55 国からの依頼
「カイトさん、明日は朝からミルコさんを迎えに行くんですよね?」
カブがちょっと楽しそうに聞いてきた。
「そうだな、ミルコに解説するための事前準備として、今日は家に帰ってお前のメンテナンスだ。オイル交換もそろそろだしな」
「おおー、メンテナンス良いですねえー。新しいオイルも新鮮な気持ちになれるので嬉しいでーす!」
「カブはがそりん以外においるも食べるのー?」
ターニャの発言にちょっと笑った。
「はっはっ、どうなんだカブ?オイルはお前にとって食べ物か?」
汗をかいた表情でカブは答えた。
「いやー、ガソリンは確かにエンジン内で燃焼させて運動エネルギーに変えてるので食べ物と言えなくもないですが……、オイルは……そうですねー。人が着る服!みたいな感じでしょうか?」
おー、カブにしてはそれらしい説得力のある答えだな。
「ふく?ふくより芋!」
「ぶはははは!!そうだなターニャ。お前はそれでいい!」
……なんて話をしつつも、目の前にヤマッハの町が見えてきた。
ここで俺は久しぶりに寿司が食いたくなってきた。
さすがにここに寿司はねえよな、……と思っていたがふと思った。
――刺し身でいいか、カツウオみてえな魚を刺し身にして食おう!
「よし!適当に魚でも買って帰るぞ。今晩は魚料理だ!」
「おーー!さかなー!!行こう行こう」
カブのステップに乗りながらも嬉しそうにするターニャ。
「じゃあ食材屋行きますか!」
「おう」
トゥルルルルルー。
食材の露店がずらりと並ぶその場所は俺達も何度か訪れているが、まあまあ人も多い。
ま、みんな飯食わなきゃ生きていけねえもんな。
「おう、おばちゃん。刺身用の良い魚あるかい?」
「いらっしゃい。……さしみ?何それ?」
「こう……一口サイズに切って生で食うやつだよ」
「生やったらカツウオをちょっとだけ炙って食うと美味いよー」
おばちゃんは奥からすでに捌いてあるカツウオの半身を見せてきた。
そういえば、ここに来て初日に買ったカツウオは犬のバンのやつに丸一匹あげたから食ってねーな。
「おばちゃん、それくれ。買うわ」
「毎度、150ゲイルね」
俺はカツウオの半身を購入し、リアボックスに入れた。
カツウオの半身は例によって、巨大な笹の葉の様な葉っぱに包まれて売られていた。
魚にしろ肉にしろ生の食材は大体この葉っぱで包まれている。
現代のトレーの代わりというわけだ。
「昼の買い物はこれでよし。後は……、一応ギルドに行ってみよう。もしかしたら何かしら仕事があるかも知れん――」
――「あ、カイトさん。すいません、今日もお仕事ナシです……」
ギルドに寄ってまずイングリッドに言われた言葉がそれだった。
「……いつもの事か」
「……はい」
イングリッドはちょっと申し訳なさそうだったが、お前さんが悪いわけじゃねえから顔上げてくれ、と思った。
すると奥からギルドマスターのセシルが顔を出してきた。
「カイトさん、こんにちは。良いお仕事を紹介できず申し訳ないね」
セシルは表情こそあまり変化はないが、本当に申し訳ないと思っている――そういう奴だ。
俺は笑って答えた。
「気にすんな。仕事なんて無い時は無い。最近は自分で営業してボチボチやってるぜ!」
するとセシルは気になる話をしてきた。
「……カイトさんの車――カブというらしいが、あれはやっぱり長距離移動が得意な車なのかい?」
お、分かってるな。
「おう、まさにそう!長い距離を走るためのバイ……車だぜ。実際初日に配達したが、このヤマッハから一番遠いハイビム村まで往復出来ただろ?」
セシルはほんの少し微笑んでこう言った。
「……実は王都から他国へ特殊な貿易品を運ぶ仕事があるんだ、――かなりの距離があってね、カイトさんならもしかして……と思ったんだ。恐らく報酬の方も桁違いだろう」
それを聞いて俺は思わず「おおっ!」と小声で叫んでしまった。
「そ、そんな話あったんですか!?」
セシルの隣のイングリッドは驚きを隠せないといった表情でセシルの顔を見上げる。
それに答える様にセシルは話を続けた。
「今まではカイトさんの様な運び手はいなかったから、王室の輸送部隊が馬で配達していたんだ」
あ、やっぱこの世界にも馬っているんだ……。
「しかし人手も時間もかかってしまう。そこでウチのギルドに登録している配送会社で代わりに輸送してもらえないか?と依頼が来ていたんだが……他のどの配送会社も無理そうなんだ」
「それは、やっぱり距離的な問題でか?」
セシルは少し目を瞑って答えた。
「ああ、それもある。彼らは都市間を往復する大型車か町の中で細かく配達する人力車がほとんどで、二つとも山道を含んだ長距離を移動するのは無理だそうだ」
「なるほどな、俺もサガーの大型車を見た事あるけどアレで山道を走るのはまず無理だわな」
ふーっ、と少しため息を吐きながらセシルは続ける。
「あと、もう一つの心配材料として。彼らの車は故障が多いんだ。それによって配送に遅れが出る。民間の配達物なら少し遅延してもそこまで問題にはならないが、国家間の貿易品だと慎重にならざるを得ない」
ん?
「ちょっと待てよ。じゃあウチの会社『スーパーカブ』は信用出来るって事か?」
俺がそう聞くとセシルは少し慌てた様な仕草で、
「ま、まあ。その……実際にカイトさんにハイビム村まで配送してもらった実績もあるし、カブというカイトさんの車の性能も信頼のおけるものだし……それと、カイトさん本人が……その、信用出来る人……、だと感じるので……」
なんかセシルの妙にぎこちない言い方が気になったが俺とカブを信用して王都の貿易品の話をしてくれた事に間違いはない!
嬉しいぜ。
「ありがとよ、セシル!その話また明日聞きにここに来るわ。昼から夕方頃になると思うがいいか?」
それを聞いてセシルは口を開け、ちょっと動揺したような感じで笑った。
こんな顔出来たのかコイツ……、と意外に思いつつ、カブのメンテナンスの事を思い出しギルドを後にした。
――ドゥルルルルン……。
帰り道の途中、俺はカブに今の話をした。
「へー!そんな依頼が来たんですか!?凄いですねカイトさん!!」
「そうだろ?国からの依頼で報酬も桁違いらしいぞ」
「カブもおじもすごーい!!」
「ふはははは。やっぱりしっかり仕事してたらしっかり評価してくれるもんだな」
俺はウキウキしながら帰りの坂を駆け上るのだった。