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74 ベトナムキャリアの使い方


「ターニャ、お前――」


「いく!!」


 俺が質問する前に同行の意を宣言するターニャ。……こりゃあやっぱり連れてくことになりそうだな。


 よし、だったらアレを取り付けてみるか!


「おうカブ。帰ってちょいとお前をカスタムするぞ」

「え?今度は何を取り付けるんですか?」


 俺はちょっと含み笑いをして答えた。


「ベトナムキャリアだ!」


 するとカブが「おおっ!」と感動するような顔をした。

「あのレッグシールド上の真ん中に取り付ける小さめの荷台!定番のカスタムですね!……ですけど荷車まで付ちゃった今、あえて積載量を増やすカスタムをするのは……何か考えがあっての事ですか?」


 俺はチラッとターニャの方を見た。


 ターニャは俺を見て自分を指さしている。

 そして「何をしてくれるんだろう?」といった表情をしている。


「コイツを座らせようと思ってな!」


「え、……あ、あー!」


「今回は流石に距離が長いだろうし、ターニャの脚もまだシートにしっかり腰掛けられる程長くない。ニンジャーから持って帰る貿易品の大きさや重量も分からんしリアボックスも限界まで積み込むかも知れねえしな」


「なるほど!優しいですねカイトさん」


「まあな。都合の良い事に俺の持ってるベトキャリはキャリア部分が地面と平行になってるタイプだ。ターニャぐらいの重さなら座れる気がすんだよなー」


「おじ、ターニャ立つー!」


 俺に気を使っているのかターニャよ?心配無用だ。


「ふっ、まあ任しとけ!ふかふかの椅子を作ってやる」

「ふかふかー?……おー」


 ターニャはなんかいい感じだと思ったのかニヤニヤし始めた。

 ふふ、素直な奴だぜ。



 俺はセシルに微笑みかけた。


「って訳でセシルよ、今日んとこは一旦帰ってカブのカスタム。で明日はキルケーの定期便だけ配達してそれ以降は明後日まで家で大人しくしとくぜ」


 セシルは微笑みながら答える。


「ああ、出来れば明後日は夜明け前までに来て欲しい」

「分かった!……あと、それと……俺の心配はいらんぞ。貿易の件が終わったらまたお前の家に行くわ!」


 セシルは更に嬉しそうなフワッとした表情を浮かべてこちらへ歩み寄る。

 俺も両手を広げて受け止めるように抱擁する。


 ……お互いしばらく抱き合ったあと、俺達はギルドを後にした。



 ――そして家に着いた時のこと。


「カイトおじ……?」


 珍しくターニャが俺の名前を呼んできた。んん?


「ターニャどうした?」


「セシルはカイトおじが好きなのー?」


 お!子供ながら俺とセシルが抱き合ったのを見てそう感じ取ったのか……。


「おう。間違いない!これが演技だったら怖いわな。ははっ」


「カイトおじもセシルが好きー?」


 俺はちょっと照れ臭かったが、ここはしっかり宣言せねばならぬ!と思った。


「おー。もちろん好きだぞ!」


 次のターニャの言葉に俺はハッとした。


「じゃあ、いっしょに住まないのー?」


「ん……、あー……。そ、そう、……だな?い、いやしかし。アイツのウチにはアイツの仕事に欠かせない資料やらもあるし……んー……俺はこの家を離れて生活は難しいし……!!」


 ここでふと、一つ妙案を思いついてしまった……!


『セシルにここで住んで貰えばよくね?』


 もちろんセシルが同意してくれればの話だが……そうすればターニャを家に置いて俺が移動しやすくもなるし……。

 セシルはセシルで俺に会いたがってるワケだし……。

 あれ?これ良いんじゃね?


 俺は顎に手を当ててちょっとよく考えてみた。


 ……セシルのうちの仕事道具を運ぶのはそれこそカブを使えば余裕で出来るはずだ。

 朝はセシルの仕事に合わせて俺がカブで送ってやればアイツも助かるのでは……?

 俺はそのままギルドで仕事を受ける……いや、目立っちまうから受けない方が良いのか?今は……うーん。


 などと勝手に想像してしまったがこんな事はセシルに聞いてから考えた方が良いに決まってる……、と思い直した。


「うん、ターニャ。お前良い事言ってくれたな。ちょっと今度セシルに聞いてみるわ」


「分かったー!うふふ」


 ターニャは少しだけ何処かで見たような笑顔を浮かべていた。

 その顔が妙にませた感じに見えたのは、ターニャの成長と捉えていいのだろうか?

 ……まあいいか。



「うっしゃ、カブよ!ベトナムキャリア取り付けっぞ!」


「はい。どうぞどうぞ!」


 カブは待ってましたとばかりにニヤニヤしていた。

 その表情にセシルの件で嫉妬していた時の面影はない。切り替え早えな……。



 ――クルクルクル……。


「よし、これで取り付けは完成だ!インナーラックは外す事になるが……まあこの世界なら問題ないだろう。ペットボトルの水なんか無いしな」


 カブは気持ち良さそうな顔でまどろみつつ、カスタムが終わったのを悟ってちょっと残念そうにしていた。


「あ、やっぱりさっきと感覚が違いますね……ターニャちゃんを乗せてみますか?」


「おう、その前にこのままだと実際座った時にケツが痛すぎるから、このジョイントクッションを引いて上からタオルを巻き付ける」


 ――これで……完成!


「うん。ターニャ、ちょっと乗ってみ?」


「ういーー!」


 嬉々として駆け寄ってくるターニャ。

 早速キャリアに跨り「おー!」と一言感想を漏らす。


 さて、俺も乗るか!


 二人乗った事を確認するとカブは自らエンジンをかけた。



 ――キュルルン!ドゥルルルル……。


「ちょっと山道走ってみます?」


 カブが尋ねてきたので俺達は同時に答えた。


「おう!」

「うぃー!」


 山道とはもちろん、ヤマッハへ向かういつもの山道の事だ。


「おー!」

「どうだ、ターニャ。座れて楽だろ?」

「らく!でも前が見えなくてつまらんー!!」

「なんだ!?前見たいんかい!」


 そういや俺もガキ頃は電車の窓から景色ずっと見てるガキだったな……。


「じゃあステップに足かけて立ってみろ。俺の両手を両脇に抱え込む感じで……」


「ん……」


 ターニャはモゾモゾと動いてやっとステップに立つ事が出来た。


「うん!前みえるー!」

「だがまだまだ心配だ!動きも遅い。もう一回やれターニャ!」

「う、うん……」

「め、珍しくスパルタですねカイトさん……」


 敢えて厳しくいくぞ。今回の貿易輸送は今までの配送みたいに甘くな――、



 ゴッ!!!!



 ――「ぐああっ……!!」


 何が起きたか?答えは単純だ。


 俺の言った通り素早くステップに立とうとしたターニャの頭が俺の顎を直撃したのだ。


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