81 脱出!!
まだだ!!まだまだこの辺は坂道が続いてて地面も泥だらけだ。
「カブ。スピードを緩めるな!ここの泥地帯は一気に抜けるぞー!」
「はいカイトさん!」
ドゥルルルルー……。
俺は全力でカブと荷車を後ろから押していく。
カブはバランスを取りつつ緩やかなアクセルワークで徐行しながら少しづつ速度を上げていく。
そしてターニャは応援だけだが、リアボックスに乗ってくれた事で後タイヤに直に荷重をかけ、摩擦力を増やすのに一役かっている。
いいぞー!
俺はカブを押しながらそのスピードが徐々に加速しているのを感じていた。
実は、俺の視界はほぼ荷車で占められていて、今カブがどんな道を走っているのか認知出来ない状態だ。
「おじ!がんばれー!」
「カイトさん。あと50メートル程で坂道が緩やかになりそうです!押し続けられそうですかー??」
「おおう。まかせろー!日本で毎日ウォーキングとランニングで鍛えた体力を見せてやるぜー!!」
「うおおおおお!!」
俺は同じぐらいの力で押し続けるがその速度は確実に上がっている。時速10キロぐらいは出ている。
もうちょっと、もうちょっとだ……。ハァッ、ハァッ……!
しばらくその状態でカブを動かしていった時、カブが大きな声を発した。
「カイトさん。最後の泥地帯に入ります!ここを抜ければあとは下り坂です!!」
「よっしゃ。気合いじゃあーーーー!!」
俺はより一層の力を込めてカブを押した――そしてその瞬間は訪れた!
荷車を押すその腕に感じていた重量感がフワッと消えた――。
俺は息を切らせてその場に立ちすくんだ。
カブと荷車は一人でゆっくりと前進している。
そこで初めて周りを見渡すと、そこは小高い丘のような場所で青々とした山並みが見渡せた。
「ハァッ、ハァッ……。や、やった……」
靴は泥まみれで息は荒い。あー疲れた……でも良かった……!
カブはしばらく進んだ所で止まり、大喜びで叫んだ。
「やりましたねカイトさん!!お疲れ様でーす!この先は緩い下り坂ですよ!」
ターニャもリアボックスを降りて駆け寄ってきた。
「おじー!!頑張ったねー!!」
俺は疲れながらも安堵の笑顔を見せた。
「ははっ。カブとターニャも良くやってくれたぜ。サンキュー」
さて、しばらく息を整えた俺は再びカブに乗り込み、カブに座って移動ができる喜びを噛み締めた。
「いやー、それにしても冷や汗かいたぜ……。二人共ホントにありがとうな」
カブとターニャには感謝の気持ちを伝える。
「やっぱり僕らってチームワークいいですよね!」
「ういーー!みんななかよしー!」
「おう。間違いねえ。じゃあ旅の続きを始めるかー」
――ドゥルルルルーー!
それからの旅はまたしばらく順調だった。そんなにキツイ坂道も無かったしな。
空を見上げると日は高く、ちょうどお昼時といった所だろう。
「よし、飯にしよう。弁当食うぞ!」
「べんとー!?たべよーたべよー!!めしーっ」
よっぽど腹が減っていたのか狂喜乱舞するターニャ。
俺もなんか色々あったおかげで腹が鳴っている。
俺達は今、山中の峠の様な小高い場所にいて、紅葉もまだしていない山の緑を見下ろす事ができた。
「ひゅーぅ。景色がいいな」
とりあえずセシルに貰った弁当を開けると弁当の定番のサンドイッチが入っていた!
一目みて、何肉か分からない肉とレタス、胡瓜とニシンのような魚、ゆで卵の輪切り、そして見たこともない芋……など、バリエーション豊かに揃っていてセシルの料理慣れした様子が想像できた。
「うわー!おじ!?」
ターニャは「食べていい?」と聞きたい顔を俺に向ける。
「おう、好きなもんから食って良いぞ。あ、コレ芋じゃね?」
「い、芋ー!?もらうね!!」
そう断って一気にターニャはかぶりついた。
「……!」
無言で口を動かすターニャ。そして一瞬で食い終わると一言。
「コレもっとないー!?」
「芋サンドはそれしかねえ」
ターニャは悔しそうに口を歪める。しかし相当美味かったらしいな。
さて、俺も食おう。
それから俺とターニャは無言でサンドイッチを全て平らげた。
あー美味いー……。セシルの飯、毎日でも食いてえなー。
「おじー、もうない!?」
「ね、ねえよ。……てかお前、その体格で俺と同じぐらい食ってねーか!?まあ俺は結構少食だけどよ。もう腹いっぱいになったろ?」
「もっと食べるー!」
俺はターニャの食欲に驚くと同時に、子供がしっかり飯を食うのは健康的でいいような気もした。
「しょうがねえなー。コレは夜に取っとこうと思ったけどちょっとだけ食っていいぞ」
それは俺達が家から持ってきた弁当だった。
「ありがと。おじ!」
ターニャが飯を食う様子を微笑ましく眺めた後、俺は岩の上で寝転がった。
さっき走行距離を確かめたら300キロぐらいだった。あと200キロか……。
俺はこの先、いつ頃ニンジャーに着くのか予想したところ、おそらく夕方から夜に変わる頃だ。
「出来るなら日が落ちる前に着きてえなー」
なんて考えていると、弁当を食い終わったらしいターニャがやってきた。
「おじー。食べたよー」
「おう、じゃあ行くか!カブ、出発だ」
「はい!カイトさん」
――ドゥルルルルン!
そこから先はしばらくヤツとの戦いになった。そう、「睡魔」である。
「いやー、しっかし一時はどうなるかと思いましたよー、はっはっは!」
「……」
「……あれー?おじ?」
「あ、あれ?カイトさん!?……」
カブは一人(一人ってのもおかしいが)でいつものテンションで話してくるが俺は飯食った後で非常に眠い。
「……いや、ちょっと眠くなってきた。人間は飯食った後は眠くなるんだよ……」
「あーなるほど!じゃあ寝てていいですよ!僕が運転しときますから」
カブは「まかせろ!」とでも言いたげな表情で張り切っている。
「お、……そういやそれ出来るんだな……しかし、帰りもこの道を通るし……できるだけ地形とか、確認しとき……たい……」
などと話していた俺はすでに眠りに落ちる寸前だったようで、そこから2時間程度の記憶が消えてしまっていた――。
――そして再び俺が意識を取り戻すと、日が傾いて山際がややオレンジ色を帯びていた。
「……ぅあ!?……やっべ!俺今まで寝てたか!?」
「カイトさん!?起きたんですか。おはようございます!」
「おはよーおじ」
カブはともかくターニャは起き続けていたようだ……え、偉いな。
俺はふとカブのメーターを覗いてみた。すると燃料メーターの針はほとんどEの状態だった。
違和感を感じた俺はオドメーターと南京錠を確認してみた。すると――。
あ、あれ?この走行距離で2回目だと??
俺は燃費が気になって計算してみると驚きの結果が出てしまうのだった……。