59 ミルコを自宅へ
俺は猪を家に持って帰り、ネットで血の抜き方を調べ、実行した。
ちょっとビビりつつも包丁を入れていく。猪の体からは大量の血が漏れ出す!なんとか成功したようだ。
「ふうっ。これでしばらく逆さまにして木の枝にぶら下げておけばいいんだな」
「なんか僕血を見るのって苦手です……」
カブがそんな事を言った。
いや、お前が一番平気であるハズだろ?
「カブ殿は機械の体なのに人間味があって趣深いですな!」
バンはかなり好意的に解釈してくれるようだ。なんというできた犬だ……。
それから数時間経って朝飯を食い終わり出発しようとした時、俺はターニャを家に置いていく事に決めた。
お留守番チャレンジだ!
「えー、ターニャも行くー!!」
と、ちょっと駄々をこねられもしたが、バンに一緒に留守番をしてもらうように頼んだ。
バンが一緒なら大丈夫だろう。下手な人間より信用できる。
「ごめんなターニャ。でも留守番も出来るようにならねーとな!家にいる時はバンと遊んどいてくれな」
ターニャがバンを見るとバンは顔をターニャの体にスリスリし始めた。
思わず笑顔になったターニャは嬉しそうに抱き返したりしている。
「平和だぜ……」
「では、バンさん留守番お願いします!」
カブがバンに出発の合図を送った。
「承知致しました」
「いってらっしゃーい!!」
――ブゥウウウウン、ガタガタッ。
俺とカブはいつもの坂道を降っていく。
後ろの荷車にデカい猪の死体を載せているのでかなり重いぜ。
ここでカブが質問してきた。
「カイトさん。ヤマッハについたらまず肉屋さんですか?それとも給油所?」
それについては俺は一応考えていた。
「まず肉屋だ!猪を一旦売り捌いて荷車を空にする。そんで給油所でミルコを拾って荷車に乗せて家に戻る!どうだ。完璧だろ?」
「あ!なるほど。確かにミルコさんは流石にリアボックスに乗せられないですもんね!ターニャさんみたいに……」
「ああ、とりあえず露天商にコイツを持っていくぞ!」
――数十分もすれば俺達はヤマッハの食材屋にたどり着けた。まだ朝早いからか人は少なかった。
俺達はすぐに肉屋に向かった。
ここは室内ではなく通路の一部なので、カブでそのままゆっくり奥に入っていく……。
「お、ここだ。おーい、この猪買い取ってくれねーか?」
肉屋に到着するなりそう呼びかけると、肉付きの良い丸々とした店員が出てきて目を見開いてこう言った。
「ええっ!?こ、これはブラックボアプリウス……!!あ、あんたコイツをどうやって狩ったんだ!?」
大層驚かれたがほぼ90%バンのお陰である。
「いや、まあ運良くな……それよりコイツ買い取ってくれるか?血はちゃんと抜いてるし、朝仕留めてすぐここまで運んでるから鮮度も良いはずだ」
俺はその店員が口元を緩めたのを見て、これはイケるんじゃね!?と思った。
「そ、そうだなーこの大きさだと1万5000ゲイルでどうだい?」
俺は両手をばっと上げて、
「もう一声!もう一声だ!!」
と煽った!
おそらく足元を見ていると思ったからだ。
「んー……じゃあ16000ゲイルでどうだい?」
「よし、おっけー。じゃあそれで頼むな!」
冷静を装いつつも俺は内心大興奮だった。だって――16000ゲイル――だぞ!?
今までのどの取引よりも高額じゃねーか!!ふはは。
――という感じで思いもかけぬ臨時収入を得る事が出来た!やったぜ!!
「やりましたねカイトさん!16000ゲイルなんて全財産の半分近い以上じゃないですか!!」
「お……おう、そうなんだよ。これで貯金総額が『42000ゲイル』ぐらいになった……!ふはは……。帰ったらバンにお礼言っとかねーとな!」
「ですねー!」
俺もカブもホクホク顔で食材屋を後にした。
やはり金が手に入るのは嬉しい。本当に。
トゥルルルルルルルー……。
空になった荷車を引っ張って今度は給油所に到着した。
「あ、カイトさんっ!本当に来てくれたんすね!あざーっす」
ミルコは相変わらず元気のいい声だった。
「おうミルコおはよう、後ろ乗れや」
俺はカブの後ろの荷車を親指で指した。ミルコは驚いていた。
「え……ここに乗って大丈夫なんですか?」
「おう、……ってかそこしか物理的に乗れねえ。リアボックスは流石に無理だろ?」
「ははっ、確かに!」
ザッ――。
ミルコは笑いながら軽快な動きで荷車に乗り込んだ。
「うわっ。何すかこの荷車!?めちゃくちゃふわふわしてますよ!?これは凄い……」
ミルコは高級荷車の乗り心地にいたく興奮しているようだった。
分かるぞ、俺もターニャと一緒にその上で飛び跳ねた時スゲーと思ったもんな。
「よっしゃ、行くぞカブ!目的地は自宅だ」
「はい!」
――プルルルル……。
初めて荷車に人を乗せたカブはゆっくりと発進した。
「うわっ!カブ君凄い、なんて軽やかな動きだ!しかも音も静かだし煙も出てない……」
ミルコの初々しい感想が新鮮だった。
実際には排気ガスは出てるけど確かに目立たねーよな。
「ほんじゃちょっと飛ばしていくぜ。ミルコ、しっかり捕まっててくれよ!」
「了解っす!」
――ドゥルルルルン!
ガタガタッ。
例の山道を駆け上がり、俺とミルコはカブに乗って自宅へと到着した。
「おじ!おかえりー」
「お帰りなさい。カイト殿!」
庭にいたターニャとバンが駆け寄って来た。
「おう。だだ今!」
「こんにちはターニャちゃん……と、え?犬!?今、犬が喋ったような……!?」
困惑するミルコだったがまあ当然だろう。
「この犬は喋れるタイプなんだ、あまり気にするな。ターニャ、今からミルコにカブの事を色々教えるから、もうちょっとバンと遊んでてくれ」
「うん!」
俺は一旦家に入り、ミルコに出す為に水を一杯汲んできた。
俺の自宅を見上げてミルコは口を大きく開いて驚いていた。
「うわーっ!デカっ!?こ、これがカイトさんの家っすか!?」
「おう。自宅であり会社本部でもある」
現代の建築物に圧倒されるミルコに俺は水を差し出した。
「まあ飲めや」
「あ、あざます!!」
ゴクッ……ゴクッ……。
「プハーッ。カイトさんありがとうございました!」
「おう。じゃ、早速このカブについて説明するぜ」
「はい!」
ミルコは待ってましたと言わんばかりの表情で答えた。
「よろしくお願いしまーす!」
カブも呑気な返事をする。
よし、じゃあまずカバーから外していくぞ。
「ミルコ、コレでネジを外してみろ反時計回りにこうやって……回すと外せる」
俺はミルコに手本を見せ、ドライバーを手渡した。
「は、はい。やってみます!……」
――スッ……クルクルクル……。
「お、そうそう。飲み込みが早えーな!」
「あふっ……ああー……!」
恍惚とした表情でカブが喘いでいる。
「え!?カブ君、大丈夫か!?」
「気にするな、コイツは手入れしてもらってる時はこんな感じなんだ。なんか気持ち良いらしいぜ」
「へ、へー……人間みたいっすね……」
同感だ。