84 天国から地獄!?
ええええ!?……ちょ、ちょっと待っくれ!?
いきなり年頃の娘にとんでもない事を言われて俺は動揺しまくった。
そもそもまず驚いたのはイヴのその服装だった。
完全に寝巻きだったがその布の薄さがとんでもない!
部屋には大きめのランタンが一つだけで、何とか部屋の壁ギリギリまで辛うじて照らしている程度だったのだが、もう肌が透けて見えるか見えないかというレベルの色っぽい服装だった……。
とりあえず俺は事情を聞き出そうとした。――が。
イヴに先手を打たれてしまう!
彼女は掌を俺の胸元にスッと押し当てて、
「あちらへ……」
とベッドの方へ俺を誘う。
イヴは俺が一旦落ち着く暇もなく、俺の身体に腕を回して抱きつく姿勢をとる!
ええええ!?もしかしてここってそういうサービスの宿だったのか!?いや聞いてねーぞ!
「ちょ、ちょっと待てイヴ!一旦話を聞かせてくれ」
俺がそう言うとイヴはやはり虚ろな表情でベッドに座り、やがて横になった。
そして今までよりハッキリと大きめの声で言った。
「あなたも一緒に寝て下さい……でなければ、私はあなたに何も話すことは出来ない」
「い、いやー。そういわれてもなぁ……ほぼ初対面の君みたいな女の子といきなり――」
「……」
――などと俺は戸惑い頭を掻いていたが、本当にイヴは何も話してこなかった。
どうしよう?普通に考えたらこんな若い女子とベッドで一緒に寝るとか、なんて羨ましい奴だ……と思うだろう?
もちろんその通りだ!
俺はとりあえず布団に入って横向きになった。そしてお互いに顔が30センチぐらいの所まで近づいた。
相変わらずキレイな顔だが感情は読めない。
「こ、これでいいか!?」
するとイヴはとんでもない事を言い出した。
「実は私、まだこういうことしたことないの……灯りを消させて下さい」
そう言ってランタンの火を消そうとするイヴ。ん――!?
……その時俺は興奮するよりも先に何か違和感を覚えた。
何というか、それまでの彼女と違い、そのランタンを消すというその動作だけはハッキリと何か作為的なものを感じさせたのだ。
ん!?もしや……これは……!!
ネガティブ思考の俺は一瞬でそれを連想し、ランタンを消そうとする彼女の腕を掴んだ。
それによって初めてイヴの表情にハッキリとした変化が見られた。驚いている。そして何かに怯えているような表情。いや、……俺にではない。
こんなことをしなければならない理由に恐らく彼女は怯えている!
「お前の事は信じる」
俺はイヴの目を見てそう言い、振り向いて部屋の入り口を見た。すると――!!
やはりいた!
今まさに壁に掛けられた俺の上着を盗もうとしている輩が!!
「イヴを囮にした窃盗か……」
上着の掛けられた位置、ポケットに入っている財布重たさ、全てイヴから聞いていたんだろう。
しかし問題はイヴが共犯なのか、脅されてやっただけなのか、だが――。
「お前の事は信じる」
俺はイヴに背を向け泥棒をにらみながらもう一度そうつぶやく。
そして今度は泥棒の男に対して怒りの声を上げた。
「何してんだコラァ!!」
俺は男に向かってダッシュした。
ヤツは体格は普通だが泥棒だけあって身のこなしは速そうだ。
だが相手は一人!隣には護衛の兵士もいる……。これは正面から捕まえに行くのが正解なハズ!
その上着の中の財布には俺の全財産が入ってんだ!ふざけんなよー!!
「泥棒ーー!泥棒が入ったぞーー!!」
俺は声を大にして叫んだ。
泥棒の男は俺の上着をハンガーから剥ぎ取ると、一目散に下へと走っていく。俺はそれを猛追する!!
「待てえ!泥棒がー!!」
――ドゴッ!!
その男が宿の入り口を出た所で何者かが男をはねた!
まあアイツしかいねえ!ナイスだ、カブ!!
「ぐわあああ」
吹っ飛びながら地面を転がっていく泥棒に俺は追いつき馬乗りになって首を締め上げた!
「観念しろ!この野郎」
「くっ!……くっそ……!」
そこへ隣の部屋にいた兵士がやってきた。
俺は財布の入った上着を取り返すと、その兵士に告げた。
「こいつ、もしかしたらイヴを脅してたかも知れん。もしくはイヴも共犯かもしれない……」
「何!?イヴが……?ちょっとコイツを連れて宿に戻りましょう……というか。カイトさん……この車で追いかけたのですか?すさまじく素早いですね」
もちろんカブが自分で動ける事など言うはずもない。
「あ、……ああ、突撃してふっ飛ばしたんだ!はははっ」
俺はとっさにホラを吹く。
カブを見ると再びだんまりモードに戻っていた。
泥棒は手を後ろに縛られ悔しそうな表情で兵士に手綱を引かれ連行されていく。
「お前がイヴをどうかしたのか吐いてもらうぞ」
俺は泥棒をにらみながら釘を差した。
そのまま俺はカブを押して宿の裏手に止め、入口から受付に入るとそこにはイヴが立っていた。
なんか泣きそうな表情をしている。もうこの時点でこの泥棒と共犯ではなさそうではあるが……。
ここであろうことか兵士に捕まった泥棒がイヴに暴言を吐いた。
「お前がしっかり誘わねーから気付かれたんだ!死ねやこのアマー!!」
そしてさらにイヴに蹴りを放った!
「や、やめ……てっ!!」
俺はブチギレた。
ドゴォッ!!
泥棒の顔面に拳をめり込まんばかりに叩き込んでやった。
「ぎゃあああああ!!」
鼻から血を出しのたうち回る泥棒。
「てめぇこの期に及んでいい加減にせえよコラァ!!」
兵士が俺をなだめてくる。それと同時に兵士も泥棒に追い打ちをかける。
「お前は手だけでなく足癖も悪いようだな。次ふざけたマネをしたら両足を落とすぞ」
「ひっ!!ひいいすいませんすいません!!」
……と、剣の刃を見せながら脅している。この時俺は思った。
剣か――いいな!
……そんな事を考えているとイヴが泣きながら謝ってきた。
「ごめんなさい……」
俺は慌てて答えた。
「いや、別にイヴが謝る事はねえだろ。――なあお前?」
俺は泥棒の方を向いて聞いた。聞くまでも無さそうだったが……。
「……」
泥棒は無謀にも黙秘した。どうなっても知らねーぞ……。
「ほう、反抗的だな」
兵士は剣の刃を泥棒の指に当てがった。
「あ、……ああ!言います言います!!正直に言いますから、き、切らないでくださいー!!」
なんとも小悪党らしい惨めったらしい命乞いをして、この泥棒は話始めた。