表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/515

77 出発


 ――翌日、俺は目を覚ました。まだ日も昇っていないので外は真っ暗だ。


 トイレへ行ってから顔を洗う。


「久々にヒゲ剃っとくか。こっちに来てから伸ばしっぱなしだったし」


 ゾゾッ……ゾリ、ゾリ……。


 俺は今日の納品先が他国なので、ちょっとは服装とか身だしなみを整えた方が良いんじゃねえか?とも思ったが、外交目的で行くわけでもないしセシルにも何も言われてないしヒゲを剃るだけで十分だろうと考えた。



 玄関のカブの様子を見に行くと、やはり元気に挨拶してきた。


「おはよーございます!カイトさん。今日も張り切って行きましょう!」


 タブレットには寝起きで眠そうな表情が映し出されている。


「おう、おはようカブ。その眠そうな顔はまた演出か?」


「は、はい。その通りです!そもそも僕には眠いというのがよく分かりません。はは」


 そんなカブに頼もしさを感じながら俺はこれからの予定について話した。


「今は現代で言うところの午前4時ぐらいだ。あと2時間程で日が昇る。それまでにヤマッハを出たいから……俺とターニャの準備が出来次第すぐに出発するぜ」


「分っかりました!じゃあ後は僕に関しては荷車を結ぶぐらいですね!」


「おう、ちょっと先にターニャを起こしてくる」


 アイツ早起きはそんなに得意じゃなさそうだからな。



 俺はいつも寝ている和室に向かい、グーグーと寝息を立てているターニャをゆすった。


「おーい、ターニャ。……おーい」


 ターニャの枕元でそう囁くが起きる気配がない。ちょっと可哀想だが大きめの声を出して体をゆする事にした。


「ターニャ!起きろー!!」


 ――ゴッ!!


 その瞬間、ターニャはガバッと起き上がり俺にヘッドバットをかました!


「ぐああああ!」


 この状況、昨日と同じじゃねーか……!いてて。


「んー……おじ?……」


 ターニャが目をこすりながら「何してんの?」とでも言うように俺を見ている。うん、お前のせいだぞ。


「……タ、ターニャ。昨日も言ったけど今日は早く出発するからな!もう起きとけよー」


 そう言ってターニャの布団を軽くめくってやると、ターニャは渋い顔をした。


「うにゅうー……うう」


 などとよく分からない返事をして「まだ寝たいんや」というアピールをしてくる。……やれやれ。


「今日は長旅で外国に行くんだろ?弁当も作ったしカブも待ってるぞ!」


 俺がそう言うとターニャは、


「な、ながたび……!!いく、……行く!!」


 と言って、バッ!と飛び跳ねるように起き、トイレへとダッシュしていった。

 おお、さすが子供。フットワークが軽いぜ!



 ――それから30分ぐらい経っただろうか?


 俺とターニャは早い朝飯を済ませて、弁当やら必要な物をカブに積み込み準備万端の状態になった。さあ出発だ!



 エンジンを掛けて軽くアクセルを捻ると、いつもと同じ音が聞こえてきて俺は安心した。


 ――ドゥルルルン!


「よっしゃー。行くぜーカブ!!」


「はい!」


「ういーー!!」



 ――ガラガラガラ……。ドゥルルルン!


 山の中にカブのエンジン音と荷車の車輪の音が響き渡る。


 俺達はいつもの山道を下っているのだが、普段と違うのは辺りが真っ暗だという事だ。


「そ、それにしても暗いですねカイトさん……」


 カブはちょっと弱気な声を上げた。


「くらーい!」


 俺の前のベトナムキャリアに座っているターニャもカブと同様の感想を漏らす。


 確かにこりゃあ暗くて運転しづらい、だが俺は全く心配していない。

 現代では滅多に使わなかった()()を今こそ役立たせる時だぜ!!


 俺は普段ほとんど触れる事のないカブのハンドルカバーの下部にある補助灯のスイッチを手探りでONにした。


 ……パチッ。すると――!!


 一気に前方に広範囲に明かりが照らされ、俺もちょっと感動するレベルで視界が開けた!!


「うはっ、こりゃ凄えわ!!」


「おおーー。明るいー!カブすごーい!!」


 ターニャが感激している。

 カブは鼻高々といった表情で、


「ふふ、どうですか?明るいでしょ、二人とも?ハイビームにすればさらに明るいですよー」


 カチッ!

 これまた滅多に使わないハイビームを、カブはONにした。しかし――。


「ほ、補助灯が明るすぎてハイビームが目立たねーな」


「ホ、ホントですね。もっとLEDヘッドライト明るくするようにHONDAに言っときます」


「ぎゃはははは!お前が言うんかい!?」


 なんか笑ってしまった。



 ――ガラガラ、ドゥルルルン!


 俺達は補助灯のおかげで難なく山道を下る事ができた。

 後はヤマッハのギルドを目指して走ればいいのだ。


 平坦な道は正直夜間でも余裕だ。何なら車が飛び出して来ない分こっちの方が安全とすら思える。



 そして俺達はヤマッハのギルドに到着した。


 いつもは業者やらで人が多い所だが、今ここには俺達以外一人しかいない。

 そう、セシルだ。


「カイト、おはよう」


「おっすセシル。おはよう」

「セシルおはよー!」

「おはようございます!」


 皆それぞれセシルに挨拶する。それを聞いて安心したようにセシルは微笑んだ。


「皆、準備は万全のようだね。早速積み込もう」


「おう」


 それから俺とセシルはロール紙を荷車に積み込んでいった。


「カイト。紙とはいえこれはかなり重い、しっかり車体と固定した方がいいな」

「おうもちろんだ、一芯3〜40キロぐらいあるんじゃねーか?ま、俺はそういう仕事してたからこれぐらいはまだ全然大丈夫だが……よっと!」


 ゴトン……。ロール紙を荷車に乗せると重量感のある音がした。それと共に特殊なサスペンションにより荷車はしばらく上下に揺れ動いた。

 こりゃあターニャより確実に重いな。


 次に俺は用意した丈夫なナイロン製のロープでロール紙を荷車にしっかり括り付けた。

そしてロール紙の隙間に大量のペンの入った金属製のケースを挟むようにセットして積み込みは終わりだ。


 最後にビニールシートを荷車全体を覆うように被せて荷車に括り付ける。これで準備完了!!


 おっと、一つ聞いとこう。


「なあセシル。この辺って雨とか降るのか?それと冬は雪が積もったりする?」


「雨か……あんまり多いほうじゃないかな、平均だと10日に1度ぐらいだ。雪も年に1~2回積もるかどうかだな」


「なるほど、じゃあ俺がいた所とあんまり変わんねーな」


 このスズッキーニも東京と似たような気候らしく、俺はちょっと安心した。


「この荷物をニンジャーの関所の人間に渡すと同時にあちらからも荷物を渡されるだろう。カイト、その荷物をまたギルドへ運んでくれたらあなたの仕事は終了だ」



「了解だ……ところで報酬っていつ貰えんだ?」


 ここはしっかり聞いておくぞ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ