52 新入社員!?
知ってる奴から聞いてみよう。
「バダガリは何で王室に招かれたんだ?」
「それがかなり面白いんスよ!」
俺は興味津々でミルコの話を聞いた。
「元々あの人、コンロット山の麓で畑仕事してたらしいんスけど、猪に畑を荒らされたのが原因で猪を倒すために身体を鍛えまくったらしくて――」
「ぶふっ……」
俺はちょっと吹き出してしまった。
「で、猪を倒したら次は熊が出てきたみたいでまた鍛えに鍛えて……そうこうしてるうちに熊も倒せるようになっちゃって――」
「やっぱバケモンじゃねーかアイツ……」
俺はバダガリのめちゃくちゃ加減に引いた、いや普通に凄えんだけども……。
「その噂を聞きつけた王室の警護隊がやってきて隊にスカウトされて――」
「ああ、そういやアイツ王室の警護隊長やってたとか言ってたなー」
「その後は色々あって辞めちゃったけど王室から大金と共にあの広大な畑を貰ったらしいっすわ」
それでか、あの若さであれだけの畑を持ってるのは!
しかし普通の人間には絶対に真似出来ない。
「バダガリについては分かったぜ。もう一人の『エマ』って奴は?」
「あの人もかなり変わった人ですねー。簡単に言うと発明家なんですが……」
「発明家!?……」
俺は昨日も聞いたその言葉に反応した。
「はい、かなり珍しい職業です。しかも女性!」
「そのエマって女は何を発明したんだ?」
「ロール紙とペンです!」
え……紙とペン!?な、なんか地味じゃね?
俺は一瞬そんな風に思ってしまったがすぐに思い直した。
「地味な発明に聞こえるけど、王室に招かれるって事は凄えんだろうな……」
「はい!コレ、めちゃくちゃ凄いです!!彼女の発明で事務作業が10倍早くなったと言われてますから!革命的な発明ですよ」
「へー!」
「均一な厚さで、薄くて、大きくて、大量生産が可能な紙!それとペンはペン先を特殊な構造にする事によって、いかなる環境でも紙に文字を書く事が出来てインク漏れもないっていうね……あ、ちなみに今僕が持ってるコレです!」
ミルコは俺にそのペンとメモ帳のような紙を渡してくれた。
ペンは金属製なのかやや重たかったが、書き心地は現代のボールペンみたいな感じだ!
紙の方も現代のざら半紙(学校とかで配られるプリント用紙)みたいだった。
「す、凄え……!」
俺は正直感動した。
エマって奴、この世界でこれ程のクオリティの筆記用具を生み出したのか……。
「ふっ、ははっ!」
俺は凄いものを見たりすると思わず顔がニヤける癖があるのだ。
「カイトさん?」
そんな俺を見て、ミルコが不思議そうに尋ねる。
「おお、すまん。ちょっと感動してたわ。そうそう、発明家っていえばキルケーっていう発明家の村に配達する事になったんだ。バダガリ農園の野菜を3日おきでな」
「ええっ!?マジっすか!?カイトさん、それならウチで軽油買ってキルケーの人に売って下さいよー!」
「俺も出来ればそうしてぇよ。まあついでに聞いてくるつもりだ。もしかしたら納品してくれって言ってくれるかもな」
そんな話をしていたらミルコが面白い事を言い出した。
「……思ったんすけど、カイトさんってかなり稼いでるんじゃないですか?」
ギクッ……!
「そ、そ、それ程でもないぞ……」
そして次にミルコはストレートに核心をついてきた!
「僕が思うにあのカブっていうカイトさんの車が……凄く優秀なんじゃないかと思うんですよね」
ぎゃあ……やめろミルコ!
それ以上突っ込んで来るんじゃない。
「しかもカブ君、言葉喋れるでしょ?喋れる車なんて聞いた事もないっすよ!ははははっ」
あれ?何でコイツ、カブが喋れる事知ってるんだ??と一瞬思ったが、最初にここに給油しに来た時カブのやつ、
『軽油はだめですよー!』
――って思いっきり言葉を発してたわ……。おまけに自分の意思でホーンまで鳴らしてたしな。
――俺は考えた。
この給油所はこの先もずっと来る事になるだろう、そしてこのミルコとも頻繁に顔を合わすだろう。
ずっとカブを謎の存在にし続けるのはしんどいな………………。よし、このパターンでいこう!
「おうミルコ、驚くかもしれんがコイツは精霊なんだ」
「ええっ!?どう見ても機械なんですが??……」
「そうだ。元々はスーパーカブっていう車の一種で喋る事も出来なかったんだ。しかしある時精霊がカブに乗り移り……同時に俺をこのスズッキーニ王国へ勝手に転移させたんだ」
「ええ……??」
ミルコは信じられないといった顔をしている。
――プルルルル……。
そこへカブがやってきた。
「はい、今カイトさんが言ってた通りです!」
カブの顔は真剣だった。
対するミルコは悩ましげに苦笑していた。
「いやー、カブ君。野暮な事言うみたいだけどそれって誘拐じゃないか?」
「ズコー!……」
タブレット上で自分がスリップする様子を映すカブ。おお!今までで一番のハイクオリティだ!!
「ち、違いますよー!誘拐は悪意があってする事ですが、僕は善意しかないんですよ!」
「ま、まあ確かにコイツは悪いやつじゃねえぞ。おかしな奴ではあるがな」
「カブは良いやつー!」
ターニャもニコニコして同調してきた。
ミルコはなんか微笑みながら俺達を見ている。
「ふふ、いいなあ……」
「どうした?」
「いやー、なんか皆平和で良いなーと思いましてね……ところでカイトさん?」
ミルコは急に真面目な表情になって何か聞いてくる。
「僕を雇ってくれませんか?」
俺は耳を疑った。もう一度聞き返してみる。
「え、雇ってくれって……ミ、ミルコ。それは俺の会社『スーパーカブ』の社員になりたいと言っているのか!?冗談だろ?」
「いえ、本気です」
ミルコの顔は、普段からどことなく薄い笑顔が張り付いているのだが、この時の顔は超が付くほど真剣だった。
俺は戸惑いつつもキッパリ拒否しておく。
「バカ言うな!現状、俺自身とターニャが食っていくだけで精一杯なんだぜ?その上社員に給料払うなんて出来る訳がねえ!」
するとミルコは、
「ぶっちゃけ給料は要らないっす。僕はカブ君に興味があるんで!」
ええーっ??……いやいや、それもダメだろ!?
「俺は無給で働くのも働かせるのも大っ嫌いなんだ。頼む、考え直してくれ!」
それに対するミルコの返事に俺は少し感動するのだった。