69 カレー食って寝るぞ!
「植物?例の芽か。バン?」
「はい、もう小さな苗木ぐらいに成長しています」
マジか!?ちょっと前まで小さな芽でしかなかったのに……。
「ええ、とにかく物凄い成長速度です」
カブを止めて家の裏の畑を見に行くと、確かに一つだけ目立った苗のような小さな木があった!
ターニャは興味を持ったのか駆け寄っていく。
「なんかあるー!」
ターニャが俺を手招きしている。
その苗木は高さ50センチ程になっていた。
ターニャが指差した部分を見てみると、丸い形の実の様なものがぶら下がっていた。
「お、なんか出来てんなー。しかしとんでもなく成長が早えな!」
「はい、普通なら芽が出た状態からここまでになるのに一年は時間がかかるハズです」
まあ蒔いた種が早く大きくなるのは嬉しい事だ。このまま見守ろう。
「一月後には収穫出来たりしてな!ははは」
「おじ!これは芋ー?」
「残念ながら芋じゃねえぞターニャ。芋ってのは地面の下に出来る穀物だからな。これは果実だな」
「かじつ……。ふーん」
ターニャはちょっと興味を無くしたようだがりんごや梨、ぶどう、スイカ、なんかも果実だし食ったら絶対うまいうまい言うだろうな。
――ふと、ここで最近の疲れが出たのか眠たくなってきた。
ってか昨日はセシルとのアレのせいでほとんど寝てなかったわ……。
「ふぁーあぁ、ちょっと疲れたな……飯食って昼寝すっかー」
「おじ、ねるのー?ターニャ、飯作るー!」
「おう、昼はカレーでも作って夜もそれにすっか!」
「カレー!?なにー?」
「めっちゃ美味い料理だぞ」
ターニャは俺に笑顔を向けた。
「うまいー!?作ろー作ろー!」
それからカブにも「ちょっと寝るわ」とだけ話し、カブは「お休みなさーい」と返してきた。
タブレットには「ZZZ」の絵文字が映されている。ふっ、面白い奴だぜ。
台所に行くと、この世界に来る前から元々あった野菜がまだ残っていた。
人参、メークイン、玉ねぎ等だ。この際全部使っちまおう。
後はこの世界で買った肉……これは牛肉か?赤みのある肉なので多分カレーには合うだろう。
そして一応探しては見たものの、こちらの世界にはなかったカレールーを取り出し、これで食材はほぼ出揃った。
「よし、ターニャ。まずは野菜を切るぞ!」
「おおー。やるー!」
ターニャは俺が皮の剥き方と切り方を教えると、相変わらず驚異的な飲み込みの早さでそれらを習得していく!
ピーッ、ピーッ……。
シャコッ、シャコッ……。
ピーラーの使い方も危なげない。やるなあ!
「よし、野菜は全部切れたな、じゃあ次は肉だ!」
「ういーー!」
「こんな風にサイコロみたいに切っていくんだぞ」
「サイコロー?これ?」
「ああ、真四角の立方体のヤツだ……まあそんな形に切るんだ。いいか?」
「うんー!」
スパーッ、スパーッ……。
うん、教えた通りちゃんと切れている。素晴らしいな。
「じゃあ次はコイツにそれらをぶち込むぜ!」
俺は鍋に油を引いて火をかけて、肉、玉ねぎ、人参、メークインの順で放り込んでいく!
――ジャアアアァァァッ……。
おううっ!いい音だ!
「おおーっ!いい匂い、これ、おいしそう!」
「ふふ、ここから更に美味しくなるぞ!」
肉の表面が焦げ出して玉ねぎがしなってきたら次は水を入れて沸騰させる。
「じゃあターニャ。こっからしばらく煮込んで白い灰汁が出てきたらコレですくってくれ」
「うん!」
俺はターニャに灰汁取り網を渡し、椅子に座りしばしぼーっとした。
やはり今日は疲れてるな、……っていうか、この世界に来てからカブで毎日のように100キロ以上走ったりしているから疲れて当然なんだよな……。
おっと、そうそう。サラダも適当に作っとこう。
俺はキャベツをまな板の上に置いて包丁をかざすと、ターニャが猛烈にキラキラした目で見てきた。あ、やっぱ切りたい?
俺はちょっと手本を見せた。
「こうだぞ」
「うん!やるー!!」
……というわけで役割交代して俺は灰汁取り役をやった。
他のサニーレタスみたいな野菜も用意しとこう、……と思ってふと考えた。
現代には存在しないこの世界だけにしかない特殊食材って『プギャ芋』以外にどんなもんがあるんだ?
『プギャ芋』は確かに一発でソレと分るが、他の特殊食材もそんな感じなんかな?
などと考えていると、ターニャが声を上げた。
「おじー。できたよー!」
「おう、きれいに出来てんなー偉いぞ」
「うふふー」
無邪気に笑うターニャ。かわいいやつめ。
――グツグツ……。
しばらくすると鍋が煮えてきたので人参を一つ取り出し箸で突く。……よし、オーケー。
「後は火を止めてちょっと水を足して、このカレールーを入れる。そんでかき混ぜながらルーが溶けるのを待って、溶け切ったらまた加熱して完成だ!」
「……うん」
ターニャは今まで見たこともないカレールーという謎の塊をじっと見つめていた。
「おじ、コレってなにー?」
「え……?」
そう言われると答えづらいな。カレーはカレーとしか俺の知識では説明できない。
「ちょっとだけ切り取ってやるから味見してみろ。多分それ単体だとうまくねーと思うぞ」
俺はターニャにちょっとしたルーの破片をあげた。すると――。
ターニャは奇妙な顔をして口をモゴモゴと動かした。
「おじ……これ、おいしいの?」
「はは、それは鍋に入れて煮たら旨くなる!それだけ食べてもダメだぞ?」
「……ふーん……」
ターニャはそんなもんかといった表情だ。
出来上がったカレー食ったら驚くぞコイツ。
それからしばらくして無事カレーは完成した!
うおおっ!鍋の中でグツグツと煮立つカレー……めちゃくちゃ美味そうだぜ!!
ここでちょっとテンションが上がった俺は、ターニャが刻んだキャベツを皿によそい、レタスを手でいい大きさに分けて乗せ、上からツナ缶のツナを乗せた。
いい感じだぜー!!
後は大皿に炊いた米をよそいカレーをついで――完成!!
「……いい匂い!おじ、これ、なんかおいしそうな匂いする!」
「おう!匂いだけじゃなくて実際マジで美味えぞー!」
テーブルの上に二人分の料理が並べられ、それを見た俺も腹が減っていたらしく「グウー」と腹の音を鳴らした。
「よし、じゃ、いただきまーす」
「いただきまーす!!」
――ガツガツ……。モグゥ……。
俺もターニャも、気付くと夢中になってカレーを貪っていた。
いや、もうめちゃくちゃ美味かった!
ああ……、なんか幸せだ。……それぐらいの美味さだった。