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514 再出発まで


 ――ガラガラガラ……。


 そのギガーブのギアボックスからは依然として異音が響いている。こりゃあダメだ。


「さすがにギアなんてこの場で交換できる訳ない……よな?」


 俺がビスマルクを振り返って尋ねると、ビスマルクは非常に渋い表情を浮かべて天を仰ぎ、そして少し冷静になって俺の方を見た。


「…………無理だな、残念だが。このギガーブはもう動かん。ここに置いていく!」


 それを聞いて俺は「おっ」と思わず声が出てしまった。

 ビスマルクのことだから、この動かないギガーブを引っ張って行くぞ!なんて言い出だすかと俺はヒヤヒヤしていたのだ。

 あ、もちろん俺も置いていくべき派だ。


 ここで、団員の一人がやや焦ったようにこんな声を上げた。


「し、しかしビスマルク副長。ギガーブを置いていくということは、その、荷物はスーパーカブ油送に……!?」


 ビスマルクは俺の顔をまっすぐ見据えてコクリと頷く。


「そうだ、彼らに運んでもらう」


「そ、そんな……出発前、ジクサール様の御前で、『我々だけで十分です!』とあれほど訴えたというのに……なのに彼らの手を借りるというのですか!?は、恥であります!!」


 先程の団員は悔しそうに眉をしかめて反対意見を述べる。コイツらエリート意識高えなやっぱり。


 しかしビスマルクは団員達に反論した。


「ではどうする?その荷物を残りの3台のギガーブに積んで運ぶか!?そんな過積載状態で走って他のギガーブのギアまで壊れたら元も子もあるまい。目的を間違えるな、我々は輸送団だ。安全かつ迅速に目的地まで荷物を運ぶことが何よりも優先されるのだ!ジクサール様はこういった事態を想定して、彼らと同行せよとおっしゃられたハズだ、違うか!?」


 団員達はビスマルクの言葉にざわつき始め、やがて頭を下げた。


「し、失礼しました副長!」

「我々の存在意義を見誤っておりました」

「私もです。あくまで我らは輸送団でありました!」


 団員達からは口々に反省の弁が発せられる。おー、さすがにやるなぁ。

 続けてビスマルクは団員達に指示を出した。


「よし、じゃあ故障したギガーブから荷車を切り離せ!あとはカイト社長の指示に従うように」

「はっ!」


 やがて団員達の手によって不動のギガーブに繋がっていた荷車が切り離された。


 ――ドコドコドコドコ、パルルルルッ!


 それを見て、待ってましたとばかりに坂の下からミルコのセローとガスパルのアフリカツインがすり抜けてくる。


「俺らの出番っすね!?」

「っしゃー、やるぜカイトォ!!」


 二人とも良い顔してるな。



「ミルコ。セローで引っ張ってこの不動のギガーブを道の端に避けといてくれ。他のバイクと荷車が通れるようにな」

「了解っす!」

「ガスパルはギガーブの荷物の3分の1ほどをミルコのセローの荷車に積んでくれ。残りはお前が引け。多分過積載にはならんだろう、頼むぜ大型のアフリカツイン」

「っしゃー!任しとけ!」



 そうやって指示を出したあと、ビスマルクが近づいてきてボソッと耳打ちした。


「カイト社長。少し、よろしいかな?」


 黙って小さく頷く俺。

 ビスマルクは現場から少し離れたところへ歩いていき、俺は黙って後に続いた。


 ここで俺はあえて気付いてないフリをしていたが、もう一人こっそり俺とビスマルクの後をつけている奴がいる。


 ターニャだ。


 最近大人同士の会話に興味が出てきたらしく、ターニャはこういった場面になると必ず同席して真剣に話に聞き入るようになっていた。


 しかし今回は俺達の妙な空気を察してか、木陰に隠れて聞き耳を立てていやがった。

 スパイみたいなことしやがって、はは。

 俺が含み笑いを浮かべていると、ビスマルクは軽く頭を下げて話を切り出した。



「カイト社長、申し訳ない」


 初手謝罪ときたぞ……そんな謝られるようなことあったっけ?


「正直、部下にああ言った手前恥ずかしい話だが、私も今回の貿易輸送に出る前まで、あなた方の助けなどいらないと思っていた」


 ああ、そんなことか。俺は軽く笑顔を返した。


「へっ、特に気にしてないぜ?そんな細かいこと」


 しかしビスマルクの顔は真剣だ。


「今回の件で思い知ったんだ。やはり経験者の意見は聞いておくべきだと」

「まあ……な、これでも5年間ずっとバイクで物運んでたからよ。経験は豊富っちゃ豊富だぜ?」

「感謝する。あと、我々の面目めんもくを気にかけてくれたことも重ねて礼を言いたい。ありがとう」

「はは、気付いてたのか……お前さん、結構神経細かいんだな」


 俺はやたら感謝されてしまい、逆にいたたまれない気持ちになって照れ笑いした。


「まあ感謝ならジクサール公爵様にしてくれや。俺もあの人にはいろいろと助けられたんでな」


「ふむ、合理的な方だからな。カイト社長と気が合うんだろう。だが合理的すぎて、切るときは容赦なく切ってくる人でもあるが」


 俺は肩をすくめて少しおどけてみせる。


「切られたくはねーけどな!」

「間違いない!はっはっはっはっ」


 ビスマルクも良い感じに笑った。コイツの屈託のない笑顔って初めて見た気がするぜ。



「おじ、お疲れ様!ういーー」


 和んだ空気を察したターニャが割り込んできた。俺は軽く頭を撫でてやりながら言った。


「お前、隠れてちゃっかり話聞いてやがったな!?」

「勉強だよ。政治の!」


 ふっ、言いやがって。スパイの間違いじゃねーか?



「おおーい!準備できたぜカイトォ!!」


 ガスパルの声が聞こえてきた。うん、戻るか。


 現場に戻ってきて少し驚いたのだが、なんとエルドが荷車の荷物の上に登っていたのだ!



「お父、お姉、僕も手伝ったんだよー!偉いでしょー!?」


 汗を流しながら、荷車の上でブンブンと手を振るエルド。おっほ、コイツはコイツで活躍してるじゃねーか!


「おう頑張ったな。偉いぞエルド」


 と、感心したのも束の間、次の瞬間エルドはアホな行動を取る。

 なんと荷車の上からファギュアスケートのジャンプのように飛び降りたのである。


「うおおおーかいてん飛び降りぃー!!どりゃっ」


 ――ドシャッ!


 そして案の定着地に失敗して地面に叩き付けられ大泣きするエルド。


「わあああああん!!」


「な、何してんだよお前!?」


 俺はそんなエルドを慌てて抱き抱え、そして思った。



 ターニャと子育て難易度違いすぎじゃね?

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