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70 休日だ!


 気づけば俺はカレーをお代わりしようとしていた。

 いつもならターニャにまず譲るのだが、今日はカレーがあまりにも美味すぎて反射的に動いてしまった。


「あー、おじ!ターニャもおかわり!!」

「お前まだ残ってるじゃねーか。心配すんな、まだまだいっぱいある!」

「……わかった!」


 ターニャは安堵の表情を浮かべていた。やはり相当美味かったようだ。



 カチャカチャ……。


 この部屋から聞こえてくるのは話し声などではなく、ひたすら夢中になってカレーを食うおっさんと少女が食器を鳴らす音だけだった。



 数十分後、見事に満腹になった俺達は二人共腹を押さえながら和室に移動した。


 そして俺はバッタリと倒れ込むように横になった。


「はああああぁぁぁぁー……」


 同時に深ーいため息が出た。


 無理もねえ、ここ一週間程ろくに休みもせず毎日朝から晩まで動き回ってたからな……。


 すると横向きの姿勢で横たわる俺の前にターニャが寝そべってきた。でも見た感じ全く眠そうに見えない。

 多分面白がって俺の真似をしているだけだろうな……。ふっ、子供らしいな。


「ターニャ……俺はちょっと疲れたから寝るな。遊べなくてすまんな……」


 するとターニャは上を向き、

「うん……」

 とつぶやくと立ち上がって俺の後ろへ走っていった。



 ――ガサガサ……バサッ……。


「おじ、これで寝れるねー!」


 なんとターニャは俺に毛布を掛けてくれたのだ!やさしい!!俺は感動した。


「あ、ありがとなターニャ……良く眠れそう……だ……」



 ――ゆっくりと目を閉じる俺。すると色々な事が頭に浮かんできた。


 今までこのスズッキーニで出会った奴らの顔、カブの顔、セシルの事、これから控えている貿易輸送、プギャ芋、家の裏の謎の木……。


 そして自分の体の事……!

 正直今みたいなペースでずっと仕事し続けてたらいつかぶっ倒れちまう。バダガリみたいな超人ならともかく、俺は43歳の普通のおっさんなんだ。無理は出来ねえ。


 しかし生活のためにはやはり金を稼がにゃならん、今はまだ42000(16万円)ゲイルほどしか貯金がない。

 次の貿易輸送で国からどれぐらい報酬を貰えるのか分からんが……もし5万ゲイル(20万円)以上もらえたら一旦仕事を休んでしばらくのんびりしてえな……。




 ――そこから俺の記憶は飛び、気が付くとすっかり夜になっていた。



「ん、あれ?……ハッ!?しまった……軽く一時間ほど寝るつもりが……」


 スマホを見ると午前2時……つまり6時間遅れのこっちでは午後の8時ぐらいだ!

 俺はまずターニャのことが心配になり、とりあえず今いる和室を出た。


 ――すると、台所でターニャが何か作っていた!な、何してんだ……?


「おじ!だし巻き作ったー。食べて!」


 と俺に笑顔を向けてくる。テーブルにはちゃんと形になっただし巻きが2本ほど置かれている!

 うおおっ。お前、完全に自分一人で作ったのか!?すっげ……。ひとつまみ頂いてみる。


「……うん!美味い。お前本気で料理の才能あるんじゃねーか?」

「えへへー」



 その後、俺はターニャが残してくれていた昼のカレーを食い、その間に眠くなってきたターニャを寝かしつけた。



 そして何となく玄関に行き、カブの様子を見に行った。


「カイトさん!おは……じゃなかった、こんばんは!お目覚めですか?」


「おう、お前は相変わらずだな。体調悪いとか……ねーか」


 そう言うとカブは笑い出した。


「あははは!まあ僕はカブですから。風邪引いたりはしませんよ……でもエンジンの調子は凄くいい時と普通の時とがあったりしますね……あれ何なんでしょうね?」


 俺も乗っててそれは感じる時があるな。


「お前FIフューエルインジェクション車だからECUの機嫌次第で燃調変わるんじゃね?知らんけど」

「この辺はHONDAの技術者に聞いてみたいですねー」


 などとちょっとマニアックな話をして、俺も寝ようかと考えた。



 ……よし、明日の予定は決まった。徹底的に休むぞ!



 それから軽くシャワーを浴びて再び寝床につく。



 再び目覚めたのは早朝だった。


 日もまだ上り始めた頃で部屋は薄暗く、隣ではターニャが可愛らしい寝顔を見せている。


 ちょっと散歩でもしてみっか。


 最近は出かけるにあたってほとんどカブに乗りっぱなしだったから今日は歩こう。体にもいいしな。


 玄関にいるカブにあえて声を掛けずにそーっと扉を開けた。……つもりだったが即気付かれた。そうか、コイツ常に起きてるもんな……!


「あれ?カイトさん。どこ行くんですか?」


「お、おうカブ。ちょっと散歩だ。久々に歩こうと思ってな」


「あ、僕も行きます!」


 俺はカブのセンタースタンドを外し、玄関から出してやった。コイツはバックが出来ねーからな。


「……しっかしもう見慣れちまったな。お前が一人で自走する姿もよ」

「ははは、この世界だから出来ることですよ!現代の日本で僕が勝手に走ってたりしたらものすごい事になるでしょうね!」

「はっ、間違いねえ。しかも言葉まで喋りやがるしな!確実に歴史に名を残すぞお前は!はっはっは」



 俺達はそんなとりとめもない話をしながら、ヤマッハとは逆方向に山道を進んで行く。

 以前もカブと一緒に山道を登った事があったがあの時は途中で猪に出くわしたんだよな……。


 ヤベッ……今武器も何も持ってねーぞ!


「頼むぞー、猪出てくんなよー」


 俺はカブに聞こえるようにつぶやいた。


「あ、そういえば昨日バンさんが家の玄関に来て、この辺の危険な動物は大体追い払ったと言ってました!良かったですねカイトさん!」


「マジか!?めちゃくちゃありがてえ話だ!サンキューバン!」


「いえ、礼には及びません」


 !?


 俺はいきなりのその声に驚いて振り返り、カブもタブレットを180°回転させた!


「バン!」


「あ、こんにちはバンさん!」


「おはようございます、カイト殿、カブ殿。土地の探索ですかな?宜しければお供いたしましょう」


 俺は笑顔でバンを出迎えた。

「おうバン!オメーが居てくれりゃスゲー頼もしいぜ。一緒に行こう」


「ありがとうございます。ところでこのまま真っ直ぐに行くと湿地帯にぶち当たりますが、よろしいですか?」


 え!?そうなんか?


「……まあ、せっかくだから見に行ってみっか。冒険みたいで面白いし。ターニャもまだまだ起きねーだろう」


「あ、僕あんまり水が多すぎると進めないので、そうだったら引き返します!」


「おう、無理すんなカブ」

「では行きましょう」


 この時の判断が俺達を面白い場所へと誘うのだった。


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