にやっと言及してきた。


「あ、……そういえばさっきその車から不思議な声がしたような……」


 カブはなぜか恥ずかしそうに照れながらタブレットに顔を見せ、


「ど、どうもどうも。僕がカイトさんの相棒、スーパーカブです……ふひひ」


 と挨拶した。なんか挙動不審だぞ?


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― 新着の感想 ―
ええ、、、ハーレムなっちゃうの、、、? 一途でいてほしかった
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