68 定期便の配達
――トゥルルルルルー。
「あー、それにしてもセシルはいい奴だぜ。なあターニャ?」
「セシルいいやつー。優しい!」
ターニャはニコニコしながらそう答えた。
「これからもセシルの家にはたまーに顔出してやるか!」
「すけべ心ですか?……」
「うっせえよ!」
カブ奴め。
「すけべー?」
「ターニャ。お前にはまだ早いぜ!」
「……ふーん」
そんな話をしているうちにヤマッハのギルドが見えてきた。
その辺で俺は仕事のスイッチが入った。
「よし、じゃあ頭を切り替えて今日の仕事だ!家に荷車を取りに行くぞ!」
「はい!」
「ういーー!」
という訳で、サッと家に帰り荷車を取ってヤマッハに帰って来た。
――ドゥルルルン!ガラガラガラ……。
「カイトさん、僕らはヤマッハにいるキルケーの関係者がすでに買ってある物をキルケーに運ぶんですよね?」
「ああ、一応この紙に書かれたリストと照らし合わせといてくれって。だが軽油だけは重たいから俺達に買ってもらいたいって書いてあるな」
俺はカブにその紙をヒラヒラとさせた。
「了解です!」
それからカブを走らせながら、キルケーの関係者の家に行って物資を積み込んだ。
「じゃ、これ。キルケーまでお願いします!」
「おう、任しとけ」
運ぶ物資というのは油、塩、胡椒、紙、そして軽油が二缶……最後の軽油はもちろん給油所で買ったわけだが――、そこにはやはりアイツがいた。
「おっす、昨日ぶりだな!ミルコ」
「あ!カイトさん。昨日はどもっす!」
ミルコは相変わらず軽快な話し方だった。
その時ミルコと隣国ゼファールについて話を聞いてみた。
ゼファールは今回俺が輸送役を担うその相手国だ!
「お前ゼファールって国には行ったことあるか?」
そう聞くとミルコは目を輝かせた。
「ゼファール!?僕が今一番行ってみたい国です!鉄と鉱石と工場の町っすよ!憧れるなー!!」
「俺今度そこに行くぞ」
「ええええ!!??マジっすかカイトさん??ちょっと記念に歯車とか拾ってきてくださいよー。道端とかそこら辺にいっぱい落ちてるみたいなんで!!」
「ぶははっ!やっぱりお前もそういう機械的なもん好きか?まあ道に落ちてるんだったら拾って来てやるよ。もっとも時間に余裕があればの話だがな」
「お願いします!」
「おう、じゃあな」
――ドゥルルルルン……。
……そんな感じで買い物を済ませた俺達は、キルケーへと続く細い山道を走っていった。
その途中で俺は初の国外遠征に向けて一つ懸念があった、ターニャの事だ。
俺達はニンジャーまで行ったその日に帰らなきゃならねえ。さすがにターニャを連れていくのは無理がある気がする。
本人にちょっと聞いてみるか。
俺は一旦カブを止め、ステップに立っているターニャと一緒にカブを降りた。
「ターニャよ。俺は数日後、隣の国に配達行くんだけどな――」
「うん!となりの国行くー!!」
その目は輝いていた。遠足にでも行く気分なんだろう。
「お前を連れていけるか分かんねえんだ」
その言葉を聞いたターニャの顔が徐々に歪んでいく、眉をハの字にして今にも泣きそうだ。
あ、やべえ!
「うえっ。うっ、あ……ああああああああーー!」
「あー待て待て!別にお前を除け者にしたい訳じゃねえんだ!」
そうなだめてもターニャは依然として泣き続ける。
困ったぜ。……とりあえず説明する!
「今回の配達はな、今までより大分距離も長いし配達途中に夜になるかもしれん、危険な野生動物とかも出てくるかも知れんし――」
「ええええーー!だったらターニャも行くー!!猪狩るーー!絶対ーー行くーー!!」
「お前はどっかの冒険者か!?何かあったらお前を守れる自信はねーんだぞ!」
ここでカブが一言。
「でもカイトさん、ターニャちゃんを置いていくにしても預ける先がないのでは……?」
「そこは……アイツよ。セシルに相談するしかねえよ」
「なーるほど!ちょうどターニャさんとセシルさん、いい感じに仲良くなりましたもんね!」
「ああ、だがセシルにも仕事がある……しまったな、この事セシルの家で相談しとくべきだった!」
「おじー!ニンジャー行く!ニンジャー!」
ターニャは相変わらず行く気満々だ。
「ターニャ。一旦この話は保留だ」
「ほりゅう?なにー?」
「今決めないでまた後でどうするか決めるって事だ」
俺がそう言うとターニャは頬を膨らませた。
「ぶー!」
「まあもうちょっと待ってろ。後で芋やるから」
「芋ー!分かったーー!!」
単純というか芋好きというか……。まあとにかく一旦ターニャが落ち着いてくれて良かったぜ。
俺は一時期、ターニャの事を子供の割に料理が出来たり、察しが良かったり……なんと言うか結構扱いやすい子供なんじゃねえかと思っていた時もあったが、やっぱり子供らしい所はあるなー、と逆にちょっと安心した。
そして俺達はまたカブで走り出し、やがてキルケーが見えてきた。
そのままフランクの家の前までカブを走らせ、ドアをノックする。
「あ、ど、どうも……カイトさん……」
中から出てきたのはやや顔色の悪いフランクだった。
おそらくまた発明の成果が出なかったんだろう。
「お、おうフランク。ご苦労さんだな。大丈夫か?」
「は、はい……なんとか。配達ありがとうございます。……これ送料です」
俺は一旦ヤマッハ→キルケー便の2000ゲイルを受け取って財布にしまった。
「まいど!確かに受け取ったぜ。じゃあ早速バダガリ農園行って戻ってくるからな!研究頑張れよー!!」
「はい……ありがとうございます……」
それからヤマッハで購入した物資をフランクの家の前に卸し、再び俺とターニャはカブに乗った。
「研究職ってのはどこの世界も大変だなー。そう思わんか。カブよ?」
カブは遠くを見るような目をして、
「そうですねー。彼らのような研究者や技術者がいたから僕のようなバイクが生まれたのか――って思うと、彼らには大感謝ですね!」
「ふーん。けんきゅーしゃ……えらい」
タブレットに映ったカブの顔を見ながらターニャも何か感じたようだった。
「何でも一生懸命頑張ってる奴は皆偉いんだぞターニャ!そういう奴はできるだけ助けてやりてえよな!」
ターニャはちょっと笑顔になって答えた。
「うん!ターニャ、おじもカブも助けるー!いっしょうけんめい!」
「おう!一生懸命生きてたらいつか良いことあるぜ。ふはははっ」
などと俺達は気分良くバダガリ農園を往復し、キルケーで再び1500ゲイルをフランクから受け取ることが出来た。
今日の稼ぎは3500ゲイル(14000円)!これが3日に1回はまあ安定して入る収入か。ヤマッハでの買い物がないと1500ゲイルになっちまうが……、まあ収入があるだけいい。
――大金稼ぐのは次の貿易輸送だ。ガッツリ稼ぐぞ!!
と、思いながら俺達が家に帰ると、バンが玄関に座っていた。そして第一声にこんな事を言いだした。
「おかえりなさい皆さん。例の植物が少々気になる変化をしているようです――」