502 もう安心だぜ?
さて、コイツを王城に連れて行くか。
俺は漫画のようにボコボコになった犯人の男をカブのリアボックスに詰め込んだ。
決着がつくのを確認したケイが駆け寄ってきて、険しい顔で犯人を眺めてポツリと呟いた。
「おじさんにあんなに助けてもらっといて後ろから刺すなんて……とんでもない悪人だね!」
俺は半ば諦めたような笑い方をした。
「まあなー、世の中には罪の意識が全くない人間ってのがいるもんだ、どこの世界にもな。つーか悪いなケイ、俺の故郷の奴が迷惑かけて」
「ううん、こっちは全然大丈夫だよ!それよりおじさんが無事で良かったー」
ケイは笑顔でそう言ってくれた。いい奴だぜ。
それから俺はスパイダーのボスの時と同じように王城に男を引き渡しに行った。
謁見の間で玉座に座った王は、相変わらずのステレオタイプなザ・王様だった。
「おお、カイトよ……また罪人を捕まえてくれたか。素晴らしい、褒美をやろう」
「いえいえ、別に何もいりませ――」
そう言いかけたとき俺はふと思い出した。
バダガリが言っていた武道大会に魔法使いが出るという話を。
「あ、褒美とかはいりませんけど、一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「自分の住んでる町の武道大会に魔法使いってのが出るらしく、何かこっちの世界と繋がりがあるんじゃないかと思いましてね」
「魔法使い?知らんな。何かあればケイをそちらの世界に遣わせよう」
「ありがとうございます。じゃあ俺達はこれで……」
そういったやり取りののち、犯人を引き渡し俺とカブは王城を出た。
その帰り道で、カブは不気味なものでも見るかのような顔をタブレットに映していた。ん?なんだよ??
「その……失礼ですけど、カイトさんが敬語使ってると変な感じで気持ち悪いです!なんか不気味ですー!」
「おまっ、ほっとけ!俺だって敬語なんて使いたくねえわ!」
かしこまった話し方すると、働いてたときの上司を思い出してムカついてくるのだ……くっ、まあいい、どうせ王様とか滅多に会わないだろうし。
気を取り直した俺は世界樹の方角に向けてカブを走らせた。
ま、何はともあれこれで一件落着だ。さっさと家に帰ってセシル達に報告して、ターニャとエルドの相手をするぞ!
最後に俺達は世界樹の監視小屋まで戻り、ケイに別れの挨拶をしようとした。
あ、そうだ。一応ケイにも聞いとこう。
「えっ!?カイトおじさんの世界に魔法使い?いやいや、そっちの世界じゃ魔法使えないじゃん。この私でもスズッキーニじゃ魔法使えなかったんだし。世界樹の木の実があれば別だけど、スパイダーの件で世界樹の周りは厳しく警備されることになったしね」
「うーん、まあただのホラ吹きだとは思うけど、世界樹の穴を通れば一応行き来できちまうからちょっと気になってな」
「も、もしカイトおじさんの世界で魔法が使えちゃったら、やっぱりヤバイの?」
めっちゃヤバイぞ!
俺はケイにその理由を力説した。
「ケイはまともだから大丈夫だけどよ、もしスズッキーニで魔法使える奴が今捕まえた犯人みたいな輩だったら大量虐殺が起きかねないだろ!?」
「カイトさん!それはフラグですか!?」
「違うわ!」
カブが横から呑気な顔で口を挟んできたが縁起でもねーぞ。
しかしいくらネガティブな俺でもさすがに考えすぎだなこれは。ま、大丈夫だろう。
「なんかあったらケイ、お前を呼びに行くからよ。じゃあな!」
「うん、呼ばれないことを祈っとく。またねカイトおじさん!」
……。
…………。
そして俺達は家の前に帰ってきた。
「おーいカイトォ、カブ!?」
なんかガスパルの声が……そうか、二人とも待っててくれたのか。
「ターニャちゃんがソワソワしてるっすよ?」
今度はミルコの声だ。俺は起き上がると、ターニャが突撃してきた。
「おじ!おかえりー!!犯人は!?」
俺は二の腕をぐっと曲げてポーズを取って笑顔で答えた。
「ふはは、ぶん殴って王様に突き出してやったぞ。あっちの世界じゃ俺とカブは無敵だ!奴はずっと牢屋の中でこっちにゃ来れないからもう安心だぞ」
「ういーー!つよい。さすがおじ!!」
バンザイしながら俺の方に倒れてくるターニャを抱き上げて俺はそのまま踊った。
「でもカイトさん。犯人ってカイトさんの故郷から来たんすよね?また来たりとかは……」
俺はハッとした。
「あっ、そうそうカブ!」
「わ、分かってますぅ~。次回から転移時に余計な人がいないか感知するようにしますぅ~……」
弱ったような顔を見せて反省の弁を述べるカブだった。
「おう、次回から頼むぜ。俺も念の為見回りするわ」
……さて、そういうわけで今回の件はなんとか落ち着いたのだった。
夜になって俺はターニャと一緒にエルドを背負ったセシルを出迎え、事の顛末を話した。
「あーよかった……」
胸に手を当てて本当に安心したようにため息をつくセシルだった。
ターニャも横からセシルを励ます。
「セシル大丈夫、おじはカブがいれば無敵!」
いやそれはあっちの世界での話だぞ……ま、いっか。
その日は皆で夕食を食べ終わると、ターニャはちょっとだけハイハイしながら動けるようになったエルドを見守っているうちに一緒に眠ってしまった。
「よっと、ガキんちょ二人のお眠りだ」
俺はターニャを2階のセシルの部屋のベッドへ運び、エルドと一緒に布団を掛けてやった。
しばらく自室で今後のことをぼやーっと考えていると、ノックの音が聞こえてセシルを部屋に入れた。
「眠れないのか?」
「ん……」
背を向けたまま机に座る俺に構わず、セシルはゆっくりと歩いてベッドに腰をかける。お!このパターンは……。
俺は笑顔で机を離れ、ベッドのセシルの隣に座る。
今更だが背え高けえなコイツ、俺より10センチぐらい高いぞ。でも座高は俺とそんなに変わらないな。
やがてセシルはゆっくりと気持ちを吐露した。
「……今回は、本当に怖かったよ。カイト」
「おう、だろうな。刺された俺もちょっと怖かったぞ?」
暗くならないように少し笑いを取るような言い方で返したのだが、セシルは割と深刻だったようで少し涙声になっていた。
「カイトにいなくなられたら……困るから、いろいろと……」
セシルが横の俺に少しもたれてきた。お互いの肩が密着している。
俺はセシルの背中に手を回した。
「ありがとうよ。うん、大切に思われてるってだけで、まあ、救われるぜ」
間近でセシルの顔を正面から見据える俺。
しばらくその状態が続いてから、セシルはニコッと笑って後ろに倒れ、仰向けにベッドに倒れ込む。
そして両手を前に伸ばし、俺の目を見つめ「来て」と合図をする。
本能のままセシルに覆いかぶさるように俺はその体に抱きついて絡み合う。
お互い、久しぶりの熱い夜だった。