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⑧ ヤマッハに帰るぞ


「えっ……、カ、カイトさん!?」


 カブはタブレットの中で驚きの表情を浮かべながらそう言った。


「ここでいくら待っててもコイツは飢えて死ぬだけだ。村人を責めるわけじゃねえけど、余裕がないってのは本当だろうしどうにもならん、……そうだろ?」


「ま、まあ、……」


「だったらヤマッハまでコイツを運んで金持ってそうである程度ちゃんとしたやつを探してそこに預けたほうが良いと思ったんだよ!」


 それを聞いてカブはニヤリとした。

「ヤマッハまで!?ってことは――」

「おうカブ。ボックス開けろ!」

「はいっ!!」


 ――パカッ。


 そのデカいリアボックスの蓋が開き、俺は少女を抱え上げボックスに乗せた。


「お前30キロもないだろ?最初に積んだ荷物より軽いぜ。ああ、でも動き回らず俺の服掴んでな!」


 少女はそれまで見せたこともない驚きと好奇心とちょっとの恐怖心がブレンドされたような不思議な顔をしていた。走り出したらもっと驚くだろうな。


「リアボックスに人積んで走るなんて初めてだからなー、ちょっと怖えなぁカブ!?」


「お任せ下さいカイトさん!超安全運転かつ最速で行きます!!」


 カブは画面の中で眉を吊り上げてやる気満々といった感じでいる。

 ……と、ここで一つ思い出した。


「一応このリアボックスには底に厚めのジョイントマットを敷いてるが、更に衝撃を吸収できるようリアサスペンションを一番柔らかくしとこう」


 俺はリアサスの可変部分を掴みソフトの方向に回していく。


 ビンビンビンッ――とバネが振動する音と共に可変部分を最も柔軟になるように調節する。反対側のサスも同様に調節して……と。よし、コレでオッケー!!


 ここでカブが、自分が憑依しているこの俺のカブ(ja44)について言及してきた。


「自分の体だからよく分かるんですが、そういえばこのカブってかなりカスタムされてますよね?」


「おう、特に純正サスは柔らかすぎて即替えた。今の可変式リアサスの一番柔らかい設定でも純正よりは硬い。だからビョンビョン跳ねるような事はねえだろう。多分」



 俺は女の子を見ると、カブのリアボックスの中に入るという俺ですら未経験の出来事にワクワクしているような少し怖がっている様な……、そんな表情で白いボックスの内側を撫でたり擦ったりしていた。

「子供らしくていいなー」……そんな風に思い、自分の娘の子供時代を思い出しそうになった。そしてすぐに忘れようと首をフルフルと振る。



 俺はカブに跨り自分の背中に手を回し、ポンポンと叩き女の子に掴まるよう促す。

 小さい手が背中の服を掴む感触を確認すると、俺は少しづつアクセルを捻りカブを発進させた。



 ――「よっしゃ、行くぞ!」



 トゥルルルルルルーッ。


 顔は見えないがおそらくこのガキは目を見開いて驚いてるハズだ。

 怖くなって泣き出したりしねーかな?……と不安になったりもしたが杞憂に終わった。


「うぃーーーーっ、あはっあはっ!」


 背後から聞こえた声だ。もちろん女の子の声だが、前を向いているので表情は見えない。しかし、その声色は間違いなく無邪気な笑い声だった。……良かった。

 俺は女の子がこの乗り物を受け入れてくれた事に安堵し、少しスピードを上げた。


「カブよ、この辺はまだいいけどヘドライトからヤマッハへの道がヤベェなぁ?」

 タブレットに映るカブの顔は悩ましげだった。

「あー、確かにあそこは単独でもコケそうになりましたからねー。でも大丈夫です。僕に任せて下さい!」

「頼もしいな。頼んだぜーカブ」


 俺は笑顔でそう返し運転を続ける。


「あはっ、あははっ。ういーーーっ!」


 後ろの小さな子も俺達の会話に続くように笑い叫んでいるようだ。フッ、ちょっと安心したぜ。




 ――俺達は今まで通ってきたロービム村、ヘドライト村を経由してヤマッハへ向かう荒道へと差し掛かった。


 ガタガタ、ジャリジャリッ、パキパキッ。


 やはりこの道は危ないぜ。しかも登りより下りの方がスピードが乗りやすく、より運転に神経を使う。


「カイトさん。ここはずっと1速でエンブレで良いです」

「オウ!」


 俺はその時、大阪と奈良をつなぐ超急坂の「暗峠」の事を思い出していた。

 さすがにあそこ程のキツイ坂じゃねーと思うが未舗装の獣道だけあって走行難易度は余裕でこちらに軍配が上がるな。



 ブゥウウウウンン……。


 辺りの山には高回転するカブのエンジンブレーキ音が響き渡る。


 リアボックスの女の子は腕を俺の首に巻き付けるようにしがみついている。ちょっと苦しいがそれぐらいでいい。


 ジャリジャリザザッ――。

 ブゥウウウウンン――。


 どれぐらいその音を聞き続けたか分からないがようやく斜面が緩くなり、ついに大通りに出た!


「ひょーーーーう!!大通りだーー!!」

「やった!!これでブレーキ地獄とオサラバですねっ!!」


「うぇいーーーー!!」


 俺とカブにつられて意味は分かってないだろうけどとりあえず叫び声を上げる後ろのガキんちょ。ははっ、お前も落ちずに良く頑張ったな!


 そこからは先程までと違い運転に余裕が出来たので、今後どうするかについて考えを巡らせた。


「とりあえずヤマッハ着いたらギルド行って報酬貰うだろ?」

「はい。でもすぐに貰えますかね?あまりに速く配達できて怪しまれそうですがー……」

「うっ、そりゃ困るぜ。だがちゃんと配達してサインも貰ってきてんだから文句は言わせねーよ!」

「そうですね、カイトさん強気な性格なんですからなんとか押し切って下さいよ!」

「へっ、まあ任しとけ」


 ぐうううう……。


 ここで運転中だった俺の腹が鳴った。


「あーさすがに俺もパンしか食ってねえから腹減ってきた……」

「オッケーです!急いでギルドに帰りましょう!」

「おう!!」


 俺はアクセルを全開にしカブを加速させる。

 燃料メーターを見るとE(空)のちょっと上まで針が落ちてきている。

 やばっ、この世界でガス欠はシャレにならんぞ……!!

 と思っているとカブが大きな声を上げた。


「あっ、ヤマッハが見えてきましたよカイトさん!」


「うおおお!助かったぜ」



 ……というわけで早速商工ギルド到着するとカブを停め、サイドスタンドをかける。

 一時は俺達と一緒に叫んでいた後ろの少女に目をやると、ボックス内で目を閉じてウトウトしていた。


「よし、ついでにこのガキの事もギルドの姉ちゃんに聞いてみっか。何かいいアドバイス貰えるかも知れんしな」


 俺は受領書を上着のポケットに突っ込み、少女をカブから下ろし手を引いてそのままギルド内に入って行った。


 ――異世界初の給料だ!


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