86 さらばニンジャー
関所までの道中、やっとカブがタブレットに顔を映した。
「いやー、昨晩は大変でしたねー」
泥棒の事だろうな。
「ああ、お前が機転を効かせてヤツに突撃してくれたおかげで助かったわ。ナイス、カブ!」
カブは照れながら「いやー」とか言っている。
「どろぼー!?どろぼーって何ー?」
そういやターニャはずっと寝てたよな。
「お前が寝てる間に色々あったんだぞー。ターニャ」
「……ふーん。どんなー?」
俺はイヴに迫られた所は伏せて、部屋に泥棒が入ってその泥棒をカブと協力して捕まえた事を話した。
「すごい!おじとカブ。強いー!」
ターニャが感心している。
「強い……か……」
俺は今回の事件も含めてちょっと思う所があった。
「どうかしましたか、カイトさん?」
「……いや、やっぱこの世界って普通に怖えなって思ったんだ。イヴって宿屋の娘に聞いた話だと凶悪なゴロツキが結構いっぱいいるらしいんだよ」
カブは考え込むような表情で、答えた。
「まあそうですね。やっぱりその辺は日本と比較するとアレですかね……」
俺は前から考えていた事をカブとターニャに話した。
「で、俺が思うにやっぱ携帯できる武器を持っといた方が良いと思ったんだよ。剣みたいなな。ちょっとヤマッハに帰ったら探してみようと思ってる」
そう話すとカブの目が輝いた!あれ?やっぱお前もそういうの好きなんか?
「良いですねー!剣とか刀とかシビれますもん!」
「剣!ほうちょう!猪狩りしよー、おじ!」
ほう、ターニャも独自の意見を持っているようだ。
てかお前、前も言ってたけどなんで狩りがしたいんだ?
――ヂャリ……。
何か踏んだような音がして、俺はよく道を見てみた。するとこの道の途中には色んな鉄の部品が落ちている。
釘、ネジ、歯車、など錆びて捨てられたものからまだ使えそうなものまで色々とあった。
その時俺はミルコの事を思い出した。
「アイツ確かこういうの欲しがってたな。持って帰ってやるか」
俺は比較的錆がなくまだ機能しそうな歯車やねじ、釘、などを拾い集め、自分のリュックに詰め込んだ。
「やっぱりこうしてみると鉄製品の国って感じがしますよね!そこら中に色々落ちてます」
「ああ、ちょっと心配なのは帰りの荷車の重たさだな。鉄製品だけあって紙やペンとは比べ物にならねえぐらい重いわけだろ?」
「まあ、そこは僕が頑張ります!あと、どっちかというとスズッキーニよりこちらのゼファールの方が標高が高そうなので下り坂が多いと思いますし、まあ大丈夫ですよ!」
ふっ、頼もしいぜ。俺はカブに笑顔を返した。
そうしているうちに関所に着いて、山際の空は少しだけ明るくなっていた。
よし、もう少しで夜明けだ。
中に入るとやはり武装した兵士達がいて、一斉にこちらを見てくる。
「おっす。スーパーカブのカイトだ。今から帰りの準備をしたい」
そう言うと、昨日もいた兵士長らしき男がやって来た。
「カイトさんですね。こちらです」
兵士長に案内されたそこには、藁の敷かれた地面の上に置かれた大量の鉄製品が鎮座していた。
まず目についたのはデカい歯車、そしてその支柱。それからネジ、釘、などが大量に突っ込まれた金属製の缶などが見える。
うわー、……みるからに重そうだな……。
ここで兵士長は俺に礼を行ってきた。
「カイトさん。昨日届いたロール紙とペンですが。昨晩王城に届き、大臣達からお褒めの言葉を頂きました。『大変品質の良いものを届けて頂き感謝している』との事です。私からも感謝致します」
「お、おう。そうか!いや、良かったわー。まあ俺は運んだだけだからよ。はは……」
俺は軽く謙遜したが気分は良かった。仕事したなーって感じがするぜ。ふふ。
「では積み込んでいこう」
いよいよだ。兵士長はどれから積み込んでいくのが良いか指示を出してくれた。
重くてデカいもんから荷車の底に積んでいくのは野菜の時と同じだ。
――ゴトッ。
「お、……重い……!!このデカい歯車だけでもどえらい重たさだな」
「何か大型の機械に使うものでしょうな。これらの金属部品は全てスズッキーニ側からのオーダー品です。もちろん全て揃っているのは確認済みですのでご安心下さい」
兵士長にそう説明され俺は安心した。届けてからアレがないコレがないとかはなさそうだ。
「ふぐぅううううう!!」
ターニャも手伝おうと歯車を持ち上げようとしている。偉いぞ!でもちょっと無謀だぜ?
「おうターニャ。ちょっと危ねえから下がってろ」
「むー……つまらん!」
ターニャはちょっとむくれていた。ははは、面白えヤツだ。
……ギシッ、ギシッ。全ての部品を積み込むと、重たそうに荷車が軋む音が聞こえた。
特殊なサスペンションの付いた荷車がかつてないぐらい沈んでいる気がする。大丈夫かコレ!?
「よし、全て積み込み完了です。カイトさん、すぐに出発されますか?」
「……そうだな。ちょうど日も昇ってきそうだし。出るわ!」
俺がそう答えると、兵士達が俺を見送る為に一斉に集まってきた!
うわっ、そ、そうか。やっぱり普通はこうなるよな!?
この状況でエンジンかけて出発しなきゃいけねえの、めっちゃやりずらいぜ……。
その兵士達はもちろん俺達に注目している。
「あんな小さい車で大丈夫か?」
「一体どんな技術なんだろうな??」
などと各人の感想が聞こえてくる。
俺はターニャをまたベトナムキャリアに座らせ、シートに乗り込む。
――キュルルッ!ドゥルルーン!!
エンジンをかけると、兵士達が先程までより大きな声で騒ぎ始めた!
「な、なんだ!?、今のがエンジンの始動音か!?」
「と、とんでもなく静かだ!……すごい……」
俺はギアを一速に入れ、ゆっくりとアクセルを捻る。
――ドゥルルルーゥゥウウウ!!
今回は、前の泥沼ん時と同様に出発時にタイヤが空転してしまうとカッコつかないので、しっかりリアボックスに重めのギア類を入れておいた。
そのおかげで――。
ドゥルルルルゥゥー……!
カブはゆっくり動き出す。本当にゆっくりと……。
すると周りの兵士達から歓声が上がり、一斉に手を振られると共に別れのエールが送られた。
「スーパーカブのカイト殿!行ってらっしゃい!!」
「ご無事で!よろしくお願い致しまーす!!」
「行ってらっしゃーい!!」
俺は関所を出た所で兵士達を振り向き、ターニャと共に手を振ってゼファールを後にした。
いやー、ここでも色々あったが責任持って届けてやるぜ!
「じゃあなー!!」
「ばいばーい!!」
意気揚々と出発した俺達だったが、このすぐ後、カブからとんでもない話を聞かされるのだった。
誤字報告ありがとうございます!