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504 パン……


「カイトさん、そんなお金持ちの人脈ありましたっけ……?あっ!さてはバダガリさんですね!?」


 カブがなぜか嬉しそうにしながら聞いてくるが、ちょっと違うぞ。


「たしかにバダガリは金持ってるかもしれん、だがあそこにいる奴って基本イヴとアイツの二人だけだろ?従業員もいないし、パンを売り捌く卸先としては微妙だな」


「な、なるほど!とすると……あ!」


 そのときカブとターニャが同時に答える。


「マリー??」

「マリーさん!?」


「おう正解!」


 マリーの家は伯爵家らしいからそりゃあもう桁違いに金も持ってるし人も雇ってるだろう。


「西区までは歩きだと遠いけどカブなら余裕だぞサラ」


 サラはやっと少し笑顔を見て頭を下げた。


「あ、ありがとうございますカイトさん」



「ねえカイト、もう一人って誰?」


 そう聞いてきたのはレジーナだ。


 そう、俺が知っているもう一人の金持ち……それはここの領主の()()()である。


「カノンだ!」


「えっ!カ、カノン……ってヤマッハ(ここ)女領主のカノン!?凄っ!カイトってただのおっさんに見えて実は凄い人なんじゃない!?」


 おっさんで悪かったな。

 俺に羨望の眼差しを送っているレジーナに、カブが自慢げに俺の話を始めた。


「レジーナさん!カイトさんの人脈は凄いんですよ!?ジクサール公爵をはじめ西区のインテグラ家、そしてヤマッハ領主のカノンさんといった名だたる諸侯の方々と交友関係にあります!もはや神です!!」


「おいやめろ、大袈裟すぎて恥ずかしいだろ!」


 俺は照れ臭くて謙遜したが、たしかに豪華な面子だな。

 ま、偶然そうなっただけだけどな。



「じゃあまあここから近いカノンの屋敷から攻めてみっか!」


「ういーー!行こー!」

「は、はい」

「行きましょう!」

「カノンがどんな奴か、この目で確かめてやる。ふふ……」


 レジーナだけはなんか企んでるような顔してやがるな。

 そういやカノンやガーベラといった有名人を一方的に敵視してたなコイツ。トラブルは起こさないでくれよー。



 ――ドゥルルルー、ドゥルルルルー。


 そこからヤマッハの大通りに出て7~8分ほど走るとカノンの屋敷が見えてきた。やっぱりデケえ館だな。



 早速門番に声をかけてみる。


「何者だ!?……あ、スーパーカブ油送の方々でしたか。し、失礼しました!」


「いや、そんな恐縮しないでくれ。領主のカノンに商談を持ちかけたいんだけどな」


「承知いたしました。では中へお入り下さい」



 ターニャも含めて俺達は全員スーパーカブに乗っていたので、すんなりと中へ入ることができた。ウチの会社のネームバリューも大きくなったモンだぜ。



 しばらくして館の離れにある応接室のような部屋に通されてしばらく待つと、扉がバーンと音を立てて開きカノンが姿を見せた。


 カノンは部屋に入ってきて俺の顔を見ると、他の奴らには目もくれずにふんぞり返ってソファーのような椅子に座り、質問を投げた。


「あら、セシルの旦那が今日は何の用?」


 相変わらず全身から偉そうな雰囲気を醸し出してるなコイツは。


「いや、用があるのは俺じゃねえんだ。このサラだ」


 俺はサラの肩にポンと手を乗せて、カノンに要件を話すようにうながした。

 カノンがゆっくりとサラの方に目線を移す。


「ふうん、何?」


「え……!?あ、あの……えっ……」


 するとサラは動揺し始めた。ん?どうした?


「なに?」

「え、えっと、あの……す、すいません!あ、あのパ、パン……を、その……」

「はい!?ちゃんと喋ってくれない?アタシそんなに暇じゃないから」


 ビクッとしてさらに萎縮するサラ。こりゃアカン。


「お前が怖い顔で睨むから緊張しまくってるじゃねーか。やさしく聞いてやれよ」


 俺はサラの前に出てカノンに茶々を入れつつ場をなごませようとした。


「フン。別に何もしてないでしょ?とにかく要件を言ってくれないと話になんないわ」


 もっともだ。だが、話すのが苦手な奴がすぐに流暢に喋れるもんでもない。しゃあねえ、代わりに話すか。



「このサラはウチの会社の人間だったんだけどよ、最近独立してパン屋を始めたんだよ」

「ふうん。で?」


 ここは素直に経緯を話そう。


「そのパン、食材にかなりこだわっててよ。俺もさっき初めて食ったけどめっちゃ美味かったんだ。ただ良い材料使ってるから値段も高くなっちまってよ。町で売ってても庶民にゃ手が出なかった。だよな!サラ?」


「は、はい……」


 俺はサラに確認を取ったあと、再びカノンの方を向いた。


「だから、金持ってて買ってくれそうな人間を探してたら自然とここに足が向いたんだ」


 カノンは俺達から視線を外し、斜め上を見上げて思い出すように話した。


「パン……ねえ。私、結構好きなんだけど」


 お!これは脈ありでは?

 だが、笑顔で少し眉を吊り上げカノンはこう言った。


「ウチ、料理人いるからわざわざあんた達から買う必要ないの」


「あー……」


 俺は口を開けたまま納得してしまった。そうだよな、こんな屋敷なら専属シェフの一人ぐらいいるわな。ここでちょっと皆の顔を見回してみた。


 サラは下を向いてお通夜モード、レジーナの奴はなんか借りてきた猫みたいに大人しく直立不動になってやがる。おい!いつものウザいぐらいの元気さはどうした!?


 しかしここで予想外の奴が声を上げた。



「サラのパンはおいしい!一回食べてー!」



 カノンをしっかりと見つめて訴えたのは意外にもターニャだった!うおっ。

 体をほとんど動かさず、目だけ動かしてターニャに視線を合わせるカノン。


「なあに?あんたカイトの子?」


「うん!ターニャだよ。将来せいじかになる!そんでおじを応援してる」


 まっすぐカノンを見つめて大真面目にそんな宣言をするターニャに、俺は滑稽さというか微笑ましさのようなものを感じてしまった。



 カノンは子供をからかうように少し笑いながらターニャにこう返した。


「政治っていろんなこと知ってないとなれないのよ。知ってた?」


「うん!ターニャ、はくしき!」


「本当かよお前!?」


 俺は思わず突っ込んでしまったが、そのやり取りがカノンにはウケたようで割と本気マジで笑いだした。


「あっはっは、なによこの子。面白いわね……あははっ」


 カノンはそんな感じで上機嫌になったのか、サラに告げた。



「分かった。どんなパンか試食してあげる。今から作ってみて」



 おお、チャンスだ!

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