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71 温泉って最高!


 ザッ、ザッ……。ジャッ……。ジャバッ……。



 歩く足音に徐々に水の音が加わってゆく。


「おっ、ここら辺からがその湿地帯みてーだな」

「あっ、ほんどだ……ちょっとコレ以上は僕は進めません!」


 カブが参ったという表情をしている。


 一方、バンはその湿地帯の横をじっと見つめていた。

 俺もその先を目で追うと、生い茂った草の中に今よりさらに細い道があるのが分かった。

 あの道、入っていけそうだな……。


「カイト殿、カブ殿もあちらから迂回すれば先へ進めそうです。ちなみに私もこの先はどうなっているか知りません」


「よし、行ってみっか!」

「はい!」


 ザッ、ザッ……。ジャバッ……。この道はまだ歩けるな。


「カブ、お前大丈夫か?」

「行けます!」

「よし、……ん?」


 俺達は細道を歩いていると、なぜか周囲が暑くなっている事に気がついた。


 よくよく見てみると、地面から湯気が立ち登っている。

 え!?こ、これってもしかして……。



 俺はちょっと急ぎ足で先へ向かった。するとそこには――。


「噴水!……いや、温泉だ!!」


「おおっ!こ、これは凄い……。こんな温かい水たまりがあったとは……」

 バンは温泉を見たことがない様な言い回しをしている。


「バン、これはな、温泉っていうやつだ。地下で温められた水が地表から湧き出てきてんだ!俺がいた国じゃあこれがあるだけで有名な観光地になったりしたんだ!」


 カブはなんか怖気付いたような表情で後ろから眺めている。


「み、水は苦手ですー!す、すいません……」


 そりゃそうか。


「おう、カブはちょっとそこにいててくれ。俺達はもうちょい先に行って見てくる!」


「はい!待っときます」



 ――ボコッボコッ……、ボコッボコッ……。


 俺とバンが更に先へ進むと、湯気とともに熱そうな温泉が湧き出ているのが見えた!


 うおおおおおお!!まじかーー!!


「うっひょおおおお!!スゲーぞバン!!まさに温泉だ!」


 俺は大興奮しながらお湯の吹き出している所に近づいた。

 おっと、一応泉質には気を付けねーとな。強酸性の源泉もあるみたいだし……。


 ……ちょっと地面に流れるお湯に手を付けてみるが、手の周りに大量の気泡ができたりピリッとしたりはしなかった。


「……うん。特に酸性度が高くはねえな。特徴的な匂いもない。これは……このまま入れるんじゃねーか!?」


 バンは困惑しているようだった。

「は、入るとは?」


 確かに湯は湧き出ているが「湯船」に当たる所が――あったああああ!!!!


 それは源泉を挟んで俺達の反対側にあった。

 源泉からそちらに向かって川のようにお湯が流れ出ているのだが、そこにしっかりと水深の深そうな淵のようなカーブがあったのだ!


「あ、あそこ、いい感じの深さなんじゃねえか……!?」


 すぐに駆け寄った俺はその川の淵を見て確信した。


「うおおお!これは入れるぞ。1メートル近くの深さがある!!」


 湯加減を見るべく手を突っ込んでみた。



 ……ん!程よく熱くてちょうど良い温泉だ!!これは良いぞーー!うおおおおお!!


「最高だぜ。夕方ターニャも連れて一緒に入りに来よう!」

「カイト殿やターニャ殿は、この温水に長時間つかって癒されるのですか?私には分からない感覚です……」


 俺は全身体毛に覆われているバンを見て、まあ水やお湯に好んで入る犬はいねえよな……と思った。



 それから俺とバンはUターンし、カブと再び合流した。


「こりゃあすげえわ!あの温泉、多分まだ誰にも見つかってねえんじゃねえかな?はははっ!!どうよお前ら?」


 俺はカブやバンに比べて明らかに一人だけテンションが高かった。

 その様子にカブやバンもちょっと引いているようだ。


「よ、良かったですね。カイトさん……。僕錆びちゃうんで、水苦手なもんで……」

「失礼ながら、私もカブ殿と同じく水は苦手ですゆえ。残念ながら……」


「あ、ああ、そうだな。悪いな、一人で舞い上がっちまって!……じゃあまあ、夕方ターニャ連れて入りに行くわ!」


「僕も行きます!途中まで」

「ターニャ殿が一緒とあらば私も護衛役として同行いたします」


 俺は感謝の意を笑顔で返した。



 ――山道を戻り家に帰ってくると、畑の例の()が目についた。

 一日前よりやはりデカくなている……。何なんだこの木は!?


「まあいいか。別に木が早く育って困ることはねえしな」


 バンは何とも言えない雰囲気を醸してその木を眺めていた。


「何だ?バン、やっぱこの木が気になるか?……いや、別にシャレじゃねーぞ?」


 バンは木を見つめながらつぶやいた。


「……はい、私には何か神聖なもののように感じます。……まあ気のせいかも知れませんが」


「木だけにな!はっはっは」


 バンは犬ながら苦渋に満ちた雰囲気を醸し出し始めた。……いや、そこは突っ込むところだぞ?


「あの……カイトさん?」

 カブが遠慮がちに尋ねてきた。

「ん、何だカブ?」

「なんか元気ですね?」

「ふっ、あんな良いもん見つけちまったらそりゃテンションも上がるだろー!貸し切りの温泉、しかも源泉100%かけ流し!!最高の贅沢だ~。ははははっ」


 このときカブはバンと顔を見合わせて苦笑いしていた。


「そういう感覚はやっぱり人ならではですよね。僕らにはよく分かりません。でもターニャちゃんは喜ぶんじゃないですか?」


「おう!早速報告してやろう」



 ――といった感じで夕方になり、俺、ターニャ、カブ、バンというメンバーで先に発見した温泉へと向かった。


「カブ!待っててねー!!」


 例の細道でターニャは笑顔でカブに手を振った。

 ターニャも俺と同じく実に楽しそうだ。


 道を進んでいくとやはり真っ白な湯気と、温泉の鉱物っぽい匂いが漂ってきてワクワクしてくる。


「よし、ターニャ。もうちょっと先だ……」

「うん!」


 ボコボコッ……、ボコボコッ……!


 とめどなく湧き出て1メートル程吹き上がっている源泉を通り過ぎ、例の湯溜まりへと早足で歩いていく……。


「よっしゃ!ここだっ。服脱いでドッボーンだ!!」

「ういーー!!」



 バッシャッッー!!



 俺は童心に返ったように湯の中に飛び込んだ!


 ぷっはーー。気持ちいいいいいいい!


 ターニャはちょっと天然の湧き水に飛び込むのを躊躇しているようだったが、俺が泳ぐような動きで「大丈夫だぞ!」とアピールすると、ちょっとずつ湯の中に入っていった。


「あはははっ。あったかいー!」


 ターニャはプールで子供がそうするかのように、水しぶきを上げてはしゃいでいた。


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