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512 任せるぜビスマルク


 朝だ。やっと日が昇ったあたりの薄暗い早朝。いよいよゼファールへの貿易輸送の日がやってきたのだ!

 ……といってもゼファールは何回も遠征している国だし物資の輸送自体は慣れたものでほぼ心配はしていない。

 だが今回は輸送団と合同で走る。ここがいつもとは違う。



 ――ドゥルルルルーッ。


 家で準備を済ませ、今はターニャとエルドを連れて本部へと向かう山道を下っている。



「うひょーっ、楽しみだなー!!」


 エルドが緑カブに乗りながら、少年らしさの塊のような目をして叫んでいる。


 俺は呆れ混じりの笑いを浮かべてコメントした。


「エルド、お前はカブで遠距離乗るの初めてだから知らんだろうが、ずっとそんな楽しい状態は続かねーぞ?最後の方なんて死ぬほどケツが痛くて早く降りてえー!って叫びたくなるハズだ」


「えー!?そうなの?僕お尻痛くなったことなんて一回もないよ……お姉は!?」


 ターニャは自分の経験を思い出すようにエルドに話した。


「んー、私もない……カブは乗ってるときより荷物を積んだり下ろしたりしてる時が一番しんどいよ。アレはキツい!」


 ははぁなるほど。


「あ、分かったぞ!多分お前ら体が軽いから負担が少ねえんだ!俺は大人で筋肉質だから上半身の筋肉の重さが全部腰や尻にかかってくる。だから痛むんだよ!」


「カイトさん!筋肉を強調してますけど脂肪の存在を無かったことにしてませんか!?」


「おまっ、うっせーなカブ!最近ちょっと気にしてんだぞ?」


 俺は左手で自分の腹を摘んでみた。

 うそっ!?ちょっと肉が厚くなってる気がする。マズいかもしれん……!?



 などと、貿易輸送の当日とは思えないほどゆるーい空気の中、俺達三人は本部に到着した。


 するとヤマッハ住みのミルコとガスパルがすでに来ていた。


「おはようございます。カイトさん」

「はよーカイト!エルドも今日は手伝いか!?」


「うん!今日は僕もカブで荷物運ぶよガスパル!」


 エルドがポーズを決めながら張り切って答えているが、お前はまだ早い!空の荷車を引くだけだ。



 ウチの他のメンバーはメッシュとシャロンの兄妹を入れて合計5人。あ、エルドはもちろんまだ子供のターニャも当然ながら正式なメンバーではない。

 あとは、これからギルドで合流する王城の輸送団達。

 当然奴らも荷物を運んでくれるだろうから、ウチは5人でも多すぎるぐらいだ。


 荷物に関しては、どちらがどれぐらいの荷物を運ぶのか?といった打ち合わせは一切なかった。

 ちゃんと連携取れるのか少々不安だな。まあ普通にやれば何とかなるだろう。



 俺はカブを横目でチラッと見て、思い出した。


 カブはウチの仕事が輸送団に奪われるなどと危惧していたが、貿易は一応国の事業なので彼らに任せるのが本来正しいのだ。


 たまたまウチのバイクが高性能すぎて、ジクサールにしばらくその役を任されていたにすぎない。

 王城が独自に開発したバイクで輸送ができるというなら、こちらから文句を言う気は一切ないし、その権利もないハズだ。


 それに、この5年間でウチの会社の資金はかなり貯まってきている。

 具体的に言うと4000万ゲイル(2億4000万円相当)以上で、もう金のために無理に貿易輸送にしがみつく必要もないのだ。


 だから今回の輸送団の介入はいつかはあるだろうと思っていたので、俺はある種の納得感があった。



 そしていよいよ全員がバイクに荷車を付けて本部を出発する。


 やはりミルコはセロー、ガスパルはアフリカツインだ。

 誰かのバイクがスタックしたりと、大きなパワーが必要な場面で頼りになるぜ。



「よっしゃ!行くか」


「おーーう!」



 ……。



 俺達がギルドの別館に着くと、すでにビスマルク達輸送団の連中は荷車に荷物を積みこんでいた。おお!やる気十分だな。


 早速俺はギガーブに跨っていたビスマルクに声を掛けた。


「おっす。今日はよろしく頼むぜ!道は知ってるだろうから隊列の先頭はそっちに任せていいか?」


 するとビスマルクは白い歯をのぞかせ強い言葉で自信満々に答える。


「もちろんだ。我々はここからゼファールへのルートも熟知している。ギガーブの整備も燃料も抜かりはない。そして荷物は全てこちらに任せてもらおう。いずれは全て我々が担うのだから。ゆえにカイト社長、今回のあなた方はただ後ろから付いてくるだけでいい!」


 ビスマルクの頼もしい言葉に俺は思わず笑みがこぼれた。

 そうそう、前に聞きそびれたことを聞いてみよう。


「なあ、このギガーブって燃費どれぐらいか分かるかい?」


「……ふむ、燃費か。ピエール殿に、カイト社長に聞かれたらこう答えてくれと言われた通りに答えるが、同じ距離を走るのにカブの12倍の燃料がいるとのことだ」


「じゅ、12倍!?」


 ってことはリッター6キロぐらいか!!予想通りだがなかなかの極悪燃費だ……。

 俺はまた横目でカブを見た。


「ふぅぅぅぅぅぅぅーーーーっっっっ……」


 するとカブは大きなため息のテキストとともに、タブレットの縁に沿って鼻を天狗のように伸ばしていた!コイツめ、案の定勝ち誇ってやがる。



「まあでも燃料は相当持ってきてるんだろうし心配はねえよな?」


「ふふっ、当然だ。ギガーブの燃料タンクはカブの10倍!さらに今回出動させた車両は全部で5台だが、そのうちの1台は丸ごと燃料を積んでいる。燃料切れなどあり得ないのだ!」


 なるほどな、安心したぜ。


「了解だビスマルク。じゃあ俺達は後ろから付いていくわ!」



 というわけでビスマルクを先頭に俺達一団はヤマッハギルドを出発した。


 ――ダララララララララーッ、ダララララララララーッ、ドゥルルルルーン、ドコドコドコドコ、パルルルルルッ!



 俺達の前を走る輸送団のギガーブは、力強い走りで大きな荷物を載せた荷車を引っ張っていく。

 そしてヤマッハの市街地を抜け、やがて山道へと入っていった。


 順調だなこりゃあ――そう思っていた矢先に先行のビスマルク達の足が止まる!


「おいおい!大丈夫か!?」

「に、荷物を下ろすぞ!」



 ん?なんだ!?


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