60 この男、雇いたいぜ
それから俺はミルコに指示を出しながら、ほとんどの外装パーツを外させた。
「うわーっ……凄い!!こんな風になってるんだ!」
ミルコは好奇心が刺激されたのか、むき出しになったカブのエンジンやらにいたく感動しているようだ。
「この部分が動力源ですか?」
「ああ、エンジンな」
「へえー……動力はこの鉄の箱に中に繋がってるんですね!」
「そうそう、エンジンでピストンの動きを円運動に変えた後はこのクラッチで各ギアに動力が移って、そこからチェーンで繋がってる後輪タイヤに動力が伝わるって仕組みだ」
「へえええー……各パーツの事は詳しく分かんないですけど力の伝わり方は何となく分かる気がします!――カブ君。君めちゃくちゃ面白い身体してるよ!!」
「え、えへへー。そうですか。……ありがとうございますぅー」
カブは緩みきった表情で答えた。うーむ、だらしない。
「カイトさん。カブ君の身体。まだこの世界に存在しない素材が色々と使われてますよね?」
「ああ、プラスチックとかゴムとか電装品とか……まあ色々あるな。正直特許の塊だ。……だからこそ怖いんだ!」
俺はあえて深刻そうな表情を作りミルコに問題点を匂わせた。
するとミルコは即俺の言いたいことを汲み取ってくれた。
「……カイトさん。有名になってくるとカブ君の事を嗅ぎ回る人間が出てくる……でも配送会社『スーパーカブ』の仕事も営業もやらないと食っていけない――そこが悩み。……ってことっすかね?」
ミルコ……お前。察し良すぎだろ。
俺はちょっと感動してしまった。
「なあミルコ」
「はい」
「あのよ、今はまだ会社として収入が安定してねえ……っつーか出来てからまだ数日しか経ってねーけども。もし社員増やすならお前さんを最初の一人として迎えたいんだ。どうだ?給油所の副業でも全然構わんぜ?」
俺は大真面目な顔をしてミルコに言い放った。
それを聞いたミルコは、
「マ、マジっすか!?是非よろしくお願いしますカイトさん!!」
と、姿勢を正して答えてくれた。俺は安心してニッコリと笑った。
「まだ働いても無いですが、個人的には営業とかよりもカブ君のメンテナンスがしてみたいっすね!今ちょっと軽く教えてもらっていいっすか?」
お、やる気十分だな!
俺はスマホで動画を開き、ミルコに見せて説明した。
「じゃあちょっとこの動画を見せながら解説するぜ」
早速動画からは配信者の声が聞こえてきた。
――えーでは。今回はチェーンの調節をしてみようと思います――
「うわっ、何すかこれ!?中で人が……動いてる……!!なんて技術だ……カ、カイトさんのいた世界、ちょっと文明が高度すぎじゃないっすか!?スッゲー!さぞかし皆豊かに暮らしてるんだろうなー……」
そんなミルコの感想に俺は思わず苦笑いをした。
「ミルコよ、そんなことはねえぞ」
「え?」
「文明は確かにここに比べりゃ進んでた。しかし人の心は全く豊かになってねえ、それどころか逆にかなり荒んでるようにさえ思うわ」
「……そうなんすか?」
「ああ、皆毎日死にそうな顔をしながら会社に行き、事件事故は毎日どっかで起きてるしSNSでは誹謗中傷が飛び交い自殺に追い込まれ、世界じゃ戦争はあちこちで起きててミサイルや核兵器やら大量に人が殺せるような兵器はあるし……、なんか言っててテンション下がってきたわ……」
「なんか大変そっすね」
ケロッとした顔でそう言うミルコが頼もしくも見えた。
――その後、チェーンの調節をミルコは自力で出来るようになっていた。素晴らしいぜ!
「お疲れさんミルコ。これ取っとけ」
俺は500ゲイル硬貨(約2000円)をミルコに差し出した。
ミルコは貰っていいものかと困惑した表情を見せたが俺は強引に手の中にねじ込んだ。
「前に言っただろ?俺はタダで働かせるのが嫌いなんだ」
俺がそう言うとミルコは弾けるような笑顔になって催促してきた。
「あ、あざっす!……カイトさん、早く収益を安定させて俺を雇って下さいよ!」
「分かっとるわい!」
俺も笑って返す。あー雇いてえなあコイツ。
「おじー!」
家の中にいたターニャが呼びかけてきた。
「おーう、なんだターニャ?」
「これ何ー?れいぞーこにあったやつ!」
ターニャが見せてきたのは卵だった。
「これうまそう!たべよー」
「お前見た目で美味いと思ってねーか?まあ確かに美味いけどな。ミルコ、ちょっと出汁巻きでも食ってくか?」
「あっ、俺卵大好物っす。いただきます!」
「おう!食ってけ食ってけ!」
俺は台所で白だしと卵3個、そして水を少し混ぜてとき。だし巻きをこしらえた。
ターニャが隣で目を輝かせて見ている。
「おじ、それ後で教えてー」
「よっしゃ。任せとけ」
「ういーーっ!」
といった感じで皿に乗せただし巻き3切れをミルコに渡し、
「熱いうちにすぐ食えよ」
と促す。
「頂きます!」
と本当に即食うミルコ。箸の使い方がぎこちないのは致し方ない。
お次はターニャだ。
「ほれ、うまいぞ」
「おー!」
さて、俺もいただくか。
だし巻き卵にサクッと箸を入れるとホクホクと白い湯気が立ち上った。
ハムッ……。
くあーっ。ダシが効いててめっちゃうめえー。もうこれだけでいいわー。
俺が自分で作っただし巻きを自画自賛していると、ミルコが凄い顔で俺を見ている!え?何!?……。
「カイトさん、この卵焼き?ってやつ……めちゃくちゃうまいっす!俺今まで食った中で一番美味い飯だったかも知れない……」
「ふははははっ!ホントかよ。まあ俺のだし巻きは最高よ!はははは」
「おいしー!!おじ、おかわり!おじ!」
ターニャがせっついてくる。
「もうねえよ!」
「えー!?」
「しゃーねーなぁ」
俺は自分の出汁巻きの一切れをターニャの皿に移した。
するとターニャはもの凄い笑顔になった。
「あはっ。ありがとーおじ!!」
ミルコはそんなターニャをニヤニヤしながら見つめていた。
「食べるの大好きなんだなー。ターニャちゃんは」
俺は苦笑いして答える。
「周りに女が居ねーからよ。このまま行くとオッサンみてえな女子になっちまうぜ」
その時ふと気になって尋ねた。
「ミルコ、お前さん女はいるのか?」
「はい。ギルドで働いてる子なんですけどね」
ん?