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503/520

503 営業不振!?


「平和だな」


 朝、俺は家の庭に出て大きく伸びをした。


 犯人に刺されて以来、俺達は特に変わったこともなく安定した日々を送っている。



「あ、そっちいったら落ちるよーエルド」


 玄関からターニャの声が聞こえてくる。


 そう、最近エルドがハイハイしてそこら中這い回るようになったから子守役のターニャも大忙しだ。



 玄関に入ると、停めているカブが目に入った。


 カブはじっと玄関先のエルドを見つめているようだ。

 エルドも四つん這いのまま、不思議そうな顔でカブのタブレットに映る()を見つめていた。

 そしてエルドはカブのフロントフェンダーを手でパシパシと触った。


「お前エルドに気に入られたんじゃね?」

「あ、カイトさん、そうかも知れませんね!僕が気になるなんてさすがカイトさんの子供です!デュフフ……」


 照れたように笑うカブだった。



 そうかと思うとエルドは急に方向転換し、ターニャの方へ向かって這っていく。


「エルドーこっちこっち」


 ターニャは脚を伸ばして廊下に座り、エルドを誘うように笑顔で手招きした。


「えへへーっ、へっ、うふふー」


 そんなターニャに向かってエルドは這いずっていき、やがてターニャのお腹に顔を当てて止まった。


 満足そうに微笑むターニャはエルドを見ながら聞いてきた。


「よしよし……ねえおじ。エルドもそろそろ普通のご飯食べれるの?」

「いや、まだ歯も生えてないから食えねえぞ。あと2、3ヶ月したら、ふやかしたパンとか柔らかいもんを食わしてやろう」

「ふーん、そっか。早くエルドと芋食べたいなー」


 相変わらずの芋好きだなコイツは。あ、そういえば……。



 パンのことで思い出したが、サラって今どうしてんだろな?

 たしか黄色カブを使ってパンの露店をやるって話だったような気がするが……。


 ちょっと面白そうだから行ってみっか!




 というわけで俺はエルドを背負ってターニャと一緒にカブでヤマッハへと走った。


 しかし、俺としても意外だったが本部から同行してきた奴がいた。レジーナだ。



「ねー、レジーナはなんで一緒に来たの?」


 ハーベストベージュカブに乗ったターニャが、ベージュカブに乗るレジーナに聞いた。


「なによターニャ。私が来たらダメなわけ!?」

「んーダメではない……でもサラの邪魔したらダメだよー?」

「しないっての!まったく生意気な奴ね」


 こいつら仲良いけどしょっちゅうケンカしてんな、はは。


 ターニャはレジーナにはとりあえず反発したいらしく、レジーナは大人のくせに子供のターニャにもストレートに感情をぶつける。まるで姉妹みたいだ。

 俺はそんな二人を見て笑った。



「でもカイトさん!サラさんて一人で商売してるんですよね!?大丈夫ですかね、その……誰かに絡まれたりとか!?」


 カブが聞いてくるが、多分大丈夫だろう。


 大手の運送会社であるキャットとサガーとの協定で、スーパーカブに乗ってる人間は彼らに守られるようになっている。

 もちろんサラも黄色カブに乗っているので、少なくともヤマッハ内では変な事件に巻き込まれることはないだろう。



 ――ドゥルルルルーッ、ドゥルルルルー。


 俺は一応、サラが独立する前に商売する場所を聞いていた。

 ヤマッハの食材露店から少し離れた場所のようだが人通りはそこそこあるな。


 ――ん……もしかしてアレか!?


 サラの黄色カブがかろうじて目につき、俺達はその前に停まった。

 す、すげえ目立たねえ店だな。



「おーうサラ!久しぶりだな」


「……あ、カイトさん……」


 顔を上げるサラ。あれ?なんか表情が暗いぞ!?


「ど、どうだ?商売の調子は?」


 恐る恐る聞いてみると、サラは泣きそうな顔で現状を話した。



「カイトさん……パンが売れないんです」


 えっ?


「お客さんが来ません。なんででしょう?」


 俺は再び恐る恐る聞いた。


「そ、それは、その……ちょっとそのパン味見していいか?」


 パンがマズいんじゃねーか?とは言えないぜさすがに。


「あー!私も味見したい!!」


 パンが食えると聞いて、やはりターニャも黙ってなかった。


「ふっ、私も試食してあげる。でも辛口よ、その方があんたの為になるでしょサラ」


 レジーナは相変わらず上からだな。ま、悪気はないんだろうが。


「皆さんどうぞ。あとで遠慮なく感想聞かせて下さい」



 ……。



「おお!普通に美味いじゃねーか!!」

「うん!うまーい」

「へぇ、食材屋のパンより絶対美味しいじゃないサラ。なんでこれで売れないのよ?」


 サラはこう答える。


「値段を3倍にしたんです」


 俺は吹いた。高級食パンか!?


「ゴホッ!……な、なんでそんな価格設定にしたんだよ!?」

「高級路線で勝負しようと思って……」

「それ、路線変更した方が良くねーか!?」



 俺達は顔を見合わせ、何とも言えない表情を浮かべた。


「実はそろそろ貯金も尽きそうなので、諦めようかと思ってます」


 顔に暗い影を落とすサラ。なんか助けてやりたいが……。


「しかし値段3倍の高級パンなんて庶民にゃキツいだろ?価格を下げると採算が取れない感じか?」


「は、はい。それなりに良い材料を仕入れているので」


 なるほどな。よし!


 俺は手を叩いてサラに言った。



「サラ、値段も材料も変えられないんだったらよ、売る相手を変えなきゃダメだろ?」



「売る相手!?」


 ターニャとレジーナも反応する。


「おじ!誰!?」

「ふふ、アホみたいに金持ちの知り合いが二人いるぞ。一人はお前も知ってる奴だ」


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