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506 やべえガキだぜ……


「もーエルド、暴れたらまた転ぶよ!?」

「うひひっ!おねえ、こっち来てこっちー。いぇーーい!」


 自宅の庭を元気に駆け回る子供ガキ二人をチラッと眺めながら、俺はカブの整備を終わらせた。


 二人の子供とはもちろんターニャとエルドレッドである。


 寝る・食う・泣く・這いずり回る、しかできなかったエルドも今や5歳児となって毎日鬱陶しいぐらい元気でいる。


 そして10歳になったターニャはかなりお姉さんっぽくなった。

 背も伸びて体も女っぽくなり、ちゃんと出るところは出ていて俺はその成長を喜んだ。

 あと自立心が芽生えてきたのか最近やけに反抗的で、俺ともよくと衝突している。

 だがこれは成長している証で悪いことではない……ハズだよな?



 そしてこの俺、山村カイト49歳。


 歳を重ねて一気に体力が衰える――かと思いきや、今のところ普通に元気だな。

 ぶっちゃけ日本で働いてた30代のころよりも元気かもしれない。やっぱ会社勤めのストレスってのは精神面だけでなく身体的にもキツかったんだな、と改めて思った。



「カイトさん!今日はついに()()()ですね……!?」


 メンテが終わったカブが、タブレットに冷や汗をかいたイラストを表示させながら恐る恐る呟く。


 ちなみにこのカブに至っては5年前とまっっっったく変わらない。

 この間オイル交換やチェーン交換はおろかエンジンを2回載せ替えているが、いつだったか本人の言った通り精霊であるカブの魂はそのままのようだ。



「ああ、今日はエルドをカブに乗せる。約束だからな」


「いぇーーい!やったー。おとう、早くカブ乗らせて乗らせて!」


 エルドは俺の周りで飛び跳ねてはしゃいでいる。

 しかし俺の心中は穏やかでない。カブも、おそらくターニャもそうだ。


 なぜかというと、エルドが()()()()()()運転をするかもしれないからだ。



「おいエルド、確認するぞ?」

「うん!何、お父?」


 俺は真剣な目付きでエルドを見下ろした。

 エルドはキラキラした目を俺に返してくる。

 早く乗らせろ!と訴えるかのように……。


「前も言ったが、絶対に変な運転はするな!シートの上に寝たり立ったり、急旋回したり、スピード出しすぎたり――」


「崖からジャンプするのは?」


「ダメに決まってんだろアホか!?そんなもんお前もカブもブッ壊れるわ!!」



 以前、俺はターニャの時と同じように、エルドがある程度背が伸びたのを見て自転車に乗らせてみることにしたのだ。


 そして、割と早くにコツを掴んだかと思うと毎日のように子供用自転車に乗り回り、みるみる運転は上達していった。


 そこまでならいいのだが、やがてコイツはスリルを求めてドラフトしたりウイリーしたりと曲乗りまで始めやがった!


 その結果、畑や川に突っ込むわ、崖から吹っ飛んで血だらけになって帰ってくるわ、同年齢のターニャのときの100倍ぐらい俺やセシルに心配をかけていたのである。


 怖すぎてとてもカブになんか乗せられないということで、今までエルドには乗ることを禁止していたのだ。


 まったく誰に似たんだ……いや、昔の俺にそっくりじゃねえか。遺伝とかいう継承システムにはホント感心してしまうぜ。まったく。



 ここで、ターニャがエルドを指差しながら真剣な顔で俺に警告してきた。


「おじ、エルド絶対変な運転すると思うよ?本当にカブに乗せていいの?」


「ま、まあずっと乗せねえ訳にもいかないしな。ウチの家に生まれた以上……」


 ターニャは、フーッとため息をついてエルドの両肩に手を乗せ、真っ直ぐエルドの目を見つめた。


「いいエルド?絶対にこの前みたいに怪我したらだめよ!?」


 エルドはガッツポーズを決めながら笑顔で答える。


「うん!だいじょーぶだいじょーぶ、お姉。僕うんてん上手いから!」


 それフラグじゃねえだろうな?



 ……まあそんなこんなで話は進み、俺達は一旦本部へと向かうことにした。


 俺がカブ、ターニャがベージュカブに乗り、カブの荷車にはエルドが乗っている。


 これがいつもの俺達の移動スタイルだ。


 荷車を見るとエルドがニコニコしてこちらを見返してくる。ふっ、こうして見るとまだまだ可愛い子供だな。



 本部に着くとメッシュとシャロンの兄妹がいた。というより今は仕事がない日は二人しかいない。


 ちなみにガスパルとレジーナは俺の予想通りくっ付いて今ではヤマッハの家に住んでいる。

 子供が三人もできて世話に忙しいらしい。頑張れよ。



「あ、ついにエルド君がカブに乗るんだ?」

「うん!僕も今日からスーパーカブゆそうの一員はだよー!あはははっ」


 ニコニコしながらシャロンにそう返すエルド。


 本当にカブに乗れるのを楽しみにしてたのが伝わってくるな。



 俺は車庫から緑カブを引っ張ってきた。

 この日のために本社から持ってきていた一台だ。


 エルドは早速やってきて目を輝やかせている。


「ここにカギを入れてな……」

「うんうん」

「お前はまだ体が小さいからセンタースタンドじゃなくてサイドスタンドで停車しろ。こうやって出すんだ」

「うんうん!」




 そして乗車の準備が整い、エルドはエンジンを始動させた。


 ――ギャギャギャッ、ドゥルルルルーッ!


「うはあぁぁーーっ!?」


 感動したのか変な声を上げるエルド。落ち着け。


「ギアの上げ方とかは前教えたから知ってるな?」

「うん!前に踏むんでしょ!?」

「そう。ブレーキは?」

「ここと……この右足のここ」

「そうだ。よし、じゃあまず1速に入れろ」


 ――カシャッ。


「そんで、そのままゆっくりアクセルを捻っていくんだ」


「う、うん!」


 ――ドゥールルールルー……。


 本部前の広めの道を、本当にゆっくりゆっくりとエルドの緑カブは進んでいく。


 ――ドゥルルルルー。


 あ、あれ?そのまま進んでいくぞアイツ……?


 俺とターニャは慌てて声を上げた。


「エルド!一旦止まれー!」

「どこ行くのエルドー!戻れー!」


 しかしエルドの姿はどんどん小さくなっていく。


「くっ……アイツめ」

「もー!バカァ」


 俺はターニャとほぼ同じタイミングでそれぞれのカブに乗りエンジンをかけた。


「カイトさん!早く追いましょう!!」

「ああ」



 エルドの奴め、捕まえて説教だ!

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