87 パンク修理と襲撃!
俺達は今ニンジャーから出発したばかりだったが、同時に日が昇ってきて辺りが明るくなってきた。
うはは、朝日が眩しくて気持ちいいーー!!
――ドゥルルルルルッ、ガチャガチャ。ギシッ、ギシッ……。
「うーん、やっぱりこの荷物、絶対ロール紙とペンより重いよな。さすが鉄製品だわ。でも最初に動きさえすれば何とかなるもんだな。ははははっ!」
俺は上機嫌だった。
後はヤマッハまで頑張ればいい。ゴールが見えていると気が楽ってもんだ!ははっ。
しかしニンジャーの要塞が見えなくなってしばらく進んだ頃、カブがとんでもないこと告白してきた。
「あ、あの。……カイトさん?ちょっと言いづらいんですが――」
「ん、どうしたカブ?」
「あの、もしかしたらパンクしてるかも知れません……」
俺はゾクリとした。パンクだと!?一体どこで……!?俺は頭の中でここまでのカブとの行動を振り返った。
……そ、そういや宿からニンジャーの関所までの道に鉄屑やらいっぱい落ちてたな。くっ!パンクの可能性は普通にあるか……!
「も、もしかしたら気のせいなのかも知れないってぐらいの小さいパンクだと思うんですが……今も走れてるぐらいですし。あ、ちなみに後タイヤです!」
俺は急いでカブから降り、センタースタンドを立てた。
そしてリアボックスに重りとして入れたギア類を取り出し、後タイヤをクルクルと回しながら注意深く何かが刺さっていないか観察した。
ターニャは後ろを向き「何してんだ?」という顔をしている。
「タイヤ自体はいつもとあんまり変わらねえ、極端に空気が抜けてるわけでもない。だが……」
俺は緊張の面持ちで答える。
「はい、もし本当にパンクしていた場合……。いずれチューブ内の空気が抜けてタイヤが押しつぶされ、そのまま走っているとタイヤ内のチューブがリムと地面との間に挟まれてボロボロになります!」
俺は「その通りだ」という無言の頷きを返しタイヤの観察を続ける。いや、マジで洒落にならんて……。
……ん?
「ああ!?これか??」
確かに針金ぐらいのサイズの鉄片がタイヤにめり込んでいた!ブロックタイヤの溝の部分にだ!
一応他の部分もみておこう。
五分ほどして、前タイヤも含めて全てチェックし終わった。
ここで俺は決めた。
「よっしゃ。これ、今ここで直すぞ!」
カブは心底安心したようなため息をつく。
「ふぅーっ……。そうして貰えると安心しますぅ〜……」
しっかしパンク修理の道具積んでて助かったわ。出発前にお前と話し合いしてて良かったぜ。
「同感です!」
……という訳で、俺は早速修理に取り掛かった。
タイヤレバーでタイヤの一部をリムから外し、中のチューブを取り出し軽く上から水を垂らしてその部分の両端を両手でぎゅっと絞る。
――すると、やっぱり小さな気泡がチューブから浮き出て来た!!
「うおー。しっかり穴開いてやがった!ほら、ターニャ見てみ!」
俺は嬉しくなり、ターニャにもその気泡を見せた。
「くうき?なんか出た……!?」
「そう。それがパンクってヤツだ。このまま走ってたらタイヤがぺちゃんこになってカブが死んじまう所だったんだ!」
「ええーー!?」
ターニャは衝撃を受けたようだ。
「カブ、大丈夫!?」
「大丈夫です!カイトさんが直してくれますから」
カブは映画俳優のようなカッコいい表情を映している。おい、誰だそれは!?
俺はそのチューブの穴の部分を紙やすりでこすり、粘着テープが付きやすいようにする。
そして修理キッドに入っていたゴムの糊を穴の部分に塗ってしばらく待ち、そこにタイヤパッチを被せて上からハンマーで軽く何回も叩く!
コンコンコンコン……。
「よし、後はフィルムを剥がして、……これで塞がったハズだ!」
俺は修理キッドと一緒に持って来たバケツに水を入れ、チューブの修理した部分を突っ込んで両端を握り圧力をかけた。
……。気泡は、ない!!
「おっしゃ。直ったぞカブ!」
「いやったー!!ありがとうございますカイトさん!!」
「おおー!おじ、すごーい!」
「ふはははははは!初めてやったけど意外と出来るモンだな」
後はチューブをタイヤの中に戻してタイヤレバーを取り外して空気入れで空気を入れて終了!
いやー今回も焦った焦った、はははは。
「お疲れ様でしたカイトさん」
「おう」
「おじ、すごい!カブ死なない!?」
「おう、カブはこうやって修理してれば10万キロ走っても元気に動くぞ!」
「ういーー!」
ターニャが座った状態の俺に抱きついて来た。ふっ、どんなもんだ!
――そんな感じで俺達は再び配達を再開した。
俺は何気なくつぶやいた。
「いやー、しかし何かしらトラブルってのは起こるモンだな」
「まあ、コレだけ長い距離走ってますからねー。でももう大丈夫じゃないですか!?あとは来た道を引き返すだけだし、荷物は重いけど走れるし、ガソリンも一応まだ余裕ありますし」
「だな、あとは盗賊とかに襲われるとか……ぐらいか?」
俺は冗談半分で言った。
「や、やめて下さいよー縁起でもない。ハハ……」
でも普通に武器は携帯しておきたい。ゼファールで思い知ったけど俺もいつか敵と戦わにゃならん時が来るかもな。
……などと、運転しながら考えていたら。奴は現れた!
「ん?カブ、何だあれ!?道の正面に何かいるぞ!」
ソレとの距離は50メートル程だったが、明らかにそれは人だった。
――ギギッ。ザザッ、ザッ。
前後のブレーキでゆっくりカブを止める。
ソイツの姿をじっくり見ると、フード付きのコートを纏っていて顔も碌に判別できない。
しかし、俺が恐怖したのはその手に剣を持っていた事だ!
「ヤ、ヤベェ。本当に盗賊が出て来たかも……」
「ええっ!カ、カイトさんが辺な事言うからー!」
「とうぞくー?なにー?」
俺達が警戒しながらソイツを見ていると。何とこっちに向かって来た!
ぎゃああああ!来るんじゃない!!
俺はとりあえずカブを降りた。
そして手持ちの武器も何もなかったので、仕方なくパンク修理に使った空気入れを構える。
「くっそ……こんなもんで対抗出来るか分からんが無いよりマシだ。ターニャ、どっかに隠れてろ!」
「え……おじ!?」
ターニャは何が起きたか分からないでいる。ベトナムキャリアに座ってて正面が見えないからだ。
俺は猪と戦った時を思い出し、空気入れを構える。
――しかし、その緊縛した空気は一瞬で破られる事になる。
ソイツがフードを外し顔が顕になると、それは、今朝まで俺達と一緒にいた奴だった!
イヴじゃねーか!?