56 カツウオのたたきを作る
――ドゥルルルル、シュッ……。
俺は自宅に着くと、とりあえずカブのエンジンを止めた。
さっきのセシルの話も気になるが一旦はカブのメンテナンス――の前に昼飯だ!
「あー腹減った」
「はらへったー!」
ターニャが笑顔で俺の真似をして叫んでいる。
思えば最初に出会ったときは死んだような顔をしてたコイツが、今みたいにイキイキとしているのは……正直言って嬉しいぞ。
そんな風に思いながら俺はターニャと台所へと向かう。
「よっしゃ、カツウオのたたきを食うぞ!」
「たたき?なにー?」
「おう、このカツウオに塩とかをまいて上から叩いて味を染み込ませるからたたきっていうんだ」
俺は台所のまな板の上で買ってきたカツウオを軽く叩く真似をした。
「ふーん……」
「ターニャ、冷蔵庫から青ネギを持ってきてくれ。あとポン酢としょうゆも」
「うん!」
とりあえず俺はカツウオの身に塩をふりかけてキッチンペーパーの上でしばらく放置し、その間に玉ねぎを薄切りにする。
「はい、おじ!」
ターニャが俺が言ってたものを持ってきてくれた。
「よし、じゃあターニャ、青ネギを切ってもらおうか。これくらいの厚さだ」
「やるー!!」
元気に返事をしてくれて頼もしい。
サクッ、サクッ……。
おお、いい感じで切れてるな。さすがだ!
その間にフライパンにサラダ油をまいて加熱、そこに水分を吸い取らせたカツウオの固まりを放り込む!
ジュウウウウー……。
いい音と共に油がはじける。うほっ、……いい匂いだー!
表面がちょっと焼けてきたら違う面を下にしてまた焼く。
その間に氷水をボールにとっておき、カツウオが全面焼けたらそこに放り込む!
熱を奪ったあとはペーパータオルで水を取る。
「おじ!出来たー」
そうやってる間にターニャが青ネギの輪切りを作ってくれた。
よっしゃ、次はカツウオを切っていこう。
「おう上手いじゃねーか!じゃあ次はメインのカツウオだ。皮の付いた方を手前に向けてこんぐらいの厚さに切っていくんだ!」
「おーやるやるー!」
やる気満々のターニャだった。
しかしコイツ吸収早いなー、今やってるカツウオの捌き方も包丁をしっかり手前に引いて一発で切ってやがる……。
うーん素晴らしい!
「はい!」
「よし、上手いぞ!次は皿に盛った玉ねぎの薄切りの上に今切ったカツウオを並べて……そうそう、それと生姜のみじん切りとにんにく、それからさっきターニャが切ってくれた青ネギも上からふりかけよう」
ふふ、いい感じで出来上がっていくぜ!
「おじ、出来た?」
「待て、もうちょっとだ。最後にポン酢と醤油を合わせて上からサッとかける……よし完成!!」
「おーっ、うまそう!!たべよたべよ!」
「ご飯も炊けてるな。よし、じゃあ食うかー」
「いただきまーす!」
「いただきまーす!」
まず最初にカツウオの身をいただく。
口に入れて一噛み二噛みするたびにカツウオの旨味が口いっぱいに広がる……!うまい……!!
モグ……モグ……。
俺はカツウオの味を噛みしめるようにゆっくりと食べていく。
にんにく、しょうが、ネギなどの薬味が味の広がりを持たせてくれて噛むのが止められない!
「ぷはっ!……ご飯が進むぜ」
ガッガッ。モゴ、モゴ……。
思わずいつもの倍ぐらい口にご飯を頬張ってしまう。
テーブルの向かいのターニャも同じように頬を膨らませていた。いや本当に美味い。
二人共無言のまま気付けばカツウオのたたきとご飯を完食していた。
あー、これはいい。こんな美味い魚料理食ったの久しぶりだ。
ここの世界は食いもんが本当に全部美味いんだよな……。ふぅーっ。
「ご馳走さま」
「ごちそうさま!」
ターニャも満足そうにニヤついている。
「どうだターニャ。カツウオのたたきは?」
と聞いてみると、らしい答えが返ってきた。
「うん、おいしい!芋の次においしい!!」
やはりターニャにとって不動の一位は芋だったようだ。
――それから飯を食い終わってしばらくゆっくりしていたら眠くなってきた。
「ふぅ。飯食ったらちょっと眠くなってきたな……」
俺がそう呟くとターニャがどこかに駆け出して行った。
ん?どこいったんだ?
するとターニャはすぐに戻って来て、持ってきた座布団をしいた。
「おじ、これで寝る!」
俺はちょっと感激した!
「おう!えらいぞー。うぉりゃー!!」
俺はターニャを天井付近まで抱え上げたり戻したりした。
俗に言う「高い高い」だ。
「きゃははっ、あははっあはっ!!ういーー!!」
うおっ、なんか凄え喜んでる……。やっぱ子供はこういうのが好きなんだな。
「うえーーーい!……」
――あれ?確か俺にも娘がいて子供の頃から一緒に住んでいたハズなんだが、……こんな風に遊んであげた記憶が全くない――あれ?昔の俺ヤバくね!?などと色々と考えてしまった。
しばらくターニャと遊んでいるうちに本格的に眠くなってきた……。
うーん、ちょうどターニャの持ってきた座布団がいい感じに枕になりそうだ……。
「んー……ちょっとだけ寝るぞ……」
俺は座布団を折りたたみ枕にして仰向けになり、そっと目を瞑った。
「あー、おじだけずるい!ターニャもねる!」
ゴソゴソ……。
おふっ!?……な、何かコイツ俺の腹を枕にしようとしてるぞ!おいやめろ、こそばいだろ?
俺は必死に笑いをこらえたがちょっと耐えられそうになかったので、枕代わりに腕を差し出した。
するとターニャは俺の腕に抱きつくような姿勢になった……ような気がした。
目を閉じていたので実際どうしていたのかは分からない。
――その辺からちょっと俺の記憶が飛んだ。
そして、変な夢を見た。
――『カイトよ』
「ん?」
――『お前が落としたのは金のゴールドチェーンですか?それともすぐに伸びてしまう純正のチェーンですか?』
うわ……、この夢特有の意味不明な感じ!
俺の前に立っている泉の女神らしき女は聞いてくる。とりあえず適当に答えておく。
「いや、チェーンなんか落とさねえだろ。どんな状況だよ?あとチェーンは伸びてもタイヤの位置を後ろにずらして調節すりゃ結構長く使えるぞ」
「素晴らしい。あなたにこの強化チェーンを授けましょう――」
――?
そこで夢は終わった……、なんのこっちゃ。
「――チェーンか、そういやそろそろ伸びしろがなくなってきたな……そろそろ交換かもな」
俺は独り言をつぶやき起きあがろうとすると、腕にターニャが絡みついてスヤスヤと寝ているのが分かった。
「ふっ」
俺はターニャを起こさないようにゆっくりと腕を引き抜いてカブのメンテナンスに向かった。
そろそろストックが無くなりそうです(^_^;)