73 これ牽引できる?
「……うん!いけるな」
チーズが入ってる割に、ねっとりし過ぎずに意外とあっさりした味わいだ。
見た目ほどクリーミーでない食感は子供にとってどうだろうか?
「ターニャ、どうだ?」
「うま〜い。ちゅるちゅるー!」
ターニャは麺を少し口から出しながら満足そうな表情を浮かべている。
「良かったなターニャ」
そこでカブがまた面白い事をつぶやいた。
「今ちょっと検索してたら女子高生がキャンプするアニメがありますね……スープパスタはそのアニメで出てきてますが……?」
「知らねえよー。し○りんが何作って食ったかなんて知らねえよー」
「……ファンなんですか?」
「ふっ……。にわかファンだ」
俺はちょっと照れたように笑った。……しかしカブの奴、何を検索してんだよ!?
そしてゆっくりと夜は更けてゆく。その日の夜、俺は凄まじくぐっすりと眠れた。熟睡だった。
お陰で朝の目覚めはめちゃくちゃ良い!
――バッ!!
俺は飛び跳ねるように布団から起きて、自分の体に満たされたエネルギーを感じ取り、自然と笑顔になっていった。
「うははっ。いつもと違って体がめっちゃ軽いわ!」
相変わらず今日も自然と早起きだ。
それからとりあえず小便して顔洗って玄関へ向かう。カブに今日の予定を伝えるために。
「おはようございます!」
「おうカブ。今日はギルドで貿易品を見に行くぜ。多分そろそろ届いてるはずだ」
「あ、そうですね。ちゃんと荷車に積み込めるか確かめときましょう!」
あとセシルのことも思い出した。
「アイツにも会いたいしな」
「セシルさんですか?」
「ああ」
そう答えるとカブはニヤッと笑った。
なんだよ、イングリッドみてえな顔しやがって……。
善は急げだ。早速朝食を済ませて俺達はヤマッハのギルドへと向かった。
「おじー、セシルに会うの?」
「ああ、ついでに長旅の準備だ!」
「長旅ー!たのしみー」
「僕も楽しみです」
「ふっ、呑気な奴らめ!ま、『スーパーカブ』はこうでなくちゃな!!ふははは!」
――プルルルルー……シュッ。
ギルドに到着し、ターニャとドアから中に入った。
「いらっしゃ……あ、カイトさん!」
俺を見つけたイングリッドがすぐに声を掛けてきた。
「おっす、イングリッド。セシルにちょっと用があってな。奥か?」
「あ、はい。ちょっと呼んできますねー」
イングリッドは何やら楽しそう微笑みながらカウンターの奥へと消えていった。
そしてしばらくするとセシルが出てきた。ん?
「カ、カイト!?……さん」
カウンターに出てきたセシルは何だかちょっと泣きそうなぐらい狼狽えているようにも、嬉しそうにも見えた。え?大丈夫か!?
「あ、どうぞどうぞ中へ……」
イングリッドが気を利かせて俺達を中へと促した。サンキュー。
カウンター奥へ入って行くと、セシルは意外な事に最初にこう切り出した。
「カイト、良かった……」
少し潤んだ目で真っ直ぐ俺を見つめてそう一言。
……あれ?なんか俺コイツに心配させるような事したっけ?
「昨日姿を見せなかったでしょう?」
「あ、ああ。昨日は仕事休んで丸一日家でくつろいでたんだ。こっちに来てずっと仕事しっぱなしだったからな」
セシルは少し安心したような表情でうつむき、ゆっくり俺に抱きついてきた。
「私が嫌になってどこかへいってしまったのかと思った……」
「あ、え?……いやいや。そんな訳あるか!」
俺も軽く抱き返してセシルを安心させようとした。
「俺はここからどっか行くなんてまずあり得ねえから安心しとけ。仕事だってやっと軌道に乗ってきた所だし。まあ、……お前もいるんだし」
「嬉しい、……ありがとうカイト」
うーん。初対面のセシルからは考えられないくらい繊細な一面を見た。
そして俺は少し動揺すると同時に頼られているのがちょっと嬉しくもあった。
「そうそう、セシルよ。貿易輸送の事だけどよ。モノは届いたかい?」
セシルはそれまでの柔らかい表情を仕事用のちょっと硬めのそれへ変えて、
「あ、そうそう。実はもう届いてる。あちらへ……」
と別の部屋へ俺を案内した。
そこにあったのは引越し用ダンボールぐらいの大きさのデカいロール紙が五つと、木箱に敷き詰められた鉄製のペンだった!
「うおお……これかー。まあまあ大量だがなんとか荷車には載せられるな」
「カイト、一応全て荷車に積んでちゃんと牽引出来るか等、――チェックした方がいいと思う」
「おう、もちろんだ!」
「たた、一つ怖いのは……」
セシルが言い淀んでいる。ん?何だ?
「もし雨に振られると大変じゃないかな?大きめの皮袋があればいいんだが……」
あーそういう事か。
「それは心配いらん。俺の前いた世界じゃビニールシートって便利なもんがあったからよ。多分家にも置いてあったはずだ」
俺がそういうとセシルはふっと笑った。
「カイトは本当に何でも持っているんだな。まるで魔法使いだよ」
「はっはっは、まーな!じゃ、早速牽引、試してみるかー」
――という訳でカブをギルドの裏へ運び、実際に巨大なロール紙とペンの木箱を積み込んでカブで引っ張ってみる事にした。
ドゥルルルルルー……ルルー……。
「重たっ!!こ、これ、軽油缶8缶満載の時より重いかも知れませんよ!?まあ引っ張れない事は無いですけどね!」
やはりあのロール紙が相当な重たさらしい。
「大丈夫かいカブ?」
セシルも心配そうにカブに声をかけている。
カブはタブレットに強気な笑顔を貼り付けて答える。
「ふはははは!このくらい僕にとっては余裕です!スプロケもトルク寄りに振ってますし、いざとなればカイトさんやターニャさんに降りて後ろから押してもらえますから!――ね!?」
後ろのリアボックスに入っているターニャは勇ましくそれに応えた!
「カブ!まかせろー!」
セシルはそれを聞いて微笑んだ。
「『スーパーカブ』はチームワークがいいみたいだね。カイト」
「おう!まかしとけ。出発は……予定では今日だったか。セシル?」
「そう、書類上はね。そして3日後までに到着する予定だ。でもカイト、あなた明日はキルケーへ定期便の仕事があるんでしょう?」
お、よく覚えてんな。さすが!
「だな。だから実際の出発は明後日で到着は明々後日だ。……って事は明日以降はなるべく大人しくしてた方がいいよな?」
「ああ、特に町中では目立たない方がいい。形式上あなたは出発しているんだから」
「おっけー。……後はターニャだが……」
俺はターニャを振り向くと、やはり行く気満々といった顔で目を輝かせていた。