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54 バダガリ農園→キルケー便


「はい!やっぱりトルク感が凄いです。もっと急坂でも行けそうですよ!!」


 運転している俺もまだまだ登坂力に余裕があるように感じる。


「おじ。この道ガタガタでおもしろい!」


 ターニャは平坦な道よりもこっちの方が好きなのか?中々にワイルドな奴だぜ。


「うっしゃー。もうちょっと飛ばして行くぜ!!」



 ドゥルルン!!



 ――ザザッ。


「よし、到着だ。やっぱりゴミの山が目につくなこの村は」


「……」


 さっきまでカブに乗ってはしゃいでいたターニャだったがここに来た瞬間静かになった。

 やはりこのキルケーに良い印象はないらしい。

 まあしょうがねえか……。


「確かフランクさんの家で送料を受け取るんでしたよね?」


「そうだな。早速行ってみっか」


 プルルルル……。



 キッ――。


 俺はこの村の代表者であるフランクの家の前でカブを停め、大きめの声で叫んだ。


「おおーい、カイトだ。バダガリ農園からの食材、持ってきたぜー」


 ガタッ、……と中で音がして、すぐにフランクは顔を出した。


「おお、カイトさん!カブさん!お待ちしてました」


 そう言うなりフランクは野菜をチェックし始めた。


「うん、うん、うん、……確かに全部ありそうですね!ありがとうございます!本来なら今日は僕がこれを運んで来なきゃいけなかったんですよ。お陰で研究に没頭できました。本当に感謝します!!」


 フランクは俺に深々と頭を下げた。


「うん、良かったぜ」


 俺はこれで1500ゲイル稼げるのは中々に楽なんじゃないかと内心思った。


「カイトさん、こちら送料1500ゲイルです」


「毎度!1500ゲイル確かに受け取ったぜ。それとよ、一つ提案があるんだが――」


「はい、何でしょう?」


「ヤマッハからここに運びたいモノってあるか?あったらそれ、俺が運ぶぜ。どうだ?」


 それを聞いたフランクの表情がまたパッと明るくなった。


「え!ヤ、ヤマッハの買い物まで引き受けて頂けるんですか!?」


「ああ、元々俺はヤマッハからバダガリ農園まで行って野菜を引き取ってここへ来てるんだ」


「あ……そうだったんですか」


「どうせなら最初にヤマッハで買い物してここに運んで、それからバダガリ農園に行って野菜を引き取ってまたここに運びたい。その方が無駄がないだろ?」


「ああー、なるほど!確かに一往復で運ぶ荷物は多い方が効率良いですもんね!」


 俺もニヤリとしてうなずいた。


「分かってるじゃねーか」


 フランクはちょっと考えてこう言った。


「実はヤマッハで欲しい物資はヤマッハに住んでいる僕らの関係者の方が購入してくれてます。カイトさんにはそれを運んで貰えればと思います」


「よし分かった。自分で買い物しなくて良いのは正直助かるぜ!」


「まあ頻度も量もバダガリ便に比べて少なくかつ不定期になると思いますが、運んで貰えると非常に助かります」


 ――なるほど、やっぱりそうか。じゃあ、ここから値段の交渉だ。


「不定期で量も少ないとなるとヤマッハ便はバダガリ便ほど送料低く出来ねえぜ?」


 フランクは苦笑いをして答える。

「まあそうでしょうね……いくらぐらいですか?」


「2000ゲイル」


 そう言うとフランクは意外そうな顔をした。


「あ、意外と……いや、何でもないです!じゃあそれで!!」

「今意外と安いって言おうとした?」

「いえいえ、とんでもない……ハハ……」



 ……というわけで俺達は今後バダガリ→キルケー便の他に、ヤマッハ→キルケー便も配送する事になった。


 ここで俺は思い出した。



 あ……そうだ。この時俺はダンボールの事を思い出した。


「なあフランク。野菜やらを配達する時に()()()使()()()()があったら便利だと思わねーか?」


「手軽に……ですか?そりゃまあ良いと思いますけど――」


 俺は軽く世間話程度にダンボールの仕組みを話そうとした。



()で箱を作ったらどうだ?」



「え?か、紙!?……あのペラペラの紙ですかあ??」


 フランクは眉をひそめて微妙な反応をした。

 あ、こいつ紙の凄さ分かってねーな。実演してやる。


「おう、何か紙持ってるかい?」


「え?あ、はい」


 そう言ってフランクはメモ帳を切り取って俺に渡してきた。

 俺はそれをダンボールの真ん中の波のような形に折り曲げ、それを普通のペラペラの紙で挟んでみせた。


「この形だ。この波型の紙を別の紙で上下から挟んでノリ付けするとな、紙のくせにカボチャを5〜6個入れて持ち運べるような箱が出来るハズだ。キルケーの奴なら誰か作れるんじゃねーか?」


 フランクは最初は俺の作った工作品をちょっと馬鹿にしたような目で見ていた。


 しかし、そこはやはり発明家というか研究者だけあって、その紙の可能性を感じ取ったのか、色んな角度から眺めたり軽く押さえたりしている。

 その目は真剣そのものだった。


 それを見て、何となく俺は気分が良くなった。


「へえ、……これは……力が分散されて上からの重量物に耐えうる構造になるかも……へええー……いやー、コレ……。カイトさん!」


 突然フランクは大声で俺をの名を呼んだ。


「これ、凄いかも知れません。ちょっとこの村の紙の研究家の人に持って行っていいですか?」


 俺は笑って答えた。


「はっはっは。この紙の凄さに気づいたな?是非持っていってやってくれ。俺もそのつもりで作ったんだ!」


「分っかりました!じゃまた!」


 そういうとフランクはどこかへ駆け出して行った。早っ!!



「……なんかいかにも発明家っぽい動きでしたねカイトさん」


 カブがちょっと笑いながら話してきた。


「ああ、興味持ったら即調べる。このスズッキーニの将来は明るいかもな」


「ねー、カイトおじ?」


 突如それまで黙っていたターニャが口を挟む。


「もう帰るー?」


「お、おう、そうだな……一応、話すことは全部話したし。よっしゃ。帰るか!」


「ういーー!」


 元気を取り戻したターニャはササッとカブのステップに登り、シートの前の部分に尻を乗せ俺を手招きした。


「はは、よっぽどその席が気に入ったんだなお前」


「うん、ここ乗るの楽しー!」


「喜んでもらって僕も嬉しいです!」


 カブもタブレットに笑顔を貼り付けている。


「じゃあ今日んとこは一旦帰るかー」


 俺は再びターニャと同じシートに乗りアクセルをひねる。


 プルルルル……。


 帰りの道でカブを運転しながら俺は考えるのだった。


 少ないながら安定収入ルートは確保出来た。こういう得意先をこれから増やしていくぞ!


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