82 要塞で危機一髪!
「ね、燃費がリッター46キロしかねえ!!さすがにこれだけの荷物を引っ張ってるだけあってえらく悪いなー……」
「え!?46ですか!?ひゃー、僕は普段はリッター60後半は出せるのに……、流石に二人乗り+100キロ超えの荷車牽引だとそうなるんですねー」
カブも驚いている。
「あと、お前のガソリンの予備タンク20リットルも積んでるぞ」
「あ、そういえばそうですね!」
「普通、今のスーパーカブならガソリン満タンならギリギリ300キロぐらいは走るんだ、だが今の状態ならせいぜい200キロだ」
「カイトさん、ガソリン20リットル持ってきて正解でしたね」
「ああ、それは本当にそう思うわ。下手にケチって10リットルしか入れて来なかったら帰り道で詰んでたな」
などと話しながらカブを降り、ガソリンタンクに給油する。
「……よし。これで次の給油まで200キロは走るな」
ここで誤解のないように言っておきたいのだが、一般的な250cc以上の中型以上のバイクで燃費46はかなり良い部類に入る。
しかし原付二種、しかもカブ系のエンジンを積んだバイクでこの燃費は悪いと言わざるを得ない。
「んじゃ、ニンジャーまであと100キロ!頑張って行くかー」
「ういーー!!」
「はい!」
――そこからニンジャーまでの100キロはかなり順調だった。
坂道のアップダウンはあるものの、どちらかと言うと山から下る向きだったのでスピードもそれなりに出せて気分は良かった。
「ひょーっ!いい道だぁー。やっぱ緩やかな下り坂が一番気が楽だぜ」
「同感です。急な下り坂だと車体の制御が大変過ぎますからね」
と、ここでターニャが叫んだ。
「あー!お城があるー!!おじ、お城!お城!!」
ん?どこだ!?……あ、ホントだ!
それは遠目からでも目につく高さのある洋風の建物だった。
……てか、距離的にアレがニンジャーへの関所か!?
俺はちょっと興奮すると同時に意外と体が疲れていない事に驚いた。
やはりさっき走りながら寝たからだろうか?
「うん!多分あれだ。もうちょっとだ!」
「行きましょうー!」
――ガラガラッ。ドゥルルン!!
城まで50メートルぐらいの距離まで近づいてみると、そのお城は要塞のように頑丈に造られていた。
「うわー……。デッカイ城ですねー!」
カブが遠目から見た感想を漏らす。
「ああ、城の一面だけで100メートルぐらいあるんじゃねーか?……一体どこから入ればいいんだ!?」
俺達が戸惑っていると、城の前に立っている兵士らしき人物が近づいて来た!
俺はちょっと緊張して来た。
「へ、変な事されねーだろうな?」
「だ、だ、大丈夫ですよ……。あ、あくまで貿易目的ですから。むしろ歓迎されるハズ、じゃ、な、な、ないですか……!?」
カブが明らかに動揺している。お前も大概ビビってるじゃねえか!
ターニャだけ好奇心に満ちた表情をして兵士の方を眺めている。
警戒というものを知らん。子供って気楽でいいよな。と思った。
「スズッキーニからの使者か?」
その兵士が聞いてきた。全身に鎧をまとっている。
……と言うことはやはり、この世界でも血生臭い争いはあるんだな。
そう感じて俺はますます警戒を強めた。
「ああ、スズッキーニから貿易品を運んできた。初めて来てどうすりゃ良いか分かんねーわ」
俺はちょっと虚勢を張りつつ堂々と答えた。
その兵士は俺の乗っているカブを不思議そうに眺めて、さらにターニャを見て、
「こ、子供!?……」
と驚きを含んだ声でささやいた。
そして兵士は剣を抜いた!!
え!?……。
「心配するな。中身を確認したいだけだ。以前荷物の中から盗賊が出てきて奇襲を受けたことがあってな」
ああ、なんだ……ビックリしたじゃねーか!!
「とうぞくー?なにー?」
ターニャがいつもの調子で聞いてきて俺は冷や汗をかいた。
おい!そいつは今まであったミルコやバダガリみたいな奴らとは訳が違うぞ!!
下手すると切られる!!
俺の心配をよそに、兵士はターニャを不思議そうに一瞥した後ビニールシートをほどき始めた。
「おじ!ターニャ降りるー!手伝うー!!」
などと呑気なことを言ってベトナムキャリアから降りようとする!おいおい待て待てストーーップ!!
「タ、ターニャ!今はダメだ。あの兄ちゃんが中身を確認するまで大人しくしとけ!」
はやるターニャを俺は両手で必死に抑えた!
「むがっ、むがーっ!」
ターニャは何かモゴモゴ言ってるがちょっと辛抱しろ!
「おっと、動かないでくれよ。子供は切りたくないんだ」
怖えええ。やっぱ切るつもり満々じゃねーか!!
バッ……。
その兵士はやや警戒しながらビニールシートをめくりあげ中身を確認すると、感心したように言った。
「おっ……!中々状態が良いな。初めての民間業者の仕事にしては完璧だ……」
兵士はよほど感心したのかしばらくそのロール紙やらを眺めていた。
「あ、あのよ。もういいか?」
兵士は我に返ったように俺に答えた。
「ん!あ、ああ。大丈夫だ。付いてきてくれ」
兵士は剣を鞘に収めると要塞の中へ俺達を案内した。
そこでも俺達を待っていたのは2〜30人の兵士達で、やはり緊張感は無くならない。
すると3人ほどの兵士がやってきて、荷車の中身を別の荷車に移し替えた。
それを別の学者っぽい中年のおっさんが調べ始めた。
「うーむ。中々の品質じゃ!さすがはスズッキーニの紙、そしてペン!」
などと、今届いたばかりのロール紙にペンで何やら書いたりして貿易品を評価している。
俺はさっさと帰りたかった。こんな緊張感のある場所だなんて聞いてねーぞセシルー!
すると周りの兵士達がざわつき始めた。
「確かにロール紙とペンは凄いが、それよりあれを運んできたあの車は何という車だ?あんなの見たことないぞ」
「あれだけの重量をここまで運べる車なんてスズッキーニにあったのか?しかもあんなに小さい車体で?よく見るとタイヤが2つしかない。……あれで安定するのか!?」
「というか燃料だけでとんでもない量になるだろうに、……一体どうやってここまで来たんだ!?」
などとヒソヒソ話でカブが注目され始めた。や、ヤバいぞ……!
「な、なあ。そっちの歯車やらはすぐ積み込んでくれるのか?」
恐る恐る俺は兵士に尋ねると、さっきの学者っぽいおっさんがしゃしゃり出てきた!
「アンタら、なんという業者だったかな??そしてその車は誰がどうやって作ったんだね??スズッキーニの技術者は進んどるなあ!」
ああー、やべえ……。めっちゃ答えずれーわ!