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510 輸送団


 王城の輸送団に貿易輸送を任せると、その期間中輸送団の武力(騎士や兵士)が国内に不在になるので、国としてはできるだけ俺達のような外部の信頼できる人間に任せたい。


 ――そういう話だったハズだがな。


 俺が不思議に思っていると、ターニャが輪に入ってきた。


「でも、おじは王城から何も言われてないんでしょ?いきなり輸送団と交代させられることはないハズだよ絶対。おじはジクサール公に信用されてるから!」


 自信ありげな顔でそう言ってくるターニャ。コイツは最近、社会情勢に興味を持ち始めて俺にもハッキリと意見を言うようになってきた。

 どうやら政治家を目指すってのは伊達じゃなさそうだな。


 一方エルドはギガーブの周りを踊るように見回している。コイツは年相応だ。


「ま、俺もそう思うけどな」

「僕もです!お役御免だなんて言われたら悲しすぎますぅー!」


 一旦ヤマッハギルドでセシルに聞いてみっか。大丈夫だと思うけど気になるしな。


「今日はありがとうなマリー。これ、ウチの畑で取れた芋だ。受け取ってくれ。つっても育てたのはほとんどターニャだけどな」

「わあ!ありがとうございますカイトおじ様、ターニャ!わたくしからもお芋のお菓子をお渡ししますわ」

「おー!マリーありがとう嬉しい!!」

「まるで芋の交換会だな」


「「「あはははははっ」」」


 和気あいあいとした空気の中でプレゼント交換を終えて、最後の別れの挨拶となった。

 ここでエルドがマリーに抱き付きに走った。


「うぇーーい、マリーお姉ちゃんまたねー!」

「あらまあエルド君、また来て下さいね~よしよし♡」


 マリーに頭を撫でられニヤニヤ笑うエルドを見て、ターニャは少しだけ憤った。


「またエルドの奴!……馴れ馴れしすぎだってば」

「ははは、でもああいうとこ昔のお前にそっくりだぜ?」


「えっ!?…………う、うーん……」


 ターニャは眉をしかめて恥ずかしがっていた。

 そして挨拶を終えて笑顔で帰ってきたエルドの両頬をつまんだ。


「うぎーなんだよぅ、お姉!?」

「うっさい、なんとなくよ」



 ――ドゥルルルルーッ。


 そこからまた三人でヤマッハに向かって走り出す。その途中で俺はもちろんカブから質問された。


「カ、カイトさん!あのギガーブ、乗って正直どうでしたか!?」

「うん、悪くないぞ」

「ギャハアァアア!?」


 何だその反応は!?

 まあ強力なライバルになりそうなバイクが出てきて戦々恐々としていることだけは理解できるが。


「つってもほんのちょっと乗っただけだから実用で使えるかどうかまでは分かんねーぞ?」

「で、ですよね!?」


 そうフォローすると、カブはホッとしたような顔を見せた。やれやれだな。



 再びヤマッハに入り、ギルドに行く前に今度はミルコとイングリッドが住んでいる家を覗いてみた。


 レンガ造りのまあまあの大きさの家で、ここは昔と変わってないな。



 ――コンコン。


「おーす、ミルコいるかい?」


「あ!カイトさん。どもっす」


 大きめのノック音を立てて呼ぶと、すぐにミルコが顔を見せた。

 相変わらずの爽やかな笑顔だ。


「ふゃあああっ……」


 同時に家の奥から子供の声も聞こえてきた。ここんとこ俺の周りで子供産まれすぎて誰が誰やら分かんねえや。


「おう、もうじき貿易輸送だな。通りすがったから体調どうかなと思ってよ」


「ははっ、バッチリっすよ!セローの整備も完璧っす」


 笑顔でそう答えるミルコに、俺はさっきの話を振ってみた。


「なあお前、王城の輸送団がまた貿易輸送を再開するって話、イングリッドとかに聞いたことないか?」


「え!?何すかそれ?いや、初耳っす」


 やはりまだマリーの家のように王城の関係者にしか出回ってない情報のようだな。


「そうか分かった。もしかしたら俺達とはまったく関係ないことかもな。じゃ、また3日後に集まるぞ」

「ういっす!お疲れっすカイトさん」



 そんな感じでミルコと別れギルドにつくと、新しく建てられた倉庫用の別館の入口で何やら4~5人の人間がたむろしていた。なんだ?


 不思議に思っていると、すぐにあのバイクが目に飛び込んできた。ギガーブである!


「うおっ!ギガーブが停まってるぞカブ!?」

「ええっ!?」


 さらに王城で見たことのある紋章が目に止まり、さてはこいつらが例の輸送団だな、と直感で分かった。


 その現場にはセシルもいて、何やらそいつらの代表者みたいなやつと話をしている。行ってみよう。



「おーっす」


 セシルに横から近づいて声を掛けると、セシルはこちらに気づき手を上げた。


「あ、カイト。ちょうど良かった、今度のゼファールへの貿易輸送なんだけど王城の輸送団も同行するみたい」


 そう言ってセシルは輸送団の代表者らしき人物に手を向けて紹介した。

 軽めの鎧をまとった大柄なその男は、少しニヤ付いた表情で俺にこんなことを言ってくる。


「私は輸送団団長兼、王城護衛隊副隊長のビスマスク。スーパーカブ油送のカイト社長でよろしいかな?」


「ああ、そうだけど。輸送団が同行するってのは今初めて聞いたぜ?貿易輸送は3日後だってのに、ずいぶんいきなりだな」


 するとビスマルクは誇らしげにギガーブの方を向いて、俺に紹介するようにシートに手をついた。


「ふふ、数年前から貿易輸送はあなた方にお任せしていたが、元々それは我々輸送団の任務。そのための新しい二輪車がこのギガーブなのだ!」


 知ってる……というか今さっき乗ってきた。言わないけども。

 さらに自信満々にビスマルクはこう話した。


「このギガーブがあれば、すぐにでもあなた方スーパーカブ油送に代わり大量の物資を他国間で運ぶことが可能となるのだ!」


 どこか陶酔したような話し方でギガーブのシートをポンポンと叩いている。

 ずいぶんギガーブを信頼してるみたいだな。


「しかしジクサール公爵様は何やら懸念があるらしく、まずはあなた方と同行するようにとおっしゃられた」


「お、おう」


 俺は気になっていたことを聞いてみた。


「そのバイク……ギガーブっていつ完成したんだ?」


 ビスマルクはニヤついたまま笑顔で答える。


「つい最近だ。3〜4日前の話だな」

「じ、実際に物を乗せて長距離輸送したことは?」

「もちろんない!」


 ……いやそれ、まだ試作品段階なんじゃねーか?


 俺の心の中では嫌な予感が次々と吹き出していた。


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