63 謎の芽とターニャの成長
本日2話目の投稿になります。
一旦家に帰る途中の山道に入ると、俺はカブを停めて事情を問いただした。
「おいカブ。一旦話を聞くから話してみろ」
「カイトさん!あの人のカイトさんを見る目、おかしくないですか!なんかねっとりしていると言うか……カイトさんとの距離も異様に近かったしー!!」
「ねっとりも何も……単純に俺のことが好きなんじゃねーか?あの感じは」
「うぐぐぅっ……」
俺はあっけらかんとして答えたが、カブはなんか歯を食いしばって唸っている。
いやいやおかしいだろ……。
「カブ、どしたー?」
ターニャも少し心配そうに声をかける。
「な、なんか僕……嫉妬で狂いそうですー!!フギーーーーッ!!」
本当に人間みたいな奴だな。しょうがねえな。
悔しそうなカブを慰めるように俺はこう言った。
「おいカブ。お前まだハンターとか他のバイクに嫉妬するなら分かるけど、セシルは人間じゃねーか、意味が分からんぞ」
「そ、それは分かってはいるんですが……心が勝手に妬んでしまうんです!うぐぐぐぐ……」
俺はフーッと大きく息を吐いた。
「セシルはお前が国に目を付けられないように色々手続きしてくれる良い奴じゃねーか。俺もお前も感謝するべき相手だぞ」
俺がそう言うと、カブはポカンとした表情になった。
「……え!?ど、どういう事ですか?」
「あれ?……もしかしてお前、俺とセシルとの会話、聞こえてなかったのか!?」
そう言えばセシルのやつずっと俺に耳打ちするような喋り方だったな。まあ内容が文書の改ざんだったりするから、それが正解なんだが……。
俺はセシルとの話の内容をカブに全て話した。
――するとカブは一気に明るい顔になって安堵の声を上げた。
「……あ、ああー!!そうだったんですかー!そりゃあそんな内容の話なら距離も近くなりますよねーあっはっははは!分っかりました。セシルさん凄くいい人じゃないですかー!」
「お、おう。そうだろ?お陰で変に目立たなくてすむし凄え助かるってわけだ」
俺はカブの単純さに呆れたが、まあ結果として納得してくれて良かった。ふうーっ。
「カブ、元気になったー!」
ターニャも恐らく意味は分かっていないだろうが、カブにつられて喜んでいる。
「よっしゃ、じゃあこれから家に帰ってこの荷車を置いて今日の仕事は終わりだ。明日は久しぶりに軽油の営業しに行くか!」
「はい!」
「ういーー!!」
――ドゥルルルルーン!ガタガタガタッ!!
気のせいかカブのエンジンがいつもより力強く感じる。
おかげで家に帰る途中の坂道も余裕だった。カブの奴、本当に単純だな……。
「あはははっ!」
ターニャは後ろの荷車のスリリングな乗り味が気に入ったらしく、後ではしゃぎながら楽しそうな声を上げていた。
トゥルルルル……キッ――。
家に到着しカブを停めると、庭にバンが行儀良く座っていた。
「お帰りなさい皆さん」
「おうバン。帰ったぜー」
「バンただいま!」
ターニャがバンめがけて走っていき、バンの体にバフっとめり込むように倒れ込んだ。
「ターニャ殿。楽しそうで何よりです」
「バンはたのしー?」
「はい。楽しいですよ!」
「うふふー」
うーむ、実に平和な情景だ。
しかしここでバンが意味深な事を話してきた。
「カイトさん、一つ気になる事があるのですが、あの家の裏手の畑の事です」
「畑?」
俺は予想外のバンの言葉にちょっと驚いた。
「はい、私も半野生のような生活をしていて、自然の動植物はある程度分かったつもりでした。しかしあの畑から出ている不思議な芽は私の経験した範囲にはない特殊な植物に感じます」
「うーむ、ちょっと見に行くか」
「僕も気になります!」
俺はカブとターニャと一緒にバンについて行った。
「あれですね」
俺はバンが前足で差したその植物の芽を見て、「?」と思った。
「これか?……んー別に何の変哲もない何処にでも生えてそうな植物の芽にしか見えねーけどな」
「ターニャも!」
俺はバンにしか感じられない違和感というのが気になって尋ねてみた。
「なあバン。この芽が普通と違うってのはどういう意味でだ?例えば強烈な毒があるとかそういう意味か?」
するとバンは首を横に振って否定した。
「いえ、毒であれば私の鼻が即拒否するのでそういう類のものではありません」
……そう言われると俺にはそれ以上の事は分かりようもない。
まあいいか。
「おう、まあ毒じゃねえんならそこまで警戒してもしゃあねえ。コイツが成長したらどんな風になるか楽しみにしとこうぜ」
「承知致しました」
「芋できるかなー?」
「ふっ、残念だが多分芋は出来ねーぞ」
「えーっ。じゃあこの芽はダメな芽!」
「ぶはははは!残念だったなターニャ」
そんな事を話して俺達は畑から去って行った。
空を見上げると地平線の彼方が夕焼け色に染まっていた。
一瞬涼やかな風が吹き抜け、これからやってくる寒い季節の到来を予感させた。だが秋は俺が一番好きな季節だったので少しテンションは上がった。
「よし、今日も晩飯食ってシャワー浴びて寝るか!」
「ういーー!」
「はい!」
その晩、俺は少し安心した事があった。
晩飯を食い終わってターニャを風呂に入れたときの事だ。
俺はターニャに会った初日にシャワーを浴びさせた。
その時のターニャは、胸には肋骨が浮いていて全体的に細すぎて心配になるレベルだったが、今日見てみるとは大分改善されているのが分かった!
「おおー。ターニャお前、体が随分健康的になってんじゃねーか?毎日腹いっぱい飯食ってるからかもな」
俺がそう言うとターニャは笑顔で自分でお腹をポンポンと叩いた。
「おじ、ターニャ健康!」
「おう!人間なんだかんだ言って健康が一番大事なんだぞ!飯を食う、毎日歩く、ぐっすり寝る!この三つがちゃんと出来てりゃ人生は上手く行く」
なんか現代のインフルエンサーみたいな事を言ってんな――、とかちょっと思ったりもした。そして話のオチとしてこう付け加えた。
「そんでな、その3つをちゃんとこなすために必要なのが――お金だ!」
ターニャはちょっと考えたような動作をして言った。
「じゃあお金をかせがないとダメー?」
「はっはっは。そういう事。今俺はそれを頑張ってるわけだ!」
ターニャもちょっとずつ俺のやっている事が理解出来つつあるのかもな。
そんな風な話をして、俺達は風呂を出た。
風呂を出てしばらくするとターニャは眠くなってウトウトし始めた。こうなると寝るのは一瞬だ。
俺はサッと布団をしき、ターニャを横にさせると10秒で目を瞑って静かになった。いいなー。
その後俺は二階へ上がり、約一月後に日本へ戻った時の行動をまとめた。
そして静かにゆっくりと夜は更けていくのだった。
ZZZ……。