83 イヴ
俺が答えに困っていると。兵士の長らしき人物が近づいて来た。
「ヴェルシース博士。この場ではそういった質問は控えて下さい。スズッキーニ側から技術窃盗罪に問われかねません……」
「うっひゃあ。それは困るー!お、お許しを」
その博士らしき人物は俺に頭を下げた。
「い、いや。俺はよく知らねーけど……」
おお、良かった、なんとか助かった!
なるほど、こういった自国の技術はしっかり守られてるんだな。俺はちょっと感心した。
兵士長らしき人物はこうも言ってきた。
「荷物を渡すのは今がいいか?今まで来てもらっていた輸送団の面々は一晩休んでから出発されていたようだが……?」
「え!?一晩休むってどこで?」
俺は少し緊張感も和らいできたので臆さず聞いた。
「この要塞を抜けた所に宿屋がある。一晩1000ゲイルだが、どうする?」
おお!これは良い話だ。
一泊して早朝に宿を出れば明日にはヤマッハに戻れる。
……てか別に明日までに戻る必要はねーんだ。セシルもニンジャーに着いてから3日以内に戻って来てくれれば良いって言ってたしな。
「おう!一泊していくわ」
兵士長は軽く頷き、「そうか」とだけ言い、思い出したようにちょっと怖い事を付け足してきた。
「スズッキーニは比較的治安の良い国だと聞いている。しかしこのゼファールはその限りではない」
え!マジで!?……。
「ま、まあ一泊するだけだし大丈夫だろ!」
それに兵士長は答えた。
「我々としてもあなたに何かあっては色々と困るので護衛をつけよう」
「おお、助かるぜ!」
兵士長は、最初に俺達を調べたあの兵士を呼び俺達を宿へ案内するよう伝えていた。
「どうぞ、こちらへ……」
「お、おう。ターニャ、行くぞ。今日はこのニンジャーの宿に泊まるからな」
それまでうつむき加減で大人しかったターニャはそれを聞いてポカンとした表情を浮かべる。
「……うん……」
あ、あれ?もっと喜ぶかと思ったが……?
よく見るとかなり眠たそうにしてるな。よし、宿に着いたら一旦寝かしてみるか。
そしてカブはというと、ここに着いてから一切喋っていない。
さらにタブレットにも一切表情を映していない。
まあ、この状況ならそれが正解なんだが、なんか不気味だ……。
俺達は兵士の後をついて歩いていった。
俺は空になった荷車を付けたカブを押して、ターニャは眠い目をこすりながら、カブは何考えてるか分からないまま、5分ほどでその宿に到着した。
そこは長屋のように繋がった宿で、俺の家と同じぐらいの大きさの建物だった。
俺はカブを裏手に止めて、全体をビニールシートで覆っておいた。
「おい、大丈夫だとは思うけど何かされそうになったらホーンで知らせろよ、そして逃げろ」
「カ、カイトさーん!……この国怖くないですか!?なんかピリピリしてるというか……」
カブはしっかりビビリちらかしていた。表情も青ざめている。
「ひ、一晩だけだから大丈夫だろ!ビビってんじゃねーよ!」
「カイトさんも似たようなもんじゃないですか!心細いんですけどー!!」
「何でそんなとこまで人間みたいなんだ!?とにかく俺とターニャはもう行くぞ」
……という訳で、俺は今にも眠りに落ちそうなターニャをおんぶして兵士のいる宿の入り口まで戻った。
――キィ……。
宿のドアを開けると正面に受付カウンターが見えた。……!?
そしてそこにいたのは――俺も久しぶり目を奪われるほどの美少女だった!!
整った顔、なめらかな肌、そして豊満な胸!
歳はかなり若く、イングリッドより下……現代では高校生ぐらいだろうか?いやー、正直ビックリだ……。
「こんにちは……」
と、女は静かに声を発する。
何だろう?俺はその女の表情に何か違和感を覚えた。
確かに美しい娘ではあるものの、何か虚ろな哀しげな表情にも見える。
「この子はここの看板娘ですよ。なあイヴ?」
その兵士にそのように紹介されても、イヴという娘は、表情も変えずに「ありがとうございます……」と静かに答えるだけだった。
「ちょっと大人しすぎる所はあるけど、この子を見たいがためにここに泊まる客もいるぐらいです」
と兵士は補足で説明する。でもそれも納得いくぐらいイヴという娘は美しかった。
するとイヴはカウンターから出てきて、
「こちらです……」
と俺達を案内してくれた。
この宿は2階建てになっているのか……!へぇーヤマッハじゃ2階建ての建物はなかなか見かけない。
そう言う意味じゃある種こちらの方が文明は進んでいるのかもな。とか思った。
部屋に案内された俺とターニャだったが、ターニャは俺の背中で完全に寝てしまっていた。
ちなみに今はもう夜で、時間にしたら7時ぐらい。外はすでに暗い。
俺はターニャを2つあるベッドのうちの1つに寝かせ、布団をかけてやった。
スー、スー……。ふっ、よく寝てやがる。
ふと気づくとイヴが部屋で俺をマジマジと見ている。ん?何だ?
イヴは表情を変えずにハンガーらしきものを手に持っていた。あ、上着か……!気が利くなー。
「サンキュー。イヴ」
イヴはハンガーを壁に掛けながら俺の礼を聞いて、再び俺を見つめだした。
相変わらずその表情からはこの娘の感情を読み取ることが出来ない。
「ん?……イヴ、どうした?まだ何かあるのか?」
「……いえ、失礼します。後ほど夕食をお待ちいたしますので、ごゆっくり……」
それだけ言ってイヴは部屋から出ていった。
何というか……独特な雰囲気の奴だなー。
彼女は、今までこちらの世界で出会った女性達と比べても特に異質な印象を抱かせる。
「まあでも良い目の保養になったぜ。俺も明日早いし、夕飯まで軽く横になっとくかー」
チラッと隣のベッドを見るとターニャが完全な睡眠に入っていた。
「こりゃ朝まで起きねえな……」
……と、いつもは夕飯を楽しみにしているターニャが、それをも忘れるかのように熟睡している姿に、軽い笑いが出てしまうのだった。
あ、ちなみに護衛の兵士は隣の部屋だ。頼もしいぜ。
――コンコン。それから2時間程経って、部屋のドアを叩く音がした。
あ、夕飯か!
「おう!今開けるぞ」
――ガチャッ。それは紛れもなくイヴだった……。が、そ、その服は何だ!?え?てゆーか夕食は!?
するとイヴはハッキリとした口調でこう言うのだった。
「今夜、私と一夜を共にして頂きたいのです……」
抱けっ!抱けーっ!