53 カブを○○りたい!?
「ぶっちゃけ僕もお金のやり取りはしっかりした方がいいと思ってます。ちゃんと仕事してその対価に給料をもらう。その方がお互い安心して働けます……ただ個人的な話ですが――」
ミルコの表情は真剣なままだ。
「僕にとって、カブ君について知る事は金銭のやり取り以上に大きな意義がある……っていう予感みたいなものを感じるんですよ」
んー、なんかそれっぽい言い方だけど……。
「要するに、カブをイジりたいって事でいいか?純粋な好奇心で」
俺がそこまで言うと、ミルコはやっといつもの軽快な笑顔に戻った。
「いやー、そうなんすよねー。……でもカイトさんの大事な商売道具であるカブ君を、興味本位でイジらせて欲しいとは言えなくてね……」
あーなるほど。
「うん、ミルコ。分かるぞーその気持ち!お前いつ仕事休みだ?」
「え!?……あー、明日の昼過ぎまでは自由っすけど。……カイトさん、も、もしかして!?」
ミルコは俺に何かを期待するように前のめりになって話しかける。
「じゃあ明日の朝、ここで待ってな、迎えに来るからよ。そんでウチの家まで一緒に行って存分にカブをイジらせてやるよ!そのかわりカブの事はあんまり周りに言わんでくれ。注目されるのが嫌なもんでな」
「うおおおおおおお!!マジっすか!?ありがとうございます!!……でもカブ君本人は良いんですか?勝手に話を進めてますけど?」
俺はカブの方をチラッと見ると、
「あ、よろしくお願いします。ミルコさん!僕、メンテナンスされるの実は好きだったりするんですよ!」
と、ちょっと照れたような表情をしていた。
……そういや思い出したけどコイツ、スプロケ交換の時なんかニヤニヤしてやがったな。
まるでマッサージを受けてる人間みてえに。
やっぱコイツ中身人間だろ?
――「じゃあまたー!明日の朝待ってます!!」
「おーう!またなー!」
ミルコは元気に手を振っていて、俺とターニャも手を振り返した。
――トゥルルルルルルルー……。
それから俺達は何度か通ったバダガリ農園への平坦な道をひた走って行った。
「しかしお前人気あるじゃねーか」
「カブ人気ある!えらい!」
ターニャもなんかカブを褒め称えている。
「い、いやー。そりゃあ僕には――燃費の良さ、価格の安さ、車体の軽さ、カスタムの楽しさ、壊れにくさ、可愛らしさ、エコロジーさ……などなど、様々なメリットがあると自負していますが。あまりに褒められ過ぎると照れますねー、はっはっは」
「CBRみてえなパワーはねえけどな」
「あ、あんなスピードを追い求めたSSバイクとは使用目的が違うじゃないですか!……」
「まあな、あとタンク容量が小さいってのはあるなー」
「うっ……、そ、それは燃費でカバーですよ!」
「あとシートの硬さや単気筒ならではの振動とか、まあ欠点なんてどんなバイクでも言い出せばキリがねえわな」
「そ、そうですよ!バイクにはそれぞれ個性がありますからね。自分の好きなバイクに乗れば良いんですよ!」
「まあ、同感だ」
――プルルルル、ガチャガチャン。
俺達はまた、バダガリ農園のいつもの場所にやってきた。
ドッドッドッドッド……。
遠くから耕運機の音が聞こえてくる。それに乗っているのはもちろんバダガリだ。
ひとまず呼んでみる。
「おーーい、バダガリー!!来たぞーー!!」
すると俺の大声にさらに輪をかけたようなデカい声が返ってくる。
「おー!カイトさんか。今行くー!!」
ダッシュでこちらに駆け寄ってくるバダガリ。あっという間にこちらに到着した、速っ!
「うーっす!」
「おう!昨日ぶりだな」
早速俺は野菜の配達を請け負った事を話した。
「ははっ、やっぱりキルケーの奴らカイトさんに頼んだか」
「ああ、かなり感謝されたぜ。ところで運ぶ野菜とか小麦粉はどこにあるんだ?」
「お、それなんだが、キルケーに続く山道があるだろ?そこの出発点の所に小屋があるんだ、その中にまとめて置いてる。多分、量的にその荷車で全部積み込めるだろう。俺がいない時は勝手に持って行ってくれ」
「分かったぜ!ありがとよ。お前さんの方はどうだ?やっぱり景気は良いんだろ?」
「ふはははっ!ウチの畑はいつでも絶好調だ!!カイトさんよ。アンタが持ってきてくれた軽油のおかげでめちゃくちゃ仕事が捗ってんだ。感謝してるぜ!!」
俺はちょっと嬉しくなり自然と笑顔になった。
「そうかそうか。お役に立てて何よりだ。ここへは3日おきに来るから軽油また欲しくなったら言ってくれ。じゃあまたな!」
「おう、また!」
「さようなら!バダガリさん」
「バダガリ、ばいばーい」
俺達はすぐさまバダガリの言っていた小屋まで走り、荷物の確認をした。
「おお、結構な量だな!」
そこにはキャベツ、きゅうり、カボチャ、ほうれん草などが積まれていた。
「おおー、おじ!カボチャがある!カボチャ!!」
ターニャはカボチャに興奮しているようだ。さすが芋好きだな……あれ?カボチャって芋だっけ?
……まあいいや。
「おうターニャ。このカボチャから荷車に積んでいくんだ。次にキャベツ、きゅうり、ほうれん草の順な」
俺がそう助言するとターニャは冗談みたいな事をした。
ゴッ……!
なんとカボチャにヘッドバットをかましたのである。
「かたーい!」
とか言いながら頭を押さえている。俺は爆笑した。
「ぶはははは!いや、そら堅いだろ!あはははは。しかし何も自分で確かめんでもいいだろうに……」
「……うん、でも堅いけどおいしい。それが一番大事」
「お、おう、そうだな。よし、どんどん積み込んでいくぞターニャ!」
「おー!」
ゴトッ、ゴトッ……。バサッ……。
最後にほうれん草を積み込み上から皮のシートを被せて準備完了だ!
ここで俺は荷物を積み込んでいてふと思った。
――この世界、まだ段ボールってねえのかな?
せっかく発明家の村に行くんだ、段ボールのアイディアを誰か興味ありそうな奴に話してみよう。
構造は簡単だし、こういう野菜の入れ物に使えると分かればアイツらはもちろん、色んな奴が喜ぶだろうしな。
――ドゥルルルルー……。
俺はカブのアクセルをひねり、ゆっくりと加速させていった。
ターニャは本人の希望で俺の前に立って乗っている。
「カブ、だいじょぶ?重くないー?」
ターニャがカブを労っている。優しいじゃねーか。
「ご心配ありがとうございます。今の所大丈夫ですね!運んでいるのが野菜なので。軽油タンク8缶満載の時より大分軽いです!」
「スプロケも純正に戻したしな!」