507 エルドと一緒に
エルドの乗る緑カブを追いかけていく俺とターニャだったが、この距離がなかなか縮まらない!
「ゴルァ!!エルド、止まらんかーい!!」
「止まれーエルドー!!」
俺とターニャは全力で追いかけながらエルドに停車を呼びかけるが、当のエルドはというと――もの凄い笑顔でこちらを振り向いてこんなことを言い出した!
「お父!お姉!このままたんけんに行こう。たんけん!!」
なんか探検などと呑気なことほざいてやがるな。その前に止まらんかい!
カブもタブレットに赤色灯を光らせながらエルドに警告した。
「エルド君、探検は良いですけど一旦止まって下さーい!左の路肩に停めて下さーい!速度違反でーす!」
「えー、もっと走りたいのにー」
エルドは渋々ながらスピードを緩めていった。
……。
「このボケェ!!」
「ぎゃああああー!」
俺はカブを降りてきたエルドをヘッドロックで締め上げた。
「あんだけ言ってただろうがお前ぇ!」
「ぎゃああああ痛い痛い痛いー!!」
コイツは悪意はない。ただ冒険心と好奇心が恐怖を上回っている。その結果とんでもない行動に出るから見ていると非常に怖い。
子供らしいといえばそうだが、時速80キロ以上のスピードが出るカブに乗せるとなれば今みたいに厳しく接せざるを得ない。
「ぎゃああああん!!おねえーっ!!」
俺に怒られたエルドは大泣きしながらターニャの方に走っていった。
そしてターニャに抱きついて腹に顔を埋めてわんわん泣いた。
こうやって俺に怒られたときいつもエルドはセシルに慰めてもらうのだが、今はいないのでターニャがその役を担っている。
「よしよしエルド。でもあんたが悪いよ。おじに心配かけちゃだめでしょー?」
ターニャはエルドの頭を撫でながら優しく諭している。血は繋がっていないが立派にお姉ちゃんをやってくれて俺は感心するのだった。
「ぅゔゔゔー!……ぼ、僕……変なうんてん、してないのにぃー!わあああん」
「ゆっくり走れっつっただろーが!初乗りで90キロでぶっ飛ばす奴がいるか!?コケたら普通に死ぬぞ」
「うひいぃぃぃん!うっ、うっ、ぐすん、ぐすん……」
しばらくエルドが泣き止むまでしばらく後ろを向いて待つことにする。
するとカブが不気味な笑顔を貼り付けて俺に聞いてきた。
「カイトさん!もしかしてカイトさんも小さい頃はあんな感じだったんですか!?慎重なカイトさんとインドア派のセシルさんの子供とは思えませんね!?」
俺は気まずそうな苦笑いを浮かべた。
「い、いやあ……俺もガキのころはこんな感じだったんだよ実は。しょっちゅう親父にゲンコツ食らって泣いてたわ、そういえば」
「い、意外ですー!」
「その反動で今は石橋を叩く性格になっちまったけどな」
――ガロンガロンガロンガロン……。
おっと、キャットの中型車が来たぞ。5年前と比べて車の数も増えたもんだぜ。
俺はターニャとエルドに道の脇にカブを寄せるように指示した。
エルドはまだ赤い顔をしながらも、自分の緑カブのサイドスタンドを上げてゆっくり道端と押していく。取り回しは一人で出来てるようだな。うん、偉いぞ。
――ガロロロロロォォォォン……。
ちなみに、今通過していったキャットの中型車にはランドクルーザーのようなブロック状のゴムタイヤが履かれていて、荷物を乗せるコンテナはミスリリウムという軽くて丈夫な金属が使われている。昔より車重はかなり軽くなり、機動性も向上しているようだ。
この世界の車は、燃費も出力も5年前の無骨な大型車とは段違いに良くなっている。
あと、バッテリー等の電気技術も進歩してきて、このスズッキーニでは3年前にガソリンエンジン車が完成していた!
しかし輸送に使うトラックのエンジンはやはりディーゼルだ。
大きなパワーが必要な車はディーゼルエンジンの方がいいと、俺が技術開発院のチャップス達に助言してそうなったらしい。役に立てて良かったぜ。
しかし少しずつだがこの国の技術も発展してきてるな。俺はひそかにワクワクした。
「……」
エルドが少し恨めしげな表情で俺を見ている。あ、あんまり怖がられ過ぎてもアレだな……よし!
「おうエルド」
俺が手招きすると、エルドは無言で走ってきた。
そんなエルドの頭に手を乗せて俺は笑顔でこう言った。
「お前、探検したいんだろ?どこに行きたい?」
さっきまでの泣き顔が嘘のようにパアッと明るくなり、エルドは俺の前で飛び跳ねた。
「行きたーい!!行こう行こう!お父」
ターニャがちょっと呆れたように笑ってエルドに尋ねた。
「エルド、ホント立ち直り早いね。あんたどこ行きたいの?」
エルドはいざそう聞かれて頭を抱え始めた。
「う、うーん……ど、どっか……」
あ、コイツさてはカブに乗りたいだけで目的地とかどうでもいいって感じだな!?
気持ちは分かるが。
「なんだそりゃ。せっかくお前のリクエストに答えてやろうってのによ」
「……あ!じゃあカターナは?僕、剣見たい剣!」
「あそこは治安が心配だからダメだ」
「うーんうーん……」
ここでターニャが手を上げた。
「じゃあおじ。西区のマリーの家行こう?」
「おお、まあ遠すぎないし、マリーの顔見に行くのもいいか」
「うん!じゃあ決まりー。マリーのことだから多分芋のお菓子出してくれるよ!?うふっふっ」
「僕、マリーお姉ちゃんすき。ナデナデしてもらうー!」
お、お前ら欲望丸出しじゃねーか……!?
俺は頭を掻いてフーっと一息ついた。
ま、これから数日後は貿易輸送で重労働だし、息抜きも必要だよな。
「よっしゃー、じゃあ行くか。目的地はマリーの家だ!」
「ういーー!」
「うぇーーい!」
……というわけで、俺達はエルドを連れての初のツーリングに出かけた。