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78 初めての雨


「報酬については仕事が終了し次第、王都からギルド側に一旦回されてそれからカイトに支払い――という順番だね。金額については前もいった通り詳細は不明」


「分かった。帰ってからの楽しみにしとくぜ!」


 俺はやはり高額とされる報酬について考えると自然と顔がニヤつく。ふっ、俺はお金が大好きだ……いや、まあ普通か。


 おっと、これも聞いておかねば!


「あ、あとよ、ニンジャーまでの距離ってどれぐらいか分かるか?」


「ここからニンジャーまでは500カライぐらいだから往復約1000カライ……って所かな」


 セシルはサラッと言ってのけたが俺は内心ちょっと面食らっていた。

 1000カライって要するに1000キロメートルだろ!?今までで一番遠かったハイビム村まで100キロだから単純に5倍は遠い……!

 てか、冷静に考えたら日本の東京から大阪ぐらいの距離があるぞ、これはきっついぜ……。


「セ、セシルよ。お前、この前俺達なら1日で行けるとか言ってたが、1日でここに戻って来るのはまず無理だぞ!」


「あ、……ああ、すまない。あれはニンジャーまで1日で行ける、という意味だった。カイト、貴方とカブなら大丈夫だと思ったんだが……」


 ま、まあ500キロなら信号も無い一本道をぶっ通しで走れば明日までには着くと思うけどよ……。

 と、俺が少し悩ましげな表情をしていると、カブが大きい元気な声で答えた。


「任せて下さいセシルさん!ターニャさんも含めて僕ら『スーパーカブ』はチームワーク抜群ですから!必ず輸送を成功させます!!」


 俺もそんなカブにつられて強気で応えた。


「そうそう。任しとけセシル!明日にはニンジャー、そんで明後日までには必ずギルドに帰って来るからな!!」


 セシルは安心したように笑って付け加えた。


「帰ってくるのはニンジャーに着いてから3日後までならいつでもいいよ。……あ、そうそう」


 ん?


「二人ともご飯は大丈夫?」


 それにターニャが笑顔で答える。


「べんとー持ってきた!」


「そっか、じゃあこれは要らないかな……」


 セシルは少し残念そうに、自分の皮袋から何かを取り出した。あ、あれは弁当箱か!?うおおーありがてえ!!


 俺はセシルが俺達に弁当を作ってくれていた事に感激し、思わずお礼を言った。


「セシル、弁当作って来てくれたのか!?ありがてえ、貰っていいか?」


「ええ、そのために作ったんだし」


 ……といった感じで俺達はセシルから弁当を受け取り、いよいよヤマッハのギルドを出発する時が来た。




 俺はギアを1速に入れ、ゆっくりアクセルを回していく。

 しかし、普段なら少しだけアクセルを捻るとすぐ前に進むのだが、今回は違った。


 ――ドゥルゥルルゥルルー……。ルルルゥー……。


「こ、これは……やはり軽油満載の時より重いぞ。カブ!?」


「た、確かに、コレは過去最大重量ですね!ってゆーかさすがに平面で発進出来なきゃヤバいですよ……!?」


 カブは焦った表情でそう話す。


「大丈夫カイト!?」


 セシルもやや心配そうに声を掛けてくる。


「大丈夫だ。まだまだアクセルの捻りしろはある」



 グググッ……。

 ドゥルルルルルル……。ジャリッ……。


 荷車の車輪が地面の砂を踏みしめる音が聞こえた。

 ――よし、取り敢えず進んだぜ!



 俺は軽くセシルに手を振った。


「いってくるー!」


 ターニャもそう言いながらセシルに別れの挨拶をしている。

 よく見たらタブレットの中のカブもそれっぽいイラストを映していた。(^^)/~~~こんなん。



 ――ドゥルルルルーー。ガチャガチャッ。


 暗闇の中を走り出すと、早くもセシルが見えなくなった。


 俺はセシルが言ってた事を思い出す。


『今回の貿易品輸送において、何かしらのトラブルが発生した場合、恐らく私はクビになりギルドの存続も危うくなる』


 ……全く責任重大だぜ……だが、必ずやってみせる!ギルドのセシルやイングリッドのため、そして俺やターニャ、そしてカブのために!!



 ――ドゥルルルルー。ガタンガタン。


 今、俺はカブを走らせつつタブレットに表示された地図を見ながら進んでいる。


「うーん。なんかこの地図によるとしばらくずーっと広い一本道ですね、カイトさん」


「ああ、でも助かるな。こんな暗い中、細っそい山道なんて走りたくもねえからな」

「同感です!」


「おじ、くらいのこわいー?ターニャくらいのすき!」


 なんだと!?


「ターニャお前、暗いこと平気なんか?」


「うん!へいきー」


 ベトナムキャリアに座って可愛い笑顔でこちらを振り向くターニャ。

 俺がこんぐらいのガキの頃は幽霊やらお化けやら出てこないかハラハラしたってのに……たくましい奴よな。



 ――俺はカブのギアを3速に入れたまま、時速3~40キロのスピードを維持して真っすぐな道を1時間ほどひた走った。


 すると薄っすらと山際が明るくなってきた。

 俺はちょっと安心して明るくなった山を眺めていた。



 ガラガラガラガラッ……。


 カブのエンジン音を打ち消すかのように、荷車の車輪の音が一定の間隔で鳴り響いている。


 今走っている道は意外なほど坂が少なく、どこまでも平面だった。そして道幅もそこそこ広い。正直言って何も考えずボケーっとしながらでも走れる道だった。


「ヒューッ。しっかし走りやすい道だな」

「まあ国の輸送部隊が今まで何度も往復してたって話ですから、道もそれなりに整ってるんじゃないですか?」

「んー、確かにそうだな。まあ何にせよ俺達にとっちゃやりやすいぜ!はははっ。快適快適~!」

「かいてきー!」



 ……などと楽観的に構えていた俺達だったが、さらに小一時間ほど走ると雲行きが怪しくなってきた。

 これは比喩的なものではなく、文字通り進行方向の上空に大きな雨雲が広がってきたのだ。


「え!?もしかしてここへ来て初めて雨に降られるのか!?」

「雨ですかー。なんか僕雨の時のほうがエンジン好調だったりするんですけど……」


 カブは申し訳無さそうな顔で呑気に「いやー」とか言ってやがる。


「いやお前、雨は全てのライダーにとって天敵だぞ!?少なくとも俺はテンション5割ダウン確定!」


「雨ー!ジャバジャバで楽しいー!!」


 ターニャまでそんな楽しそうにしてまあ……。気楽でいいぜ全く……。

 ちなみにしっかり雨具は持ってきている。ワー◯マン最高!



 ――キッ……ッキッ……キーッ……。

 俺はいつも使うブリッピングのエンブレではなく、前後のブレーキで慎重にカブを止めた。


「よし、カブ。一旦レインコート着るぞ!あ、しまったターニャの分がねえ!どうしよ……」


 俺がそう言うとターニャは俺にとって理解し難いことに、


「ターニャ雨降られるー!水あびるー!!」


 などととんでもない事を言いだした!?ダメに決まってんだろ!


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