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513 トラブル?上等だ!


 俺は一旦カブを停めて、前を走っていたビスマルク達の列に歩いていく。


 後ろからエルドとターニャもついてきた。


「なになにー!?お姉なにが起きたの??」

「多分ギガーブが動かなくなったんじゃない?」


 俺の後ろからエルドとターニャが呑気な会話が聞こえてくる。

 コイツら(特にエルド)はまるでピクニック気分だ。

 ま、お前らは楽しめるウチに楽しんどけ。



 ――ザリザリザリッ!


 現場に着くと案の定スタックしていた。後のタイヤが空転してやがる。


「いけるか?」


 俺は現場で後ろから車体を押そうとしているビスマルク達に声をかけた。

 するとビスマルクはやや強がったように答える。


「も、もう少しだ……輸送団の皆で押せば何とかなる!手出しは無用だカイト社長」


「そうか、じゃあ見とくわ」


 ビスマルクの言う通り、もう少しでタイヤが地面のぬかるみから抜けれそうな感じだった。


 エルドが興味津々な顔でタイヤと地面を見つめている。

 ……そうだ。エルドにはいろいろなトラブルを見てもらって、長距離輸送の現実を知ってもらおう。ためになるだろうし。


「おじ、こういうときってギガーブの後タイヤに荷重をかけるために、車体の後の方に重い荷物を乗せれば良いんじゃなかった?」


 そう尋ねてくるターニャに俺は軽く微笑みを返す。


「おう、そうだな!基本的にパワー不足じゃなけりゃソレでいけるハズだ」

「助言してあげないの?」

「んー、向こうも面子があるしな。いきなり俺があれこれ口出すのは違うというか、奴等に自分達で気付いてもらいたいんだ」


 するとターニャは唇を尖らせやや不満げな顔で呟いた。


「ええ!?そんなの、効率悪い……」


 もっともだ。俺もたしかにそうは思いながらも、ターニャにはこう返しておく。


「別に急いでないしな。それとあのビスマルクって奴、何となくプライド高そうだからよ、ああいうタイプと正面から対立すると面倒になる場合が多いんだよ。なるべく円滑に事は進めたい」


「……ふーん。まあ、おじがそう言うなら、いっか!」


 ターニャは納得したように笑顔になった。



 さて、肝心のスタックの方だが、奴等が脳筋なのか無様な姿を晒したくないという焦りからなのか、なかなか()()()()()という発想から抜け出せないでいた。

 さすがにちょっと時間かけすぎだぜ。


 俺はビスマルクのすぐ側で、奴だけに聞こえるように小声でそれとなく呟く。



「うーん、こりゃあ後ろから押すよりも、タイヤが空転しないように上から押さえつけた方がいいかもなー」



 ビスマルクはその呟きにハッとして、団員に号令をかけた。


「そうか……!おい、誰か車体の後ろに乗ってみろ」


「り、了解です副長!」



 ――ダララララーーッ……。


 ギガーブは団員の一人を後部に乗せ、ゆっくりとエンジンを唸らせていく。やがてその後タイヤは地面の土をしっかりと噛みしめ、少しずつ()()を始めた!


「おおっ!」


 ギガーブが前進してゆく。うんうん、俺達スーパーカブ油送にとっては幾度となくやってきた処置で新鮮味はないが、問題が解決した時ってのはやっぱり気分がいいぜ。


「やった!!」

「やりましたねビスマルク副長!」


 ビスマルクは少し複雑な表情を浮かべたのち、皆に気を引き締るように指示を出した。


「……あ、ああ。だが油断するな、また柔らかい地面を通ったら空転するかもしれん。荷物の置き方を変更するぞ!」

「了解!」

「了解!」



 その一部始終を見ていたターニャは不満そうな顔をしていた。俺の手柄を横取りされたみたいで気分が悪いようだ。


「本当はおじが提案するハズだったのに……」

「はっはっは。いいんだ、そんな小せえこと気にすんなターニャ」


 ま、俺を応援してくれんのは素直に嬉しいぜ。ありがとな。



 一方ミルコやガスパルに目をやると、退屈すぎてやや気だるげな雰囲気を醸し出していた。


「なんか今回、俺ら暇すぎるんスけど……」

「ああ、これじゃホントに奴らに付いていってるだけじゃねえかよ。張り合いねーぜ」

「まあそう言うな。この先何かもっと深刻なトラブルが起きるかも知れねーだろ?」


 もちろん俺は冗談半分でそう言ったのだが、本当にその深刻なトラブルに見舞われてしまうのだった……。




 それは夕方近く、山際がほのかに朱色を帯び始めた頃だった。


 ゼファールへの旅路は順調で、距離的には300キロちょい……ゼファールまであと3分の1といった辺りの緩やかな上り坂でそれは起きた。


 ――バキン!!


 隊列の先頭はビスマルク。そしてそのすぐ後ろに付いて走っていたギガーブから、異音とともに乗り手からも叫び声が発せられたのだ!


「うわああっ!!」


 その声はかなりの声量で、後ろを走っていた俺達の耳にも入ってきた。

 異変に気付いた輸送団の団員たちはすぐさま動きを止め、2番目のギガーブの様子を伺いに行く。


 俺も最後尾のミルコにも見えるように合図を送った。


「え!なんすかなんすか!?」

「どうしたカイトォ!?」


 なぜか楽しそうな顔のミルコとガスパルを連れて現場に向かった。あ、子供二人は自動的にくっ付いてくるぞ。エルドなんかスキップしてやがるな。



 しかし、現場を見て思わず俺は「こりゃマズいな!」とうなった。



 その2番手のギガーブというのは輸送団のギガーブの中でも特に重たい荷車を引いていて、一番車体の負荷が大きそうだった。


 なんとそのギガーブのギアボックスからは、歯車がボックス内で衝突するようなカラカラという金属音が聞こえてきたのである!


「こ、これ……ギヤが割れてるんじゃね!?」


 さっきまで楽観的だったミルコも、険しい顔でギアボックスを見つめている。


「多分……ギアの歯が欠けたとかじゃなくて、1速のギア自体が割れて丸ごと吹っ飛んでる感じっすね……いやーこれは動けないっすよ!」


 しかしそのギガーブに乗っていた団員の口から、さらに悪い情報が飛び出す。



「そ、それが……1速以外の全てのギアにも噛み合いません!なので、全く前に進みません!!」



 こりゃあちょっと、本格的にマズいかもしれんな。


実は「Hand Man」という名前でカブのyoutubeチャンネルやってたりします(*^^*)

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